夢見る頃を過ぎても 9
ミズキの持って来た合巻を、カカシはことのほか喜んだ。受け取ったのはイルカだが、障子が閉まるとすぐに現れて合巻を強請った。
「イルカ、早く」
「はい、カカシさん」
もっと話したかったが、カカシは合巻を受け取るとすぐに開いて読みふけった。
(そんなに面白いのですか?)
声を掛けたかったが邪魔になりそうで出来ない。足音が近づくとカカシは隣の部屋に隠れてしまった。
運ばれて来た夕餉を一人で食べる。
ポリポリとたくあんを噛む音が部屋に響いて寂しくなった。
(そんなにあの物語は面白いのだろうか…? 私を構ってくれなくなるほど…)
あれは男女の交わりについて書かれている。もしかしたら、カカシは女に興味があるのかもしれない。
温石はイルカの持ち物だったから、カカシはイルカを相手にしたけど、本当はしたくなかったかもしれない。
風呂から戻って来るとカカシの姿が消えていた。代わりに布団が敷いてある。クマノが来て、またカカシが消えたのかもしれないが、イルカが戻って来ても現れないのは変だった。
いつもなら待っていてくれる。
「カカシさん…?」
天井を見上げてカカシを呼んだ。不安に声が小さくなった。
「カカシさん」
変わらない部屋にもう一度呼んだ。さっきより大きな声で。
「カカシさん!」
強い声で呼ぶと、ふわりと着物の袖が目の前を過ぎった。
横からカカシの腕が体に回る。わぁっと込み上げる感情に飲み込まれた。
「カカシさんっ」
振り返ってカカシの背中を抱き締めた。首筋に顔を埋めてぎゅうぎゅう抱き付いた。カカシのくすぐったそうな吐息が頬に触れる。
「どうしたーの?」
「呼んだらすぐに出てきて下さい」
「なぁに、寂しかったの?」
カッと顔が熱くなったけど、言い返さなかった。本当の事だ。
優しく髪を撫でられて顔を上げれば、いつものカカシがいた。その瞳に自分の顔が映っていた。
その目を見てホッとした。ちゃんと好きでいてくれる。きっと本に夢中になっていただけだろう。
こうして抱き合っていると、何故不安になったのか不思議になった。カカシのすべてから愛情が伝わってくるのに。
「ネ、ちょっとそこの柱に凭れて立ってみて?」
「なんですか?」
「いーから」
カカシに促されるまま後ろ向きに進んで、柱に背を預けた。すっとカカシがしゃがんでイルカの着物の裾を割り開く。
「カ、カカシさんっ!」
突然の行為に慌てて着物を押さえると、太股の半ばまで足が剥き出しになった。
「イルカ、手。それじゃ、出来ないよ」
「出来ないって何が…」
この態勢になってカカシが何をしようとしているのか分からないほど初心じゃなかった。
だけど恥ずかしくて着物から手を離せずにいると、カカシが太股を撫でさすった。そのまま見えている部分にだけに唇を付けて舌を這わせ始める。
「…っ」
ぬめる舌は温かく淫猥で、その赤い色に目が釘付けになった。見ていると、内側の柔らかい部分をきつく吸い上げられた。
「いたっ」
痛みに顔を顰めると、唇の去った後に赤い痕が残っていた。カカシがそこを愛しげに触れた。意味のある行為なのか、嬉しげに口付けて、今度は痛みを残さなかった。
太股の裏側に回った手が足を撫で上げ、双丘を掴んだ。両手にぎゅうっと力を入れられて、かくりと膝が笑った。
崩れ落ちそうになる膝に力を入れて立とうとするが、ままならない。腰骨に触れる手が褌に触れて、いつそれを外されるのだろうと内心期待した。
だが、カカシの手は捻れた腰紐に触れただけで離れて行く。
どうするのだろうとカカシを見ると、顔を上げたカカシがにこっと笑った。
「イルカ、手を離して」
カカシはイルカの手を無理矢理退けることをせずに言った。
自ら手を離せと言うのだろうか。カカシに奉仕させるために。
つま先から羞恥心が込み上げて、体が熱を持った。
「い…嫌です…」
「ホントに?」
小首を傾げるカカシに目が潤む。どうしていつもみたいに強引にしてくれないのか。
昨日までとは違うカカシを感じて戸惑った。その間もカカシの手が太股を撫でさすって、イルカから思考を奪っていく。
その先に何が待っているのか知っている。とても気持ち良いことが待っているのだ。
(きっと口でしてくれる…)
そこを舐められるのは、たまらなく気持ち良かった。
