夢見る頃を過ぎても 24






 カカシはイルカと離れてから怠惰な毎日を過ごした。何もする気になれない。
 ぼんやり宙を見ていると、サクモを思い出す事が多くなった。
 戦場に出ていたサクモは主を守る誇りで輝いていたが、失ってからは何もせず、ただ座って遠くを見ていた。
 今のカカシの様に。
 鐔だった頃はサクモの消滅を理解出来なかったが、今なら分かる。こんな意味のない日々が果てなく続くのかと思うと、カカシでもぞっとした。
 妖は主を失っては存在し続けられない。器の有る無しに係わらず心が死ぬ。
 きっとサクモは狙っていた。自らの逝く時を。
 カカシは幸か不幸か存在し続けた。イルカが石を砕かなかったのだ。
 温石に自らを砕く機会はない。イルカが望む限り存在し続ける。そしてまたイルカに会うのだろう。
 現に時折イルカの声が聞こえた。何度もカカシの名を呼んでいた。
 だけどカカシは会いたくなかった。今会えば、また同じ事を繰り返すだけだ。イルカと喧嘩するのはイヤだった。
 それならいっそイルカが結婚した後に会いたかった。そうすれば、イルカが嫁を貰うまでの間、心の千切れる思いをしなくて済むだろう。
 そうするのが一番良いと思った。
 イルカは人間だ。いずれ嫁を貰う。跡取りだから必ず。
「はぁー」
 だけどイルカの泣き顔を思い出すと、それが正しかったのか迷った。
 ただイルカを傷付けただけの気がした。もっと良い方法があったかもしれない。
(…もういいや)
 考えてもキリがない。きっと答えなんて出ない。
 目と耳を塞いで、心も閉じようとした。
 その時、またイルカの声が聞こえた。
「…さん…」
 ちらりと片目を開いた。いつもと違って、とても小さな声だったから。泣いているように聞こえた。
 それっきり声は聞こえない。カカシは気になって現を覗いた。
 イルカが縁側に立っていた。ぐっと下唇を噛み締めて、泣き出しそうになるのを堪えていた。
 その顔に懐かしさが込み上げた。子供の頃、あんな顔で寂しさに耐えていた。
「………さん」
 胸がひくひく震えていた。口角がわっと下がった。ぎゅうと閉じたイルカの瞼から涙が滲む。
 堪らなくなって、カカシはイルカの前に立った。
「…イルカ」
 名を呼ぶと、はっとイルカが目を開いた。カカシを見て、泣き付くのではないかと思ったが、イルカは眉間に皺を寄せると怒鳴った。
「どこに行ってたんですか! 私が呼んだらすぐに出てきて下さいって前に言ったじゃないですか! ど、どこに…ひぐっ…ひどいっ!」
 イルカの目から涙が溢れた。それでも堪えようとするイルカの顔が大きく歪んだ。
「ゴ、ゴメン…イルカ、ゴメンなさい…」
 思わず謝らずにはいられない迫力があった。
「ひぃーーー」
 掠れた声を上げて、よた、よた、と前に進んだイルカの体を引き寄せた。胸に顔を付けたイルカが激しく泣きじゃくる。背中に回った手がぎゅっとカカシを抱き締めた。
 この瞬間、世界には他に何も要らないぐらいイルカが可愛く見えた。イルカが大切すぎて、息が詰まりそうになる。
 手を伸ばしてイルカを抱き締めた。背中をたくさん撫でた。
「ゴメン、イルカ。ゴメンネ」
 イルカの頬を包んで顔を上げさせると、涙に濡れた唇を啄んだ。イルカが濡れた瞳でカカシを見上げた。
 目が合うとカッと火が灯って、イルカを抱き上げて瞬身した。今すぐイルカを確かめたかった。
 イルカの部屋に入ると襖を開けて、布団を引き摺り出した。
 畳の上に出しただけの布団にイルカの体を押し付けた。イルカははっと目を見開いたが、涙の粒をいっぱい付けた睫毛をそっと閉じた。
 カカシは貪り着くようにイルカの唇を吸った。
「んっ…ふっ…」
 せわしげなイルカの息が聞こえた。背中に手を入れて、引き千切るようにイルカの帯を解いた。しゅるしゅると帯を引っ張っていると、イルカがカカシの体に手を伸ばした。そっと胸に触れられて、それだけで痛いほど前が張り詰めた。
 もう帯なんてどうでも良くなって、帯の緩んだ着物を左右に開いた。露わになった胸に吸い付くと、イルカが「あっ」と甘く切ない声を上げた。
 かあっと頭の中が焼けて目が眩みそうになる。一刻も早く繋がりたくて、カカシはイルカの着物の裾を捲った。
「ゴメン、イルカ…我慢出来なくて…、余裕無い」
 カカシが謝ると、イルカは首を横に振った。
「私も…」
 それだけしか言わなかったが、イルカは自ら足を開いてカカシ受け入れやすいようにした。さっとイルカの頬が染まり、見られるのを嫌うように顔を背けた。
「イルカっ!」
 カカシはイルカの足の間に体を割り込ませると褌を解いた。そして顔を埋めてイルカの熱を頬張った。
「あっ…カカシさんっ…」
 イルカの太股がギュンと緊張で張り詰めた。まだ柔らかいソレをズボズボと口で愛撫した。
「あっ、あっ、あっ」
 突然の刺激にイルカが甘い声を上げた。口の中で熱が張り詰め固くなっていく。完全に勃ち上がると、口から出して先端を愛撫した。
