夕星 5
最後に出されたデザートを食べながら、イルカ先生が仲居さんと嬉しそうに話していた。
「あ!すっごい美味しい!甘い!」
「でしょう?地元の特産物なんですよ。日持ちしないからここでしか食べれないんです」
「そうなんですか。お土産にしようと思ったのに・・」
「それならお菓子に加工したものが売ってますよ。有名なのは清水屋のゼリーで果肉がたっぷり入っていて里の者にも人気なんです。この宿を出て右手に歩いていくと赤い屋根の建物があるからすぐに分かると思います。よろしければ行ってみてください」
「はい、ぜひ!」
しゃくしゃくとスプーンで果肉を掬いながら相槌を打つイルカ先生に仲居さんは饒舌になった。
里の観光スポットを次々上げて、イルカ先生を喜ばせる。
さすがイルカ先生、ガイドブックいらず。
イルカ先生が里の情報を集める中、オレはと言えば縁側に立ち、果物の匂いから避難していた。
一見椰子の実のように見える果実からは歯が浮きそうなほど甘い匂いがしている。
それを旨そうに食うイルカ先生は見ていて微笑ましいが、匂いだけで胸焼けしそうになっていた。
外の新鮮な空気を吸いながら、聞こえてくる水の流れに耳を澄ます。
あと数分後のことを思い浮かべて、食事中に出た冷酒を持ってきてくれるように頼んだ。
「あれは地酒ですか?」
「ええ、――」
ふむふむと仲居さんの話に頷くイルカ先生に、早くと思う。
――早く、二人きりになりたいよ。
いつまでも話の途切れない二人にむすっとした。
「明日のお祭りには行かれますか?」
「えっ!お祭りがあるんですか!?」
「ええ、西の神社の境内で。小さなお祭りですが屋台も出て、夜は打ち上げ花火も上がるんですよ」
ぱあっとイルカ先生の表情に花が咲いてますます面白くなくなった。
もしかしてこの仲居、イルカ先生に気があるんじゃないだろうか?
「カカシさん、行きましょう?」
「ええ、いいですね」
表面上にこやかに接しながら、むくむく独占欲が湧き上がる。
これ以上話すなら仲居を引き摺り出す、と物騒なことを考えていたら、その仲居が思わぬことを提案した。
「よろしければ浴衣をご用意出来ますが・・、いかがいたしましょう?」
――えっ!?
「うーん・・、浴衣は別に――」
「着ます!ぜひお願いします」
「えっ、カカシさん着るんですか?」
「せっかくだから着ましょうよ」
「でも俺、浴衣なんて子供の時しか着た事無い・・」
だから見たいんじゃないですか。
「それに明日はいろんなとこ行きたいから、浴衣だと動きづらいですよ」
「夕方に一旦帰ってきて着替えたらいいですよ。――と言うわけでお願いします」
「かしこまりました」
オレに言いくるめられるイルカ先生を面白そうに見やって仲居さんが去っていた。
お酒を持って戻ってくるまでの時間を計算しながら部屋に戻る。
「オレのも食べていーよ」
嬉しそうに頷いたイルカ先生を横目に風呂に入る準備をした。
備え付けの浴衣とタオルを出して下着の替えを用意する。
・・そういえば、コレも浴衣だ。
白地に旅館の名前の入った浴衣に考えた。
初めて目にするイルカ先生の浴衣姿がコレだと風情もへったくれもないような気がするが、――コレは別と位置づけた。
だってコレはパジャマだ。
明日はもっといいの着てもらう。
シブくてカッコイイのを。
気に入ったのがなければオレが買いに行く。
「あっ、カカシさん、俺がします」
「いーよ、いーよ。ゆっくり食べて」
急いで口を動かし始めたイルカ先生に笑って、ぽんぽんと頭を撫ぜた。
「おいし?」
「はい!・・カカシさんも食べますか?」
果肉を掬ったスプーンを遠慮がちに勧めてくるイルカ先生に苦笑した。
「匂いだけでムリ」
「そうですか・・」
スプーンに乗ってるのが果物でなければ歓迎すべき光景なのに。
手を引っ込めたイルカ先生がしょぼんとするのが気の毒で、
「じゃあ、少しだけ」
えっ、と喜色を浮かべて顔を上げたイルカ先生の顎を持ち上げて唇を重ねた。
「ぅん・・っ」
舌を滑り込ませると咄嗟に顎に力が入り、それを開かせて深く差し込むと、甘い味を舌に感じながら上あごのザラザラしたところや柔らかい頬の内側に思う存分舌を這わせた。
舌をしゃぶって吸い上げるとイルカ先生がビクビク震える。
