浮空の楽園 6
「イルカせんせ…」
名前を呼ばれたけど、ただ呼んでみただけなのは知っていた。ソファに座ったカカシさんの膝に頬を乗せて、髪を梳かれていた。
時折指先が地肌を引っ掻くのが、くすぐったくて気持ち良い。
「イルカ先生、今どんなお話し読んでるの?」
問われてあらすじを話した。その間もカカシさんの手は止まらない。
「イルカ先生はお話しするの上手だね」
――それは教師をしていたから。
思っても、言葉にしない。目を閉じると、カカシさんが俺の脇の下に手を通した。体を引っ張り上げられて、カカシさんの膝を跨ぐ。
そうすると、俺の方が背が高くなってカカシさんを見下ろした。カカシさんがじっと俺を見上げている。
(キスしたいな…)
白い頬に手を滑らせて、そうっと撫でた。カカシさんがその手を捕まえて、手のひらに唇を押し付けた。流し目で見上げられて、ドキッと心臓が跳ねる。とても色っぽい瞳で俺を見ていた。
誘われているのを感じる。
喉が干上がってカラカラになった。
「カカ…」
「しー」とカカシさんが言った。
口を閉ざすと、カカシさんの手がパジャマのボタンを上から外した。次第に露わになっていく肌を見下ろす。風呂に入るときは平気だが、肌を重ねる前は恥ずかしかった。
カカシさんは中程までボタンを外して、素肌の肩に手を滑らせた。パジャマが肘まで落ちて引っ掛かる。
胸にちゅっと音を立ててキスされた。カカシさんの髪が首筋に触れてくすぐったかった。ねろっと舌で鎖骨を舐められる。犬が骨を舐るみたいにペロペロ舌を這わす。
手が背中を撫でた。もう片方の手が腰から下着の中に入ってくる。尻の肉をぎゅっと掴まれた。
「…っ」
指が腿の内側の際どい所に触れそうになっていた。その指の行き先に神経が集中する。かと思えば、乳首をちゅっと吸われた。
「あっ」
ひくんと体が震えて、頬が熱くなった。指はずっと同じ所に置かれている。
「カ、カシ…さん…」
「ン?」
問い返されたけど、言葉は出てこなかった。俺が顔を赤くしたまま黙り込んでいると、にこっと笑ったカカシさんは乳首への動きを再開した。
顔を傾けて、俺に見せるみたいに舌を出した。ちろちろと舌をくねらせ、粒を転がした。
舌を伝って流れ落ちた唾液が小さな気泡を作る。カカシさんはそれを乳首の天辺に運んだ。
「…なに、遊んでるんで、すかっ」
普通に話そうとしたのに声が跳ねた。乳首の先で触れるか触れないかぐらいの刺激を与えられて、ヒクヒクと体が跳ねたから。ズボンの中の指もまだ同じ位置にある。
「イルカ先生って感じやすいね」
「そ、そんなの…っ、カカシさんが…」
「ウン、そう。オレのせい」
嬉しそうに言ったカカシさんが再び胸に顔を伏せた。
今度は反対側。口に含んでちゅくちゅく吸った。
「あっ…はっ…」
腰が熱くなり、指の存在がますます気になった。たぶん人差し指だ。ちょっと動かせば、袋の付け根にも後口にも届く。
「あ…ぅ…」
緩く前が勃ち上がり掛けていた。指の置かれたところがジリジリ痺れる気がした。
「どうしたの? イルカ先生。集中してないネ」
「そんなこと…」
無いと言おうとしたが、言えなかった。代わりにズボンの中に入っている方のカカシさんの腕を押した。なにもしないなら出ていって欲しい。
「…こっちはシなくていーの?」
意地悪を言われて、ハッと手から力が抜けた。カカシさんがじっと俺を見ている。
「ちが…、全部…シテほしい、です…」
手を離すが、カカシさんの手も抜け出た。
(怒った…?)
哀しくなるが、カカシさんは俺の手を掴んで、自分の肩に乗せた。
「イルカ先生はオレを抱いてて」
「…はいっ」
両腕をカカシさんの首に回す。くすりと笑ったカカシさんの顎が上がり、唇を重ね合わせた。口吻けの合間にクスクス笑うカカシさんの吐息が漏れた。
「あまり、笑わないでください…」
「ん。イルカ先生、指を舐めて」
唇を割って入ってきた指に舌を絡めた。一度に三本も。その指がどう使われるか知って、熱心に舐めた。
「唾液をたっぷり乗せてね」
「…ん…っ」
カカシさんに言われた通りにした。最後にカカシさんが俺の舌の上を擦ってから指を引き抜いた。
「ぷはっ…。あ…」
一方の手が下着を引っ張って隙間を作り、濡れた手が尻の狭間を滑った。真っ直ぐに後口に辿り着く。敏感な所に触れられて体が跳ねた。指が唾液を塗り込める。
「ひぁっ…あっ…あ…んっ…」
様子を見ながら、ツプリと中に這入ってくる。ぬーっと根元まで突き入れたまま動きを止めた。一本だけだった。指先を回して中を探る。
そうしながら、パジャマの上から股間をまさぐられた。
「コッチはまだダイジョーブだね」
硬さの事を言っているのだろうか?
