すこしだけ 48



 濡れた体を拭かないままベッドに縺れ込んだ。四肢を絡めて互いを求め合うと、水滴は汗に変わってベッドを湿らせた。性急に繋がると、駆けだしたカカシさんがすぐに吐精して俺の中を濡らした。あまりの早さに吃驚していると、カカシさんが照れたように笑う。
「…ゴメン、ガマン出来なかった。次はもっと頑張るから…」
 休む間無く力を取り戻すと、また走り出した。カカシさんが注ぎ込んだモノがクチュクチュと音を立てて、繋がったところが痺れるように熱くなった。
「あっ…ああ…ぅん…カカシさぁん…」
「…イルカ、せんせ」
 求めると唇が重なって吸い上げられた。顔が近づくと、カカシさんから俺の匂いがする気がした。ちゃんと流してから出たはずなのに、どこかに残っていたのか…。
 考え事をしていると、カカシさんの指が胸に触れ乳首を捻り上げた。
「あっ…あっ…」
 ぎゅぅんと高まった快楽に仰け反ると、勃ち上がった中心がカカシさんの腹に触れた。カカシさんの動きに合わせて中心が擦れ、甘露の壺に落とされた。気付かないうちに自分でも腰を振り立て快楽を求める。
「っぅ…イイ…、イルカ先生、スゴい…」
 カカシさんの感じ入った声に、はっと我に返った。羞恥して腰の動きを止めようとしたが、物足りなくなって動き出す。
「ね、今度はイルカ先生がオレのことイかせて?」
「え…?」
 ゆっくりと動きを止めていったカカシさんに頑是無い思いが湧き上がった。
「あっ…んっ…やだ…っ」
(足りない…、全然足りない…)
 自分で動いても動いても、さっきの快楽にはほど遠くてもどかしくなった。それでも腰の動きは止まらない。
「…んっ…ふくっ…ん!…ん…っ」
「ああ…気持ちイイ…」
 蕩けたカカシさんの表情に嬉しいと言う気持ちと、なんとかして!と言う気持ちになった。ぐちゃぐちゃに俺の中を掻き回して、白濁をたくさん注ぎ込んで欲しい。
「あ、あ、…ぅんっ…カカシ、さんっ!…ア…、カカシさん…っ」
「欲しい?イルカセンセイ、オレの、欲しいの?」
 オレの、がどちらを指しているのか分からなかった。カカシさんの白濁なのか、それともカカシさんがくれる快楽のことなのか。分からないなりに、うんうん頷くと「言って」と言われた。
「イルカ先生の口から言って」
「あ…んっ、ホシ…っ、早…くっ!欲しいっ…あっ」
 ぐっと膝裏を掴んだ手が足を押し上げた。腰が浮き上がり、真上から熱を叩き込まれる。
「ア――」
 あまりの快楽に声も上げられなかった。カカシさんの剛直が壁を擦り上げる。勃ち上がった前がブルンブルン震え、突かれる度に白濁をビルルと噴き零した。
(イク…っ!イク!)
 いや、もうイっているのだろうか?
 境目の曖昧になった体をカカシさんは尚も揺すぶり続けた。さっきの宣言通り、カカシさんはまだイク気配をみせない。
「あ――、あ――、しんじゃう…!」
 体の輪郭が解けて、カカシさんに溶けていく気がした。
「まだ死んじゃあダメだーよ」
 自由の失った体をカカシさんが思うように操る。勃ち上がった前も繋がった所も全てカカシさんに見られていることを知って、ますます体が溶けた。
(俺のみっとのないところも、恥ずかしいところも、全部カカシさんのだ)
 カカシさんが動きを変えて、腰を回す。卑猥な動きに感じて体の奥が収縮するように痙攣した。 俺からもカカシさんの全てが見えていた。
(ああ…、俺の愛しい愛しい人…)
「…カカシ、さん」
 両腕を伸ばすとカカシさんが腕の中に倒れてきた。逞しい背中に腕を回して離れないように背中に爪を立てた。
「イルカセンセ」
 喘ぐ唇を塞がれて、呼吸が出来なくなった。それでも口吻けを止めたくなくて、舌を伸ばすと吸い上げられて、パシパシと頭の中で白い光が弾けた。体の輪郭が希薄になり、肉体から解放されて魂だけになったみたいになる。目を開けていられないほどの光が押し寄せてきて目蓋を閉じた。目を閉じても、光は俺を飲み込み押し流していった。
「…センセ!イルカセンセ!」
 パチパチと頬を軽く叩かれて目蓋を開いた。あんなに眩しかった筈なのに目の前は真っ暗で、一瞬自分がどこにいるのか分からなくなった。カカシさんが心配そうに俺を見ている。
「…カカシさん…?」
「ウン。ああ…良かった。イルカ先生、気絶するからビックリしちゃった」
「え…?」
 カカシさんが何度も頬を撫でて髪を梳いた。心配そうだった顔が笑みに変わり、小さく微笑んだ。
「…気持ち、良かった?」
「え…?」
 はにかんだように聞かれて瞠目した。
「俺…」
「イルカ先生、失神しちゃったんだね。イったのと同時に中がすごく痙攣して…。オレ、あんなの初めて…」
 上機嫌なカカシさんに頬をちゅぱっと吸われて、腹の間を覗き込めば、胸が白濁で濡れていた。カカシさんのもいつの間にか強張りが溶けている。確かめるように動いた腸壁に、カカシさんが腰を回した。抜け出ようとするカカシさんの中心にまとわりついた腸壁がくちゅりと音を立てた。「いっぱい出たよ。ホラ」
 タプタプと音の鳴りそうな腹の中に何とも言えない気持ちが沸き上がった。
「あ…ッ…」
(…俺の、だ。)
 カカシさんは俺のものだ。カカシさんの体の中にあったものは俺の中に溶けて、俺の中にあったものはカカシさんの体の中に溶けた。
(これで二人が別々のものだなんてことがあるものか)
 倒錯的な想いに絡め取られた。
「…カカシさん」
「うん…?」
 聞き返す優しい声に甘える様に体を寄せた。
「カカシさん」
「ん」
 体を包む両腕を、絶対離したりするものか。


