浮空の楽園 19





 どすどす足を踏みならしてやって来た本物が、俺とカカシさんの間に立ち塞がる。
 睨み付ける本物にカカシさんが怯んだ顔をしたけど、すぐに険しい顔になった。
「イルカがコイツを連れて来るのがいけないんデショ! こうなるって思わなかった?」
「ほっとけなかったんだよ。死を望むほど傷付いて…。もとはと言えば、カカシのせいだろ! 少しは優しくしてやれよ!」
「出来ないよ! コイツを見てると自分の罪を責められてるようでたまんないよ。イルカはオレを許してくれたんじゃなかったの?」
「それとこれとは別だろ。お前がコイツを傷付けて良いって理由にはならない」
「どうして別なの? イルカの言ってる事が分からない。オレがスキなのはイルカだけなのに。優しく出来るのもイルカだけだ! どうして分かってくれないの!」
「あっ」
 言い争う二人の間でわんわん泣いていたが、激昂したカカシさんが本物の腕を掴み、強引に引き摺るのを見て驚愕した。
 俺のせいで本物が酷い目に遭わされてしまうと思ったが、カカシさんは本物をベッドに押し倒し、馬乗りになった。本物を押さえつけ、体に触れる。
「ちょ…っ、やめろよ! …ぅんっ…」
 暴れる本物の体を押さえつけ、深く口吻けて唇を塞いだ。口内を舌で掻き回す水音が部屋に響いた。
(いやだ…)
 さっきまでとは違った意味で涙が零れた。本物はカカシさんの体を押し退けようとしていたけど、力ではカカシさんに叶わなかった。
 抗う体を押さえつけたまま、本物の服をたくし上げた。
「いやだ…いやっ…」
 裸の胸に吸い付かれて、本物の体が跳ねた。カカシさんの舌が乳首を這う。きつく吸い上げられて、か細い声が本物から漏れた。眦から溢れた涙が頬を伝う。
「いやだ…、見てるのに…やめてくれ…」
 カカシさんの手が本物のズボンを膝まで下ろした。膝を折り曲げられ、裸の尻が剥き出しになる。早くその気にさせようと、カカシさんが本物の性器を激しく扱いた。
「あっ…あっ、あっ、あっ、あっ…」
 次第に快楽に飲み込まれ、カカシさんを押し退けようとしていた本物の腕から力が抜けていった。
 その分カカシさんは体を近づけると、本物に唇を重ねてキスをした。さっきまでの乱暴なやり方とは違い、優しく啄む。
 俺は泣きながら二人の様子を見ていた。見たくないと思うのに、目が離せなかった。自分が抱かれていた頃を思いだして体が熱くなる。
 カカシさんの性的な興奮が伝わり、俺まで興奮した。触れてもいない性器が勃ち上がり、存在を主張する。
(嫌なのに…)
 カカシさんの指が本物の後口に潜り込んだ。指が狭い穴をこじ開け、根元まで指を進める。
 俺だって、同じ様にされていた。体の中を這うカカシさんの指を思い出す。奥に進むと指を曲げて、イイ所を擦ってくれた。
「ひぁっ…アアッ…」
 カカシさんの指が短く抽送して、本物が嬌声を上げた。きっとイイ所を擦られている。指を突き挿れる度に本物の体が跳ねた。
 カカシさんに与えられる快楽に噎び泣く。
 俺はもどかしさを感じて腰が揺れそうになった。俺もカカシさんに抱いて欲しかった。
 硬くなった性器を服の上から押さえ込んだ。
「…っ、…えっく…」
 一人放ってかれる自分が惨めで哀しかった。
「あっ…あっ…カカシっ…」
 カカシさんの指が後口を広げて二本潜り込んだ。前は緩やかな動きになって、快楽を持続させる為だけに動いていた。
 本物は快楽に飲み込まれ、俺の存在を忘れているようだった。カカシさんの背中に腕を回し、必死に快楽を受け取ろうとしていた。
 そんな本物をカカシさんが愛しげに見つめる。
「ふぁっ…あぅ…ぅんっ…」
 カカシさんが本物の快楽を深めようと乳首に触れた。指先で摘んで捻って捩り合わせる。
「あぁっ…アッ…だぇっ…」
 もっとしてくれと言うように、本物の腰が揺れた。カカシさんの指が深く潜り込んで、本物の背中が反り返った。そのまま激しく抽送する。
「あぁっ…あっ…ぁぁっ…あっ…」
 指の動きに合わせて、じゅぷじゅぷと濡れた音が立った。屹立した本物の前から先走りが零れて垂れ落ちた。
 乱れる本物に、カカシさんが如何に神経を使って感じさせようとしているか伝わって来る。
(だけど、俺の時もそうだったでしょう…?)