軽く撫でて離れた手に、もどかしさが生まれる。指が抽送を始めた。俺はカカシさんにしがみ付いてその刺激に耐えたが、もどかしくて堪らなかった。
もっと太いモノを知っている。熱くて、剛直で、俺の中に這入ると強い快楽をくれるモノを。
期待しているのか前が勃ち上がり、パジャマを押した。
「…ぅ…ぅんっ…は…あ…っ…」
せめてアソコを濾すって欲しかった。俺の前立腺。指だけでも充分感じられる。
「んっ…んっ…」
腰が勝手に揺れた。カカシさんにシテ欲しくて、強請りがましい声が漏れた。
「は…、カカシ、さぁん…」
腰を振るが、タイミングがずれて上手く当たらない。
「んん…っ…あっ…やだっ…」
もどかしいまま指だけ増えた。二本の指が腸壁を擦る。前が先走りを零して下着を濡らしていた。重く張り付いてくる下着が邪魔だった。それも脱がして欲しくて頑是無い声を上げた。
「やぁ…、カカシさん…やだ…っ」
「やめた方がいーの?」
「ちがっ…!」
腰をカカシさんの腹に押し付けた。俺の現状を知って欲しい。
(もうこんなになってるのに…っ)
ひっくと喉が震えたが、カカシさんの腹に擦れる事で新たな快楽が生まれた。
「アッ…」
思わず甘い声が上がった。
「あっ…アッ…ア…ッ」
「イルカ先生は自分だけ気持ち良ければいいの?」
頭から冷水を浴びせられた気がした。
「ち、ちが…っ、ちがいます…」
たーっと涙が溢れた。動きを止めてカカシさんを見下ろすが、全ての刺激が止んで、切なくて堪らなかった。
「ひっく…ひっ…」
どうすれば良いのだろう? カカシさんの機嫌を損ねてしまった。
「カカシさん…ゴメンなさい…」
ボロボロ泣いて許しを請う。
「怒ってなーいよ」
「……ホント?」
「ウン、ホント」
カカシさんがペロリと俺の頬を舐めた。
「ネ?」
「うん」
嬉しくなってカカシさんの首にぎゅっとしがみ付いた。カカシさんが大好きだった。
「カカシさんだいすき」
口に出して言った。
「オレもだーよ」
天にも昇る気持ちって、まさにこのことだと思う。
「カカシさんっ」
甘えた声でしがみ付けば、背中を撫でられた。「だいすき」で頭の中がいっぱいになる。
「カカシさん、カカシさん」
繰り返し名前を呼んだ。俺の中にカカシさんへの想いしかなかったから。
カカシさんの全部が好きだ。髪も指も目も耳も。カカシさんを形作る全てが愛おしい。
「カカシさんの為なら死ねます」
ぽろりとそんな言葉が口から出ていた。カカシさんが吃驚した顔で俺を見ていたが本心だった。
「カカシさん」
「イルカ、死ぬなんて言わないで」
「でも本気です」
「分かったから」
つるりとカカシさんの瞳に水の膜が張った。
「カカシさん、泣かないでください」
「泣いてなーいよ。ただ、嬉しかっただーけ」
にっこり笑ったカカシさんの瞳に炎が宿った。
「ゴメン、ちょっと早いケド…」
指を引き抜いたカカシさんが俺のズボンを下着ごと脱がせた。自らも前を寛げて、滾った熱を引き出した。
「イルカ、座って」
熱を後口に当てられて、腰を落とした。まだ狭い入り口をめいっぱい押し広げて、カカシさんが這入って来る。
カリが過ぎると、重力に任せて腰を落とした。ぺたんとカカシさんの膝の上に座って息を吐く。
「這入った」
「イルカ先生は…もう…」
困った顔で嘆息したカカシさんが俺の頬を撫でた。愛しくて堪らないって瞳で見つめられる。顔が近づいて、唇が重なった。
角度を変えながら深く重ね合わせる。カカシさんが軽く俺の唇を噛み、ジンと痺れが走って体が震えた。カカシさんが腰を突き上げた。
「アッ…」
ぬっくぬっくと抽送されて甘い吐息が零れた。
「カカシ…さん…っ」
「自分で動いてみる? いいよ。好きに動いて」
「あっ…やっ…」
カカシさんが動きを止め、快楽が引いていく。堪らず自分で動き出した。熱が抜けてしまわないように腰を上下する。自分で動いても熱が腸壁を擦るのは気持ち良かったが、カカシさんが俺の腰に手を添えて、角度を変えて腰を下げると、ぐりりとイイ所に当たった。
「あぁっ」
「ココがイルカ先生のイイ所。分かった?」
コクコク頷いて、教えられたように腰を下ろした。
「あっ…あっ…あ…っん…」
ソコにカカシさんの熱が触れると、泣きたくなるほど気持ち良い。いつしか夢中になって腰を振っていた。
「あ…はぁっ…あぁっ…あっ…」
動く度に立ち上がった性器がひちゃひちゃと腹を叩いた。
中だけで先走りを零すほど感じていた。
