夕星 2
「じゃあ、約束ネ」
アカデミーの門前でトントンと肩から提げたカバンを突付くと、イルカ先生が頷いた。
にっこり笑う笑顔の向こうに、ほんの少し期待が見え隠れする。
半信半疑でも行く気になってくれてるのが嬉しかった。
絶対行ける様にするからね。
心の中で約束すると、手を上げて別れた。
イルカ先生は職員室へ、オレはそのまま5代目のところに向かった。
「おや、自分から来るなんて珍しいね。ちょうど良かった。お前宛に任務が来てるよ」
上機嫌で差し出された巻物を受け取る前に、
「5代目、再来週あたり4日ほど依頼は受けれませんから」
「どうしたんだい?もう他に任務受けて来たのかい?」
「いえ、イルカ先生と旅行に行こうと思いまして」
その瞬間、空気が固まった。
「・・・悪いね、カカシ。今お前に休まれると困るんだよ」
一瞬の間の後、5代目は言った。
申し訳なさそうに眉を下げながら、巻物をずいっと差し出す。
それをじっと見下ろした。
「4日でいいんです。実はですね、福引で温泉旅行が当たりまして――」
当たり、で5代目の眉がぴくっと動いたのは見ないフリ。
かくかくしかじかと事情を説明して手を伸ばした。
「そういうことなので、よろしくお願いします」
受け取ろうと手の平を向けると巻物が遠ざかった。
イスに座りなおすと巻物で眉間を押さえ、子供に言い含めるように5代目が言った。
「カカシ、分かるだろ?里にも里の事情があって――」
「分かってます。だから3年間、禄に休みも無いまま働いて来ました」
その間、イルカ先生と一度も旅行らしいことをしていない。
春の桜も夏の海も秋の紅葉も冬の雪も、どれも眺めるだけだった。
時間が合えば出掛けて、一緒に景色を見て。
それで帰ってくるのも楽しかったが、ゆっくりと、二人だけの時間を持ってみたいと思わなかった訳じゃない。
里から離れ、仕事を忘れ、二人だけでゆっくりと――。
「それを言われると弱いんだけどね・・、堪えてくれないかい?カカシ・・」
「どうしてですけか?たった4日でいいんです。帰ってきたらその分働きますから」
「お前はそれでいいだろうが・・」
「なんですか?」
ごにょごにょと言葉尻を濁す5代目に痺れを切らした。
「・・・なにもね、帰ってこないと言ってる訳じゃないんです」
これ以上拒むなら、抜けますよ?
暗に脅しを掛けると5代目がキレた。
「ごちゃごちゃ煩いよ!お前はともかくイルカまで連れて行かれるとこっちが困るんだよ!4日もいなくなられたら、この部屋が書類で埋もれちまうよ!」
「そんなこと知るか!それをどうにかするのはアンタの仕事でしょうが!イルカ先生にさせるな!」
「手伝ってくれるって言うんだからいいだろ!」
「見るに見かねてでしょ!イルカ先生の人の好い所につけ込まないでください」
自覚があるのか目に見えて5代目が怯んだ。
この分なら、給料だって払われていないに違いない。
しょうがない人だ。
そういうところは昔から知ってるけど。
「・・・琉の里方面の任務は請け負います。帰ったら書類整理も手伝います。それで行かせてもらえませんか」
譲歩すると、ほっと安堵するのが窺えた。
これ以上争ったって利はない。
バツが悪そうな顔で咳払いすると、深くイスに座りなおした。
今更威厳もなにもないのだが、意地っ張りで勝気なところも昔と変わらない。
「いいよいいよ、それじゃあ楽しくないだろ」
「は?」
「お前、イルカと付き合いだして何年だっけ?」
「3年ですが・・?」
「3年か・・。しょうがないね、今回は新婚旅行だと思って許してやるよ」
「え!」
ホントに!?
嬉しいのと驚いたので、ちょっと浮かれてしまった。
でも聞き捨てならない事を言われたので反撃する。
「し、新婚旅行ならタダで貰った券で行ったりしませんよっ!」
「おや、お前イルカと結婚する気だったのかい」
「!!」
不覚。
イルカ先生にだってまだ言ってないのに。
「ハハハッ、赤くなるなんて、お前も人の子だね」
からかいの視線を避けて、手を伸ばすと巻物が乗った。
「頼んだよ」
「はい」
商談成立。
途中、ちょっと傷つくことを言われたのは気にしない。
* * *
旅行前夜。
何度も荷物を確かめて落ち着かないイルカ先生を宥めて布団に潜り込んだ。
明日はお互い午前中の任務を片付けて、午後から出立する予定だ。
旅行が決まったときのイルカ先生ったらなかった。
受付所の廊下で会って、休みが取れたと報告してきたイルカ先生に、「じゃあその日で」と旅行の決行を告げると、ぽかんとした後みるみる相好を崩した。
喜びでぴょんぴょん飛び跳ねた後に抱きつかれて、その場で食べちゃおうかと思ったほど可愛かった。
思い出しては何度もニヤけてしまう。
「どうしたの?眠れない?」
腕の中でごそごそするイルカ先生に声を掛けると、赤くした顔を上げた。
布団に入ってから時間が経つのに目はぱっちりで、ぜんぜん眠そうな素振りは見せない。
「なんだかドキドキして・・」
汗で顔に張り付いた髪を撫でて剥がしてやるとくすぐったそうに首を竦めた。
「明日が楽しみです」
何度も聞かされた言葉をイルカ先生が言った。