耳の淵や首筋を撫ぜるとイルカ先生が甘い息を吐いた。
体の奥に火が灯る。
流し込まれた唾液を飲み込み、こくんと動いた喉に更に口吻けを深めると、人の気配が近づいた。
離れない唇にイルカ先生が焦ってわたわたする。
ぎりぎりまでその唇を味わって、襖が開く瞬間イルカ先生から離れた。
繋がった唾液の糸が切れてイルカ先生の唇の上に玉を作る。
「失礼いたします。お酒をお持ちしました」
「アリガト」
銚子と盃の乗った盆を受け取って、果物の皿を渡した。
部屋の中へは入れさせない。
「内風呂のことは聞かれましたか?よろしければご案内いたしますが――」
「あっ、だ、だい丈夫・・、その・・」
さっきまでと違いしどろもどろなイルカ先生を不思議そうに見る仲居さんの視線からイルカ先生の姿を隠すと、用意していた心付けを差し出した。
「女将さんに聞いて見てきたから大丈夫です。今日はありがとう」
にっこり笑うと心得た仲居さんは礼を言ってすんなり下がった。
明日の朝を遅めに頼むと襖を閉めて気配が遠ざかるのを待った。
「勃っちゃった?」
振り返れば、きつく目を閉じて俯いたイルカ先生の横顔が真っ赤に染まっている。
「・・おフロ行こっか?」
肩に手を置くと大仰なほどイルカ先生が跳ねた。
その体にぐっと力が入り縮こまる。
「大丈夫、気付いてなーいよ」
「・・・・・・・」
正座した膝に手をついて小さくなるイルカ先生の体に背中から手を回した。
ちゅっと首筋に吸い付いて抱きしめる。
「気付いてなかったよ」
断言してやれば、イルカ先生の体からほっと力が抜けた。
とは言え、キスに煽られた体は熱く火照って収まりそうにない。
いつまで経っても感じやすいイルカ先生を可愛く思いながら、思案した。
ここで一度抜いてあげた方がいいかもしれないが、オレとしてはおフロエッチが楽しみで、そっちの方でより感じて欲しい。
だけど、もじもじと膝を合わせるイルカ先生に持ちそうもないと判断して、
「腰上げて・・、足崩して・・」
ズボンの前を寛げて腰が浮いた隙に下着ごと下げるとイルカ先生の性器を剥き出しにした。
ここは、あっさりと。
決めてぴょんと勃ち上がったソコに手を絡めて上下した。
「ア・・、カカシさん・・」
すぐにイルカ先生の唇から熱い吐息が漏れて息を乱す。
服の下から手を潜らせて胸に触れると、ぐんと前が硬くなった。
しこりを押しつぶして手の動きを早くする。
イルカ先生の興奮にオレの体まで熱くなった。
「あっ・・は・・っ」
イルカ先生の限界を感じて胸から手を離すと先端を覆った。
汗の浮かんだ首筋に唇を這わせ熱くなった肌を食む。
「あ!・・ああ!」
びゅくっと吐き出された精液を手で受け止めながら首の付け根をきつく吸い上げた。
「ぁっ」
痛みに小さく声を上げたイルカ先生に、癒すように何度もそこを舐める。
唇を離して、深い紅色を目にして久しぶりの満足感を得た。
こんなところ普段なら絶対に痕を付けれない。
「・・・ゴメン、痕つけちゃった。でも帰るまでには消えると思うから。それに見えないところだし・・」
「いえ・・、俺の方こそごめんなさい・・。俺ばっかりしてもらって・・」
密着したイルカ先生の背中にオレの硬いのが当たってゴリゴリ押していた。
はふはふ胸で息をしていたイルカ先生が体を起こして振り返る。
「あの・・俺も・・」
「いい、それよりお風呂行きたい。いこ?」
ちゅっと唇を合わせて強請る。
こくんと頷いたイルカ先生がオレの手にしたものに更に頬を染めてティッシュを引き抜いた。
「す、すいません」
ああ、もったいない。
あっさり拭われてしまった白濁に未練が残る。
いつもだったらアレを塗り込めるのにとイルカ先生の淫らな姿を想像して股間を膨らませた。
だって仕方ない。
食欲が満たされれば次は性欲。
イルカ先生の脱ぎかけた服を脱がして浴衣に着替えるとイルカ先生をフロへ誘った。
着替えをイルカ先生に持たせて銚子の乗った盆を運ぶ。
月の下、カランコロンと響く下駄の音が旅行に来た風情を増した。
オレ達しかいない空間で、何か秘密を分け合ってるような気がして来る。
楽しくって、ドキドキして、里では決して手に入れることの出来ない時間を過ごしているのを実感した。