 カカシさんの肩を揺さぶり、問い質したかった。例え今、カカシさんが愛しているのが本物でも、俺だって愛された時期が確かにあっただろう? と。
「ひぁっ…あーっ…あぁーっ」
 指で責められ続けた本物が前を弾けさせた。カカシさんは自分の思っていたタイミングと違っていたのか、ハッとした顔をしたけど、射精する本物を助けて前を緩く扱き続けた。
 勢いを失ってからは根元から扱き上げて、全てを出させようとする。本物は白濁が溢れる度に、ビクビクと跳ねていた。
 はあはあと荒い息が耳に響いた。カカシさんが本物の性器から手を離して、自分の性器を取り出した。ソコはすでに硬く屹立して、熱く天を向いている。
 ソレを下に向けて、本物の後口に近づけた。ぐったりしている本物は、カカシさんの動きに気付かない。
 カカシさんが熱を埋めようとした。
「い、嫌だ! だめ…っ!」
 思わず飛び出していた。
「俺の前で違う人を抱かないで!」
 辛くて、声を上げて泣いた。
「俺を抱いてくれたじゃないですか!」
「…やめて」
 カカシさんが一瞬怯んだ顔で俺を見た。それから怒りと憎しみの篭もった目で睨み付けた。
「俺を好きだって言ってくれた…!」
「やめろ!」
「その人を抱くなら俺も抱いて下さい! 俺だってカカシさんを好きなのに!」
 カカシさんから怒気が噴き出して、殴られると思った。
(殴られたって良い…)
 目の前で本物を抱かれるより、ずっと痛くない。
 声を上げて泣いていると、それまで目を閉じていた本物が億劫そうに体を起こして、俺の腕を引いた。
 カカシさんの下から抜け出し、代わりに俺をベッドに上げた。
「イルカ…?」
 カカシさんがショックを受けた顔で本物を見ていた。
「どうして…イルカ…」
 それに答えず本物は身なりを整えて部屋から出て行った。襖が閉められ、部屋に二人きりになった。
 カカシさんは愕然とした顔で襖の向こうを見ていたが、髪を掻き毟り、堪えきれない苛立ちに顔を歪めた。
「…くそっ」
 乱暴に肩を押されてベッドに横たわった。ズボンを下ろされ下肢が剥き出しになる。カカシさんは引き出しからジェルを出して、冷たいまま俺の股間に垂らした。
 足が広げられ、ジェルを絡めた指が中に這入り込んだ。
「ひっ…」
 冷たさに体が竦んだ。優しさの欠片もないやり方に涙が出そうになる。だけど止めて欲しいとは思わなかった。これが最後になるだろうから。
 どんなやり方でも良いからカカシさんと繋がりたい。カカシさんを覚えていたかった。
 性急なやり方で後孔を解されたが、カカシさんの指に体は熱くなっていった。指が動くと甘く奥がうずいた。
「…っ…ふっぅ…ッ…」
 口を押さえて声を殺した。隣の部屋にいる本物に俺の声を聞かせたくなかった。
 俺が抱かれている様なんて知りたくないだろう。静かにしているのがチャンスをくれた本物への、せめてもの贖罪だった。
(ごめんなさい。許して…)
「…ッ!」
 指が増えて、後孔を大きく広げられた。
 心の中でカカシさんに愛されて抱かれている時の光景を重ね合わせた。
 優しかった眼差しを。
 温かな肌を。
 思い出して体が昂ぶっていく。
 指を引き抜かれ、足を大きく広げられた。後口にカカシさんの熱が触れ、ぐっと押し付けられた腰に、窄まりが形を変えた。
 口を開いてカカシさんを飲み込んでいく。
「…ぅ…んぁ…」
 喉から堪えきれない呻き声が漏れた。
 熱くて大きいカカシさんの熱に侵されて、言いようの無い充足感が込み上げた。
 カカシさんがすぐに走り出して、繋がった所から甘い痺れが広がった。
(カカシさん…っ、カカシさん…っ)
 胸の中で名前を呼んだ。キスして欲しいと思ったけど、カカシさんは俺を見ないで、ただ腰を動かしていた。はっ、はっと短く息を吐き、快楽を追い掛ける。
 カカシさんが萎えないでいてくれるのが嬉しかった。俺で感じていてくれるのが嬉しかった。
 摩擦しているところが熱くて、体温が上がっていく。