 残暑の残る日差しの中をカカシさんが俺の手を引いて歩いた。
「イルカセンセ、腰、痛くなーい?」
 朝から何度も気遣われて、その度に俺はこくんと顎を引いた。
「痛く無いです」
 ホントはちょっとジンジンと重い。まだカカシさんを受け入れているかのように後ろが広がっている気がした。でも大丈夫だ。ちゃんと閉じているのは、朝カカシさんが風呂場の中で綺麗にしてくれた時に確認済みだ。
 その時のことを思い出して頬を染めると、カカシさんが俺の顔を覗き込んだ。
「イルカ先生、熱なーい?」
 空いた手で俺の頬を押さえると、額当てを上げてオデコに触れる。
「…大丈夫です」
 ひんやりした手を心地良く思っていると、「あっ!」と聞こえた。見ると、アカデミーの同僚がびっくりした目でこっちを見ている。
「あ!」
 ぱっとカカシさんと繋いでいた手を離して後ろに隠すがとっくに見られた後だ。カカーッと顔を赤らめると、
「い、いや!いいんだ、それならいいんだ」
 意味不明なことを呟いて同僚が踵を返した。慌てたようにアカデミーの門の中へ消えて行くのに首を傾げた。
(どこかに行くつもりだったんじゃ…?)
 でも俺とカカシさんがイチャイチャしていたから、通り辛かったに違いない。
「ゴメンイルカ先生、職員室に入り辛くなっちゃったね」
 眉尻を下げるカカシさんに首を横に振った。見られたって構わない。あの人の耳に届けばいい。カカシさんには俺がいると言うことが。
「じゃあ、行ってらっしゃい」
「行ってきます」
 俺がアカデミーに入ると、カカシさんは上忍待機所へ向かった。今日は待機らしい。
 職員室の前に来ると中から話し声が聞こえた。
「はたけ上忍が…」
「そんなはず無いだろ」
「だって聞いた話では…」
「でもイルカとはたけ上忍がさっき門の前で……」
 どうやら見られたことが話題になっているらしい。緊張した面持ちで職員室のドアを開けると、お喋りしていた声が止んで、一斉にみんながこっちを見た。自然と顔が熱くなるが、素知らぬ顔で席に向かう。すると、一番仲の良い同僚がつかつかとやって来て、俺の腕を引いた。強い力と不機嫌な顔に、アカデミーの傍でさっきみたいなことは適切じゃないと注意されるのかと思ったが、
「どう言うことだよ、イルカ!はたけ上忍が婚約したって」
「え…?」
「相手は深窓の令嬢だって言うじゃないか。お前知ってたのか?」
「…………」
 言葉が耳に届かなかった。いや、聞こえていたけど理解出来ない。
(カカシさんが婚約…?)
「おい、イルカ!どうなんだよ!」
 呆然と立っていると、バン!とドアの開く音がした。俺の腕を掴んでいた同僚が俺の背後を激しく睨み、振り返るとさっき別れたばかりのカカシさんが職員室に入ってきた。
「イルカ先生、ちょっと」
 肩を抱いて促されるが、足が竦んで前に進まない。
「はたけ上忍どう言うことなんですか。イルカを騙したんですか?」
 硬直する俺に同僚が斬り付けるように聞くと、辺りに殺気が満ちた。
「ウルサイよ、アンタ」
 冷たい声にビクッと肩が震えると、それを合図にカカシさんが強引に俺を動かした。職員室を出て、空いてる教室に押し込められる。
「はぁ…」
 口布を下ろして溜め息を吐く人を、俺はぼんやりに見つめた。


text top
top