「ひぅ…っ…アッ…カカシさんっ…」
射精感が高まって、どうしようもなくなった。きっと今なら、先端にちょんと触れられただけで達してしまうだろう。
「アッ…イキたい…っ…あっ…あっ…」
「もうイく?」
頷いて解放を強請れば、主導権はカカシさんに移った。気が狂ったみたいにガツガツと下から穿たれる。
「ああ、あ、あ、あ、あ…」
体が激しく揺れて、息がままならなくなった。
「あつい…っ…アッ…アァア…ッ」
繋がった所が発火しそうなほど熱くなったとき、カカシさんが俺の性器を掴んだ。鈴口をぐりぐりと抉られて、光が弾け飛ぶ。
「アアァッ…アーッ…」
びゅくびゅくっと勢い良く精液が飛び出し、快楽が電流となって全身を貫いた。
「クッ…」
びちゃっと体の奥が濡れたが、カカシさんの動きは止まらなかった。最後まで出し尽くそうとするように腰を揺らす。
ようやく動きを止めたとき、俺は酸欠でぐったりしていた。そんな俺の体を持ち上げて、カカシさんが熱を引き抜いた。それはまだ硬さを保って、抜けた後も上を向いていた。
「イルカ先生、もっと強くしたい。床に手を突いて貰ってい?」
問いかける口調だったが、カカシさんは俺の返事を待たずに体を反転された。目の前に床が迫って、慌てて両腕を突く。さらに体を下げられて、肘を突いた。
体を支えられなくて、腕の上に頭を置くと、カカシさんが開いた足の間に体を割り込ませた。足だけソファに載って不安定な姿勢だったが、腰をしっかり支えてくれていたから安心出来た。
(ただ少し休ませて欲しい…)
まだ呼吸が整わなくて、そんなことを思ったが、カカシさんはすぐに俺の中に這入ってきた。
「あぁ…っ」
カカシさんは最初からガツガツと疾走した。俺はカカシさんだけイけば良いと思ったが、穿たれている内に勃ってしまった。また先走りを溢れさせて、カカシさんが動く度に腹を叩いた。
「アッ…アッ…アッアッ…」
カカシさんの動きに遠慮は無かった。最奥まで突き上げたかと思うと、角度を変えて腰を回した。腸壁が強く擦れ、感じる所をカカシさんの剛直で捏ね回される。
(これ以上されたら死んでしまう)
思っても、喘ぐことしか出来なくて、溢れた涎が腕を濡らした。
「も…イく…ぅ」
「まだダメ」
ひっ、ひっと泣いて解放を強請った。せめて自分で前を扱きたかったが、動きが激しくて手が届かなかった。
「アッ…はひっ…あっ…あ…っ」
滑らかに断続的に突かれて、大きな波が押し寄せた。同時に言いようのない幸福感に包まれた。
(なに…これ?)
考える事が出来たのはそこまでだった。触れられてなかった前から白濁が溢れた。でもさっきみたいに弾け飛ぶんじゃなくて、したーと白い線を描いて床に落ちた。
「イってるの?」
カカシさんが俺の性器に触れた。
「アァァっ」
狂ってしまうかと思った。快楽が強くて受け止めきれない。それでもカカシさんはまだ達していなくて、俺の中を穿ち続けた。
「しんじゃ…っ…しんじゃう…っ」
譫言のように繰り返した。
「あ…あっあ…っ…あ…ぁっ…」
喘ぎ声も声になっているのか不確かなほど意識が朦朧とした。くちゅくちゅと繋がった所からの水音だけはいつまでも耳に届いた。
(カカシさん、早くイって…)
気が付いたら裸のままカカシさんの腕に抱かれていた。体は精液でドロドロで、気を失ってからそんなに時間が経ってないみたいだった。
「気が付いた?」
ちゅっちゅっと目元を啄まれた。体が思い出したように痙攣する。止めようと思っても止まらなかった。
「あ…っ、…体、ヘン…」
「ウン。イルカ先生、可愛かった」
会話が噛み合わない。だけどカカシさんが平然としてるから、平気なんだと気にならなくなった。
くたくただった。もう眠ってしまいたい。
パジャマはどこに行ったのだろう? カカシさんもいつの間に服を脱いだのか。
気を失っている間になにがあったのだろうと思ったが、気にしないことにした。気にするほど意識を保っていられない。
「イルカ先生、眠っていーよ」
カカシさんがゆりかごみたいに揺れながら言った。カカシさんの空気が酷く甘い。
俺は自分が砂糖漬けになった気がした。ただ、カカシさんに食べられる為だけに存在している。
(それでいい…)
(それがいい…)
ゆらゆらと揺れながら思った。
それが俺の幸せだった。
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