「はぁっ…ぁっ…はっ…、…っ」
 気持ち良くて堪らなかった。前が勃ち上がって揺れる。先走りが零れるほど感じていたが、カカシさんは繋がった所以外、他の所は触ってくれなかった。
 このままだと置いて行かれそうな気がして、俺は自分の前に手を伸ばした。
(カカシさんと一緒にイキたい)
 屹立した性器を掴んで扱くと快楽が深まって、中にいたカカシさんを締め付けた。
「…っく…」
 カカシさんの甘い呻き声が聞こえて、体中に電流が流れた。
「アッ…ぅ…」
 抑えきれない声が漏れて指を噛んだ。熱が高まり、我を忘れそうになるが、その度に指を噛んで自分を見失わないようにした。
 だんだんカカシさんの動きが速くなり、解放に近づいているのを感じた。夢中で前を扱いた。カカシさんの動きがピークに達した時、ぐっと腰を押し付けられて、体の奥が濡れるのを感じた。
「ひっ…く…ぁっ…」
 同時に俺も欲を解放して、びゅくびゅくと白濁を零した。甘い快楽が全身を駆け巡る。
 気持ち良くて、でも同時にこれが最後だと思うと涙が出てきた。
(もうカカシさんに抱いて貰えない…)
「…っぅ…うっ…」
 胸が震え、ずずっと詰まった鼻を啜った。
 カカシさんが体を離して、萎えた性器がくちゅんと抜けた。
 ますます哀しくなって大粒の涙を零すと、覆い被さって来たカカシさんの唇がこめかみに触れた。
(え…)
 何が起こったんだろうと思った。カカシさんが俺に優しくするはずがない。
 だけど唇はこめかみだけでなく、頬や耳を啄んで、首筋から肩へ滑った。
「カカ…」
 理由を聞きたかったけど、話し掛けたら夢が覚めてしまう気がして口を閉ざした。
 気まぐれでもいい。カカシさんに、もう一度抱いて欲しかった。
 横抱きにされ、片足が持ち上げられる。お尻の挾間に熱が当たり、中に潜り込んできた。
「あぁっ」
 まだ甘さの残る体を貫かれて嬌声を上げた。いけないと口を塞ごうとすると、手にカカシさんの指が絡まった。そのままシーツに縫い付けられ、不思議に思ってカカシさんを見上げた。
(どうして…?)
 カカシさんは答えず、苦しそうな顔をしていた。唇が重なり、吸い上げられる。差し込まれた舌が絡まり、濡れた水音が立つ。
(どうして…)
「ん…ふ…んぅ…」
 夢中で舌を絡め合うと理由なんてどうでも良くなった。
(カカシさんが、好き…)
「カカシ、さ…」
 ぐっと腰を突き上げられて、腹の奥が溶けた。
「…っ、ぁっ…」
 一度吐き出された後の後孔は滑らかにカカシさんを受け止めた。ぐっ、ぐっと深く差し込まれた後で、素早く抽送された。緩急付けた動きに翻弄されて体が熱くなる。
「だ…ぇっ…」
 シーツを掴んで快楽に耐えるが、後を突かれたまま前を扱かれて光が弾け飛んだ。
「ひぁっ…ぁっ…ぅ…んんっ…」
 駄目だと首を横に振ったが、カカシさんは止まらなかった。ずっ、じゅっと熱が押し込まれる度に上がる水音に耳まで犯される。
 唇を噛んで声を殺そうとするが、そうすると角度を変えて、イイ所を突き上げられた。
「はぁっ…あっ…あっ…ぁっ…」
 ぐずぐずに下肢が溶けた。気持ち良くて堪らない。快楽に溺れて、他の事に意識が回らなくなった。生理的な涙が溢れて止まらない。
 中を行き来する熱と、前を扱く手に頭の中が一杯になる。カリの部分を指先で捏ねられて啼いた。
「ソコっ、…そんなにしちゃ…だ、め…っやぁっ…」
 俺は自分が楽器になった気がした。カカシさんの手に奏でられる楽器。
(いっそ物だったら、ずっとカカシさんの傍にいられたのに)
 でも俺が楽器だとしたら、聞かせたい相手は誰だろう。
 ぼやけた視界で襖を見た。隙間から差し込んでくる光――。



 その後意識を無くすまで責め続けられた。
 カカシさんは何度も俺の中で達して、俺はそれだけで幸せだった。




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