やさしい手 3





「わぁ、あったかーい」
 弾んだ声に顔を上げるとイルカ先生が乾燥機の中から洗濯物を掻き出しているところだった。
 好きになっちゃったんだ、と呆然としてる内にいつの間にか乾燥が終わっていた。
 両手いっぱいに服やらタオルやらを抱えて顔をうずめ頬擦りしている。
「すっごく気持ちいいです」
 オレの視線に気付いて笑う顔からは幸せが零れてくるようだった。先ほど凍りついた心が一気に蕩けた。
「いいですねー乾燥機って。欲しくなっちゃいます」
 キラキラした目でそう言うと、先ほどまで座っていたところに洗濯物を置いて乾燥機へと戻って行った。そして濡れた服を掴んで中に詰め込むとくるっと振り向いて小首を傾げた。それにうんうん、と頷くとにこっと笑ってフタを閉じ、ピっとスイッチを入れた。
 イイなぁ、このヒト。なんか癒される。
 いつの間にか日は暮れ狭いコインランドリーの中が橙色に染まっていた。表を見ると夕暮れに包まれ、その光がコインランドリーの殺風景な風景を暖かなものに変えていた。イルカ先生も橙色に染まってる。それをほわーっと眺めているとテクテク戻ってきてドサッと腰を下ろし洗濯物をたたみだした。
 縦に一回、横に一回。
 大きいものは更に横にもう一回。オレも手に取って一緒にたたんでみる。
「あっ!カカシ先生、いいですよ、そんなこと」
「いいから、一人じゃ大変デショ」
 焦って止めようとするのににこっと笑いかけると、照れくさそうに鼻のキズを掻いた。
「すいません。じゃぁ、お願いします」
「ハーイ」
 手短に一番上にあったトレーナーを手に取った。この時期にトレーナー。何時から置いてあったんだろう、なんて考えは心の奥底にしまった。
 縦に一回、横に一回。イルカ先生を真似てたたんでみた。
 楽しい。いいなぁ、こういうの。
 普段は洗濯なんて面倒くさいだけなのにイルカ先生と、というだけでとても楽しい。これがイルカ先生の家でだったらどんなにいいだろう。任務を終えて帰ってきて、二人でのんびり取り込んだ洗濯物をたたむ。
 そんな光景を思い浮かべて、胸をじんじんさせていると小さなTシャツが出てきた。
「ん・・・」
 ちょっと現実に戻った。
「あ、それナルトのなんです。昨日泊まりに来てたから」
「そう」
 嬉しそうに笑うのを寂しく見つめた。
 その内この中にオレのも混ざるといいな。
 ふと赤と緑のチェックが目に付いて引っ張り出してみた。
 !!トランクス!イルカ先生はトランクス派なんだ・・・。しかも。
「三枚1000円・・・」
 次の瞬間、それは手の中から消えていた。
「こっ、これはいいですっ、自分でやります」
 真っ赤になったイルカ先生が素早くたたんだ。それを見ながら過ぎった考えに可笑しくなった。
 いつアレを脱がせるんだろう・・・。
 我ながら即物的な考えだった。目覚めたばかりの恋心は肉欲を伴っていた。
 やっぱりイルカ先生にホレてる。それも手に入れたいというレベルで。この際、このヒトが男だとかそういうことはどうでも良かった。所詮忍なんだからそういうのもアリだし。
 イルカ先生を見れば着ていた支給服の袖を引っ張っていた。天然気味のこのヒトが閨ではどんなカンジだろうとちょっと想像してみる。
 イルカ先生の手がベストのジッパーを下ろし徐に脱ぎ捨てるとアンダーの裾に手をかけガバッっと脱いだ。
 でもこのヒトって自分から脱ぐタイプじゃなさそーな・・・・。
 なんか違うなと思いながらも妄想は続く。
 服が首から抜ける瞬間、纏めてある髪に襟首が引っかかってゴムが取れた。ぱさっと肩に髪がかかり焼けてない肌とのコントラストに目を奪われた。
 エロい。無邪気な分よけいに。
 妄想に浸りながらやけにリアルだなと思っていると、イルカ先生の手がベルトにかかった。カチャカチャと音を立ててベルトを引き抜くとズボンのジッパーに手を・・・・・
 ん?妄想なのに・・・・音つき!?
「わーー!!待ってイルカ先生!?まだっ、まだ早すぎます!」
 慌てて手を掴みジッパーから手を引き剥がした。
 何で!?なんで脱いでんの?このヒト!
「早いかな・・・・。でもついでだから洗ってしまおうかと思いまして・・・」
 キラキラした目で洗濯機の方を見た。正確には乾燥機の方を。なんとなく 解った。
「もしかして、乾燥機にハマったの?」
 コクンと頷いてへへっと笑いながら鼻のキズを掻いてる。照れた時のこのヒトの癖。
 そうか・・・そうだったのか。勿体無い事をした・・・・・じゃなくて。
「イルカ、センセ。ここでパンツ一丁はマズイと思いますよ」
 自分が妄想と現実の狭間を彷徨っていたことは棚に上げて尤もらしい事を諭した。
「そうかな・・・・。じゃあ上だけ」
 洗濯物の中からTシャツを取り出して着ると落ちたゴムを拾って髪を纏め、洗面台でジャブジャブとアンダーを洗い出した。その無防備な後ろ姿を恨めしく眺める。
 あぁ、残念。妄想だと思ったから細部まで見てなかった。それにしても・・・まだ早いってなんだよ、オレ。ガキじゃあるまいし。
 らしくない考えにカーッと火照りそうになるのをふーっと息を吐いて逃した。



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