 張り出たカリを舐め、舌先で鈴口を抉ると先走りが溢れ出した。それを吸い上げると、イルカが悲鳴を上げた。
「あぁっ…かかしっ…」
 刺激が強かったようで、イルカの体がブルブル震えていた。
 イルカに嫌がる様子は無く、カカシは続きを再開した。口の中に堪ったものを手の平に吐き出すと、イルカの後口に塗りつけた。
 固く閉じた窄まりを濡らして柔らかくする。
「ひぁっ…あ…んっ…あーっ…あっ…」
 空いた手で前を扱くとイルカが仰け反った。
「気持ち良い…? イルカ…」
「あっ…いっ…」
 頷くイルカに後口へ指を一本滑り込ませた。
「あっ」
 早く挿れたくて、早急に指を馴染ませた。ぐりぐりと手首を捻って入り口を広げる。前から溢れる汁が滑りを良くしてくれた。もう一本指を増やして柔らかな襞を掻き分けた。
「あぁっ…カカ…あっ…あ…っ…」
 熱から手を離しても屹立していたから、後孔を緩めながら、つんと勃ち上がった乳首を口に含んだ。舌先で舐めて転がして押し潰す。
「ひぃ…っ…ぁっ…」
 イルカが逃げるように身を捩ったから、上から体で押さえ込んだ。後孔に入れた指を激しく抽送させる。
「あっ、あっ…、でるっ…カカシッ…でるっ…!」
「まだ、ダメ」
 指の動きを腸壁を擦り込むものに変えると、イルカが泣きだした。
「カカシ…も…っ…もう挿れて…っ」
「まだだーよ」
 ぐぅっと腹側へ指を押すと、ひっと息を飲み込んだイルカの体が痙攣した。きついぐらいに指を締め付けて動きを止める。
「イルカ? いっちゃったの?」
 イルカの熱は弾けてなかった。ぐりっと指を引き抜くと、イルカが嬌声を上げた。
「待って…動かさないで…」
 止めようと掴まれた腕に爪が食い込んだ。よくやく力が抜けたとき、イルカはぐったりしていた。
「後だけで達ったの? 指だけで?」
「…だから出るって言ったじゃないですか…」
 イルカの頬が真っ赤に染まる。
「だって、まだ前出てないよ? ホラ、硬いまんま」
 ぎゅっと握ると、イルカは「あっ」と呻いた。いつの間にこんなにいやらしい体になったんだ? カカシは唾液を飲み込んだ。興奮を抑えられない。
「イルカ、もう挿れるよ」
「えっ? あっ!」
 イルカの返事を待たずに、カカシはイルカの膝裏を押し上げた。濡れた後口に先端を当てて、腰を押し込む。
「はぁっ…」
 イルカの後口が柔らかく口を開いてカカシの熱を飲み込んでいく。カリまで過ぎると口を窄めてカカシを飲み込んだ。
 ひたりと腸壁に包まれて気持ち良くなる。一旦根元まで埋めてから、中程まで引き抜いた。
「あ…っ」
 最初からカカシは駆け出した、一度達したイルカの後孔は柔軟にカカシを受け止めた。
「はっ…あっ、あっ…あぁっ…んっ…」
 繋がった所がくちゅくちゅと水音を立てた。滑りが良くなると、いっそう激しく責め立てた。
「やぁ…あついっ…いや…あぁっ…」
「ねぇ、また後でイって?」
「やだ…前…、前も触って…」
「両方でイきたいの? イルカは贅沢だなぁ」
「ちがっ…」
 抗議しようとイルカが口を開いたが、抽送しながら前を扱くと喋れなくなった。唇は喘ぐためだけに開かれ、涎を零した。
 イルカの痴態に腰が重くなる。解放に向かって最奥にまで腰を進めた。
「あっ…ふか…っ…奥…あっ…」
 きゅうとイルカの後孔が締まって、イルカの前から白濁が飛び出した。
「あぁっ、あーっ」
 イルカが射精する間も狭くなった後孔に熱を擦りつけた。
「やぁっ…あっ…」
 イヤイヤするようにイルカが首を横に振ったが止まらなかった。叩きつけるように腰を穿つと最奥に向かって射精した。ビク、ビクと尻が震え、イルカの中に精液を注ぎ込む。
「あ…」
 イルカが萎えた性器からとろりと白濁を零した。それを見て根元から扱いてやると、もう一度後孔が痙攣した。
「…っ」
「ふぁっ…あっ…」
 搾るようにひくつく後孔に熱が膨らんでいく。硬さを確かめる様に腰を回すとイルカが啼いた。
「イルカ、このまましてもい?」
 動きを止めてカカシが聞くと、イルカは閉じていた瞼を開いてカカシを見た。頬を赤く染めて、はふはふと呼吸しながら顎を引く。
 可愛くて、愛しくて、今度は裸で抱き合いたくなったカカシは繋がったまま己の着物を脱いだ。そして緩んだイルカの帯も解いて着物を開いた。ころりと転がり出てきた温石は脇に置いて、汗に濡れた肌を重ね合わせた。
「イルカ…」
 動き出すと、すぐにイルカの瞳は熱に潤んで涙を浮かべた。
 溢れそうになるそれを啄みながら、どうして離れていられたのだろうと思った。
 カカシは己が間違っていた事に気付いた。覚悟を決めるなら、イルカが幸せになる方に決めなければならなかった。
 もう二度とイルカを泣かせたくない。


 くたくたになって眠るイルカの体を抱きながら、カカシは自分に何が出来るか考えた。打開策はあるはずだ。
 イルカが幸せになるために。そして己も幸せになるために。


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