こんなに喜んで貰えるなら、旅行でも何でももっと早くに行けば良かった。
「興奮して眠れない?」
「はい!」
元気に返事したイルカ先生の体を引き上げて唇を重ねた。
頬に手を添えて強めに押し当てると応えてくれる。
嬉しい、嬉しいと零れるような笑顔で、はむはむと唇を食まれてその気になった。
「少しだけスル?」
「ぇっ・・でも明日が・・」
「大丈夫。軽く、少しだけ・・」
「・・・・」
反論されなかったのをいいことに、体を起こすと引き出しからジェルとコンドームを2つ出した。
枕元に並べると、それを見ていて顔を赤くしたイルカ先生に口吻けする。
開いた唇を食みながら、乾いた体を撫ぜた。
さらっとした背中を撫ぜると脇腹を撫ぜ胸を撫ぜる。
ひっかかった突起を人差し指で弾くと甘えた息がイルカ先生から漏れた。
「センセ、べろ出して」
恐る恐る出てきた舌をぱくりと咥える。
「ふぅ・・んっ・・」
ちゅうちゅう吸い上げながら乳首を捏ねるとイルカ先生の体が戦慄いた。
足の間に膝を入れるとイルカ先生がぎゅっと足を閉じるが、腿に少し勃ち上がったものを感じる。
押し付けるように足を揺すりながら、イルカ先生のパジャマのボタンを外した。
後でお風呂に入る気がないから、ベタベタにしないように唇だけで乳首を弄った。
でも我慢できなくて、少しだけ舌先で舐る。
もどかしげに身を捩るから、下着の中に手を突っ込んで緩く屹立したイルカ先生を揉んだ。
「ひっ・・ん・・」
息を殺したイルカ先生から荒い呼吸が漏れる。
竿を握って上下するとイルカ先生が唇に手の甲を押し当てた。
そんな風に我慢されると、もっとシたくなるんだけど。
その辺のところを付き合いだして3年にもなるというのにイルカ先生は気付いてない。
体を起こして下着ごとパジャマを脱がすと、ふるんと勃ち上がったイルカ先生が飛び出した。
イルカ先生と違ってココはとっても素直だ。
さあっと顔を赤らめたイルカ先生が顔を反らした。
でも気になるのか視線が戻ってくる。
足を広げて間に割り込むと、屹立したイルカ先生を手の中に包んだ。
慣れているからこんなことしてもイルカ先生は酷く無防備にオレのすることを見ている。
見ている前でしゅっしゅっとリズミカルに扱き始めると、ぐんとイルカ先生が手の中で育った。
気持ちイイと訴えるソコに絶えず刺激を与えながら、コンドームの袋を歯で破る。
完勃ちして、手を離しても突っ立ったままの先端にゴムを被せるとスルッと下ろした。
「ぁっ」
ひんやりした感触にイルカ先生の体が跳ねる。
ぎゅっぎゅっと握って温めながら馴染ませた。
ピンク色のゴムを被ったソレが勃ち上がる。
その光景があんまりにも可愛いからぱくっと食べた。
「あっ」
ひくりと痙攣したイルカ先生の腹筋を見ながら、ジェルを手に取る。
指に馴染ませなが後口まで持ってくると襞を撫ぜた。
1本ずつ指を潜らせて中を広げる。
ゴム越しだと刺激が緩いから、時々甘噛みしながら前を刺激した。
「ひっ・・あ・・やっ・・」
か細い声が聞こえる。
中の指を折り曲げると、それは鳴き声に変わった。
「カカシさん・・、カカシさん・・」
はあはあと掠れた呼吸の合間に名を呼ばれて熱が滾る。
でももうちょっと、と思って、前立腺に指を当てたまま小刻みに揺らした。
「あ、あ、あ、やっ、・・だめぇ・・だめぇ・・っ」
泣きながらイルカ先生が仰け反る。
舌先でゴムの下が滑るのを感じて指を引き抜いた。
手早く自分のモノにゴムを被せるとイルカ先生の後口に当てる。
ぐっと体を押し付けると、緩んだ後口がオレのモノを飲み込んだ。
じわりじわりと先端から熱に包まれて、えもいわれぬ快楽が襲う。
「は・・、気持ちイ・・」
根元まで押し込んで、イルカ先生の激しく上下していた胸が落ち着くのを待って動き出した。
揺るやかに抽挿するとイルカ先生の頬が溶ける。
切なげに寄せられた眉と薄く開いた唇が扇情的で、オレはイルカ先生のこの表情が大好きだ。
いつまでも見ていたいが、あんまり長引かせると明日に差し障るので動きを早くする。
溶けていたイルカ先生が薄く瞼を開いてオレを見る。
「もうイっていい?」
オレがじゃない。
イルカ先生にお伺いして、頷くのを見てから前に手を添えた。
オレとしてはまだもうちょっとしていたいが、でもまあ、明日からもあるし。
前を扱いてイルカ先生を追い上げながら最奥を突いた。
イルカ先生の切れ切れの悲鳴が腰骨に響く。
短い声を上げて射精したイルカ先生を見届けてから、オレも最奥まで押し込んで射精した。
気持ちイイけど、体の奥で燻る火が残って物足りない。
力の抜けたイルカ先生から性器を引き抜いて、互いのゴムを外して処理をした。
どこも汚れないからあっという間に済んだが、パンツを履かせる頃にはイルカ先生の瞼はうとうと重く揺らいでいた。
「眠っていーよ」
笑いかけると、笑顔を返して首を横に振ったイルカ先生の瞼がとろんと落ちたから笑ってしまう。
横になって抱えなおすと無意識にひっついてくるイルカ先生を抱いて瞼を閉じた。
ホント言うと興奮してるのはオレの方で、眠りはまだまだやって来なかった。