夕星 1
頭のてっぺんが焼けたフライパンを押し付けられたようにじりじりと焦げるようだった。
シャワシャワ、ミンミンと四方から押し寄せるセミの声に暑さが増す。
手に持った買い物袋に指が千切れそうになりながら列が進むのを待った。
暑いのが苦手なら、並ぶのも嫌いだが、――ちらりと隣に視線をやると頬が緩む。
待ちきれないって顔をしてるのがたまらなく可愛い。
暑さに頬を赤らめながら、順番が来るのを楽しみにしているイルカ先生を見ると、「帰りたい」なんて言えなかった。
列の先頭では福引くじが行われている。
木の葉商店街の夏の恒例の催し物らしい。
後ろの壁に雪の平原と緑の林のポスターが貼られ、机には景品が並ぶ。
じゃらじゃらと玉の転がる音が途切れるたび、イルカ先生がそわそわした。
並んだ景品の少なさに、気が気でないのが目に見えた。
それもそのはず、イルカ先生の狙う3等の『ご当地ラーメンセット』は残り2セットとなっていた。
あれが欲しいが為に、まだ買う必要の無い常備品を買い込んだ。
イルカ先生まであと10人。
オレとしては4等のビールでも良かったが、ま、こういうのはなかなか当たらない。
じゃらじゃらとまた音が鳴り出して、コトンと玉の落ちる音にイルカ先生が背伸びした。
やっと巡って来た順番に、イルカ先生が張り切ってくじを差し出す。
「4回回してください」
受付嬢の声に福引の取っ手を掴んだイルカ先生がやや緊張した面持ちを残して頷いた。
その手がゆっくり箱を回し出し、じゃらじゃらと中の玉が鳴る。
黄色の玉なら3等賞。
黄色、黄色と心の中で唱えていると、コトンと落ちた玉は白色だった。
「残〜念〜」
ポケットティッシュを一つ手渡される。
気を取り直したイルカ先生が今度は少し早めに回すが、出てきた玉は白だった。
イルカ先生の表情に翳りが見え出す。
心持ちしょげながら、くるくる回すとまたしても白。
イルカ先生の期待がポケットティッシュに変わっていく。
ま、そんなもんだーよね・・。
全部は無理だが茶と糸と香の国ならこの先任務で立ち寄ることもあるだろう。
今度買って来てあげようかなと思っていると、イルカ先生がこっちを見た。
「カカシさん・・。回してください」
「えっ!オレ!?」
「だって、俺、くじ運ないから・・」
「オレだってないよ?」
それでもいいと頷いたイルカ先生が場所を空ける。
だけどその瞳は言っていた。
――あのラーメンが食べたいと。
期待を一心に背負って肩が重くなる。
でも、ま、いざとなれば・・。
取っ手を掴むとくるくる回した。
考えてみれば、福引なんて初めてかもしれない
じゃらじゃらと玉の転がる振動が手に伝わる。
子供の頃にやったことあったっけ・・?
思い返していたら、玉が飛び出した。
コトンコトンと小さな玉が皿の上を跳ねた。
キランと光ったそれに、
「あっ!」
「当た〜り〜!!」
イルカ先生の歓声とカランカランと大きな鐘の音が重なった。
「当たったの!?」
吃驚だ。
でも皿に乗っているのは銀色で、イルカ先生の望んだ黄色じゃない。
銀?銀って何が当たったんだ?
「カカシさん凄い!2等賞!温泉ですよ!」
ラーメンはどこへやら、イルカ先生が手放しで喜んだ。
向けられる尊敬と喜びの眼差しに得意になる。
照れ隠しに頭を掻いていると目録を差し出された。
受け取るのはイルカ先生に任せてその内容を覗き込む。
『清流温泉 3泊4日の旅 ペアご招待!!』
やったー!・・って、旅?3泊4日も?
浮き足立った心をその名目が待ったをかけた。
それはイルカ先生も同じだったようで、温泉と知ってぱあっと輝いた顔はみるみるしょぼくれた。
「ねぇ、行けるよ。行こうよ」
家に帰り着くと、イルカ先生の前に地図を広げた。
一旦は諦めかけたものの、ちらりと思い浮かべたイルカ先生との温泉旅行に魅了された。
現実のものにしたくなって自分でもどうかと思うほど融通が利かなくなる。
どうしても行きたい。
木の葉の里と清流温泉のある琉の里は同じ火の国内、忍びの足なら半日あれば行ける所だった。
あとはイルカ先生の了承さえ取れればいいのだが・・。
「ね?行こう?お休みとって?」
いい加減煩いぐらいに繰り返すオレに、イルカ先生が苦く笑い返す。
「とれたらいいんですけど・・」
言いながら、瞳はすっかり諦めている。
困ったな、というのが見て取れて、オレはますますムキになった。
「今はアカデミーが夏休みだから大丈夫デショ?」
「受付もあるし・・」
「でも夏期休暇貰ったよね?まだ使ってないデショ?」
「そうですけど・・、火影様の手伝いもあるし・・・」
それはイルカ先生の仕事じゃないでしょ!
喉から出掛かった言葉を飲み込んだ。
そんなこと言ったらイルカ先生を傷付ける。
それに正式な任務じゃなかったが、イルカ先生が五代目の補佐をしているのは確かだ。
じっと地図を見るイルカ先生からは旅行に対する期待は窺えない。
なんとかその気にさせねば。
畳の上に座るイルカ先生の隣に体を寄せると腰に手を回した。
下から顔を覗いて懐柔に掛かる。
「じゃあさ、申請だけ出してみてよ。それで休みがとれなかったら諦めるから。ね?」
すりすり体を押し付けてイルカ先生に強請る。
イルカ先生は甘えられると強く出れない。
ね?ね?と機嫌を伺うように強請ると、イルカ先生がしょうがないなって顔で頷いた。
やった!
これで行ける様になったも同然。
「アリガト、イルカ先生大好き」
高揚した気分のまま、抱きつくようにイルカ先生を押し倒した。
じゃれてると油断したイルカ先生があっさり畳の上に転がる。
擦り寄ってる間に、イルカ先生の汗の匂いと服越しに感じた高い体温に違う欲が芽吹いていた。
起き上がろうとするイルカ先生を押さえつけて覆いかぶさる。
「えっ、カカシさん・・!?」
慌てるイルカ先生にぽっと腹の奥で火が宿った。
逃げるように身を捩られると、それはぱちぱち爆ぜながら勢いを増していく。
ダメ、逃がさない。
イルカ先生の様子を窺いながら唇を合わせた。
シていい?イヤじゃない?とお伺いを立てる。
啄ばむような口吻けを繰り返していたら強張っていた体から力が抜けた。
「カカシ、さん・・」
オレを見上げるあどけない表情が愛おしい。
本能の赴くまま首筋に顔を埋めて、イルカ先生から服を剥ぎ取った。
自らも脱いで再び覆いかぶさると、西日の残る部屋でイルカ先生を抱いた。