やさしい手 4
日はすっかり暮れ商店街の店も閉まり、外は街灯の明かりに照らされていた。
「これで終わりです」
スイッチを入れたイルカ先生が嬉しそうに戻ってきた。
「そうですか・・・・」
この楽しかった時間も後ちょっとで終わりかと思うと気持ちが沈んだ。ずーっとこんな時間が続けば良いのに。
「カカシ先生。今日はいろいろとありがとうございました。俺一人だとどうなってた事か」
「イーエ。お役に立てて良かったですよ」
名残惜しさからゆっくりになりがちなオレとは違ってイルカ先生はテキパキとたたんでいく。
イルカ先生はオレと同じ思いは抱いてない。ま、当たり前なんだけどネ。
自分でもほんの数時間前に自覚したばかりだというのにその事が寂しい。もっとイルカ先生のことを知りたい。そしてオレのことを知って欲しい。もっと近づきたい。近づいて欲しい。
欲求は尽きる事を知らなくて自分でもその感情を持て余す。初心そうなこのヒトにどこまでぶつけてよいのやら。
とりあえず、食事に誘ってみようか。
「カカシ先生。今度にご馳走させてください」
たたんでいた手を休めてイルカ先生がコッチを見た。
「えっ、いいですよ。そんなの気にしなくて」
余りのタイミングに考えていた事を読まれたのかと咄嗟に断ってしまった。願っても無い申し出だったのに。
「そういう訳にはいきません。すぐには無理なんですけど・・・カカシ先生何が食べたいですか?」
イルカ先生。
と、言うわけにもいかず、もう一度誘ってくれたことに内心ほっとしながら、ご飯と味噌汁があれば何でも・・・、と言葉を濁した。
イルカ先生と食べれるんだったら何でもイイんだけどね。
「ご飯と味噌汁ですか・・・。じゃあ和食ですね。どこか考えておきます」
決まったらまた連絡しますね、とニコニコ言うのを見ていると、それはそれで楽しみだなと思うが、出来ればもっと早く逢いたい。もっと確実な約束が欲しい。
食事には誘われてしまった。何時になるのか分からないが、それより早くに誘えば気にするだろう。なにか他にないだろうか・・・。気ばかり焦っていい案が思いつかない。
「カカシ先生何の味噌汁が好きですか?」
再び洗濯物をたたみながらイルカ先生が聞いてきた。
「あー、茄子のが好きです」
オレもタオルを手に取った。答えながらもなにか、なにか、と気もそぞろだった。
「茄子ですか。俺も茄子好きですよ。というか、野菜がいっぱい入ってるのが好きなんですけど・・・外じゃあんまりそういうのないですよね」
「ええ、おまけみたいなもんですからね。わかめと具がちょっとっていうのが一般的ですよね」
「そうなんですよ。もっと具を増やしてくれたらいいのに。ニンジンとか大根とかしめじとかもやしとか・・・・」
手を止めてイルカ先生の横顔を見た。いろいろと野菜をあげていくイルカ先生の声は楽しそうだった。
「それからジャガイモとかキャベツとか・・・」
なのにその顔はどこか哀しそうだった。
どうして?
さっきオレが怒ったときは泣いてるのかと思えば笑っていた。今は笑っているのかと思えば泣きそうな顔をしている。
どうして?わからないよ・・・・。
もっと時間が欲しい、イルカ先生を知るための。
そばにいたい。
「そういうのもう食べれないんですよね。・・・俺、料理だめだし」
「作りましょうか?」
ポロっとそんな言葉が出た。
「えっ?」
案の定イルカ先生は吃驚している。言ったオレも吃驚した。
「作れますよ、オレ。そういうの」
「いえ、あの・・・俺、そんなつもりじゃ・・・すいません」
謝らないで。
すっかり恐縮してしまったイルカ先生は俯いてしまった。こんな時自分の肩書きが疎ましい。
でもチャンスだと思った。イルカ先生に近づける。ここで引くわけにはいかない。
「えーっと、いえ・・・ほら!オレもそういうの食べたくなったし」
「一人だとそういうの作っても食べきれないし」
何を言ってもフルフルと首を横に振る。
「オレ宿舎住まいだから台所ないし、イルカ先生んちの台所貸してください」
最後はヤケクソだった。これで駄目って言われたら何を言っていいのか思いつかない。
「台所ですか・・・・?」
「ダメ?」
お願い、断らないで。
「でも・・・・」
イイって言って。
心の奥底から願う。
「最近使ってないから・・・汚いですよ」
それって・・・。
「掃除します」
言えばイルカ先生がふっと笑った。
「そんなことさせれません。俺がしときます」
「それってイイってこと?行ってもイイ?」
「はい。俺んちので良ければ使ってください」
やった!!
嬉しくなって思わずイルカ先生を抱きしめた。
「わっ!カカシセンセっ!」
腕の中で慌てふためいてじたばたするのに構わず抱きしめた。
「嬉しい、ありがとイルカセンセ。出来上がったら一緒に食べてくださいね」
そう言えば、ふっと力を抜いてコクンと頷いた。腕の中にイルカ先生の重みがかかる。
「おいしいの作るね」
コクン。
「茄子もいれてイイ?」
コクン。
「他に入れて欲しい物ある?」
「・・・・たけのこ」
「うん。わかった」
急に胸がいっぱいになって息を静かに吐き出した。
しあわせだった。
なんでこんなにしあわせに感じるんだろう。
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