して欲しい。だが自らしてくれと言うのは恥ずかしい。
もんもんとしていると、カカシが膝を噛んだ。
「あっ!」
痛いはずの刺激が痺れとなって足を襲った。その痺れは骨に沿って駆け上がり、体の中心にまで届いた。
ずくりと中心が疼き、ガクガクと膝が震えた。
望まなくても与えられていたイルカは我慢を知らなかった。
「…カカシ、さ…、して…」
「ウン。だからイルカの手を除けて?」
欲が羞恥を上回るのは容易く、イルカは恐る恐る手を除けた。前に回ったカカシの手が這い上がり、着物の裾を開いた。
白い褌が露わになり、もう勃ち上がっているんじゃないかと視線を落とすと、口を開いたカカシがパクリとそこを咥えた。
「ひぁっ…」
布の中に温かく湿った息が入り込み、竿を唇で挟まれる。もう一度口を開いたカカシにもぐもぐと愛撫されて芯を持った。熱を持って、カカシの唇を押し返す。
「あっ…あ…カカシ…、褌が…」
「濡れるのイヤ?」
頷くと、口を開いたカカシが唇の端を引き上げた。
なら自分で取ってみろと言われるのかと身構えるが、今度はカカシが解いてくれた。
露わになった熱は半端に勃ち上がってカカシを誘う。時折ゆらと頭を擡げるから隠そうすると、手にカカシの指が絡んだ。深く繋いで退ける。
指先が手の甲を撫でた。空いた手が太股を撫でる。
カカシは手で支えることをせずに顔を寄せて唇を開いた。
それだけで興奮したイルカの熱がむくりと頭を擡げてカカシの唇を叩いた。カカシが可笑しそうにクスクス笑い、逃げようとすると繋いだ手にぎゅっと力が入った。
――逃げなくていーよ。
そう言われた気がした。カカシは何も言わなかったが、すべてを受け入れてくれている気がした。
ホッと体から力を抜くと、カカシがそこに口吻けた。ちゅっ、ちゅっと啄み、舌を出して舐めた。二度、三度と繰り返し、大きく口を開くと先端からイルカを含んで行く。
「あ…」
熱い口腔に包まれて、氷みたいに溶けていく感覚に包まれた。ずるりと顎を引かれると、当然だが竿が出てくる。
カカシは前後に頭を揺らしてイルカを愛撫した。
綺麗なカカシが顔を歪めて奉仕する姿は、イルカに大きな興奮をもたらした。立っているだけなのに、はぁはぁと呼吸を乱してカカシを見つめた。
カカシの口から出てくる竿が、唾液に塗れてぬらぬらと光っていた。
熱く反り返ろうとするのをカカシが押さえつける。その分強く擦られて、イルカは喘いだ。
開きっぱなしになった唇から唾液が落ちで、カカシの着物に染みを作った。
いけないと思うのに、口を閉じられない。
声を出していないと、大きすぎる快楽を受け止めきれなかった。
カカシの唇から唾液とも先走りともつかないものが溢れて竿を流れた。袋や足の付け根までびしょびしょになると、カカシがそれを指で掬った。
指がずっと足の奥の方まで進む。
「あぁっ」
ぬち、と窄まったところを撫でられた。指は何度もぬめりを掬って戻って来た。乾いていた襞が濡らされ、水分を含んでいく。
つるりとイルカから口を離したカカシが言った。
「柔らかくなったよ」
「…ほんと?」
「ウン、ホラ」
「ンッ」
カカシが窄まりでくるくると指先を動かした。どこにも引っ掛かるところが無い。肉襞はカカシの指を柔らかく押し返すだけだった。
「あ…っ、あぁっ…カカシ…っ」
もどかしかった。腰を下ろしたくなる衝動と闘った。中に指を挿れて欲しい。
立っているのが辛くて前屈みになった。カカシの肩をぎゅっと掴む。
震える足で立っていると、カカシの指がゆっくりと体の中に這入ってきた。留まることなく奥まで進んで、ぐるりと指を回した。
「ひぁっ…ぁ…」
体が収縮してカカシの指を締め付けた。
「そんなにきつく食んだら動かしにくいよ」
窘められたけど、自分ではどうにも出来なかった。
「や…っ、もっとぉ…」
「もっと、なに? 動かして欲しい? それとも指を増やして欲しい?」
そのどちらも想像して、ずくんと体が疼いた。
「あ、あ、…カカシっ…早くぅ」
勝手に腰が揺らいだ。勃起した熱がカカシの目のまでフルフル揺れたが恥ずかしいどころではなかった。焦らされたせいで、カカシからの刺激が欲しくて堪らなかった。
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