すこしだけ 41



 カカシさんが拗ねた。
 口を尖らせたまま夜道を歩く。
「カカシさん、そんなに怒らないでくださいよ」
「黙ってるなんて酷いよ。いろいろしたかったのに」
「忘れてたんです。大人になってからって、誕生日とかしないでしょう?だから――」
 失言だった。振り返ったカカシさんがじろりと俺を睨む。
「大人なのに誕生日を強請ったりしてすみませんね」
「そういう意味じゃなくって…!それに、あの時は付き合ってなかったし」
「オレは付き合ってるつもりでした!キスもしたのに…」
 そんな風に責められると、酷く俺がふしだらな気がして弱った。
「カカシさん、機嫌直してください。…ほんと言うと、誕生日は嫌いで…。両親が居なくなってから、ずっと誕生日はしてなくて、友達が誕生日会してくれるって言っても嫌で…」
 誕生日は一年の中で一番寂しくなる日だった。もう二度と両親に祝って貰えることが無いのが分かっていたから、友達に祝って貰ってもそれを実感するだけだから、誕生日は忘れて来た。嫌いな理由ごと、無理矢理胸の奥に沈めたはずなのに、すらすらとカカシさんに話している自分が不思議になった。ユリとクヌギに聞かれた時でも、もうそんな年じゃないからと誤魔化したのに。
「ゴメン、イルカ先生…」
 ふわりとカカシさんの腕の中に包まれた。
「辛いこと思い出させたね」
 それほど辛くないのが不思議だ。年月が経って、両親を喪った痛みが癒えたのだろうか?
 そっと首を横に振る。
「…辛く、ないです」
 きっとこの腕があるから。ぺたりとカカシさんの首筋に頬を付けると、背中を撫でられた。
「…イルカ先生。イルカ先生のお祝い、オレがしてい?」
 遠慮がちに聞こえた声にふふっと笑って頷いた。
「いいですよ。でもまだまだ先ですよ?」
(それまで一緒にいてくれますか?)
 頭の隅をふわっと過ぎるが不安はなかった。それどころか、カカシさんと蝋燭の灯ったケーキを囲む姿が想像できる。
「いーよ。あ、今年の分はオレのと一緒にしよ?」
「なんですか?今年の分って」
「いーの!ね!そうしよ」
 名案を思いついたみたいにカカシさんがはしゃいだ。


「ね、今日はイルカ先生が上に乗って」
 散々指で荒らされて、堪らなくなったところでカカシさんが言った。
(今日は…じゃなくて、今日も、じゃないか)
 思ったけど、むくりと体を起こしてカカシさんを跨いだ。覚えたばかりであまり上手くできないから、この体位は苦手だ。カカシさんの腹に手を突いて後にカカシさんを迎え入れようとしたら、つるんと逃げた。
「ダメだよ…、ちゃんと自分で持たないと」
 下からカカシさんが揶揄した。浅ましい姿を思い浮かべて、かあっと顔が火照る。それに持ったって、それだけじゃあ上手く挿らないのは経験済みだ。
「…やぁ…、カカシさんが…て…っ」
 焦れて浮かせた腰を揺すると勃起していた先端から汁が落ちた。ぽた、とカカシさんの腹に白い水溜まりを作る。
「そんなこと言って、昨日もオレにさせたデショ?今日はイルカ先生がして」
「やあっ…やだぁ…」
「このままでいーの?」
「やだぁっ!」
 観念してカカシさんのを掴んで後口へと運んでいると、カカシさんが下から突き上げた。手の中をカカシさんの熱が行き来して堪らなくなった。
「あっ、だめっ」
 カカシさんがイってしまったらどうしようと、焦りが頭の中をぐちゃぐちゃにする。もどかしさから涙を零すと、動きを止めてカカシさんが優しく言った。
「イルカ先生、自分で開いて」
 それが一番苦手だ。ぐずっと鼻を啜りながらカカシさんの腹に突いていた手を離すと自分の後ろに持って行った。触れるとぬちゃっと濡れていて怖くなる。
「…カカシさぁん」
 か細い声が漏れた。
「ん、オレがちゃんと広げておいたから大丈夫だよ」
 優しく見守られて、恐る恐る指を挿れた。そこはふやけたように柔らかくなっていて自分の体じゃないみたいだった。だけど感覚は確かに伝わってくる。
「ぅ…」
 カカシさんの指とは全然違う感覚に眉を顰めて、大急ぎでカカシさんのを運んだ。自分で触っても気持ち悪いだけだ。早く早くとカカシさんの先端を後口に当てて腰を下ろすが、上手く挿らなかった。
「ぇっぐ…、カカシさん、やって…!もうシて…っ」
「イルカセンセ、先端を引っかけたら指を離して」
 冷静に指示されて癇癪を起こしそうだった。このまま動かなければカカシさんがやってくれないかと甘ったれてみるが、じっと見つめられて涙を零した。泣きながらカカシさんの言うとおりにしたら上手くいった。入り口がカカシさんの先端を銜えたのを切っ掛けに、ぬぬぬと腸壁を擦る剛直を感じながら腰を下ろした。それだけで上り詰めそうになりながら、ぺたんとお尻が腰に付くと、カカシさんが誉めてくれた。
「良くできました。イイコ…」
 嬉しかったのに笑う暇も無かった。めちゃくちゃに突き上げられて息を乱す。
「あっ!だめぇっ…あぁっ…あー!」
 快楽に翻弄されて啼き喚く。気持ち良くてどうしようもなかった。




「イルカ、報告書だしといてくれないか?」
「ああ、いいよ」
 受付の交代の際、中間報告書を手渡された。そろそろと、それでも周りに気付かれない速度でイスから腰を上げると受付所を出た。
 腰が怠くて堪らない。対して、あんなに腰を使ったカカシさんはけろっとしたもので、今朝も鼻歌を歌っていた。何か鍛錬の方法があるのなら教えて欲しいものだ。そんなことを考えながら火影室に着くとドアを叩いた。
「火影様、イルカです。報告書をお持ちしました」
「入れ」
「失礼します」
 入室の許可にドアを開けるとそこには火影様だけでなく、見知らぬ女の人もいた。隙のない佇まいは忍びだろうが制服は着ていなかった。
「…失礼しました。お客様でしたら私は後からでも……」
「よいと言っておる。入れ」
 手招きされて入室すると、軽く女の人に黙礼した。相手も仕返してくれる。感じの良い雰囲気に、にこりと微笑むと火影様に書類を差し出した。
「午後の報告書です。特に問題はありません」
「うむ」
「…お茶を入れますね」
 先客との話がまだ続きそうなのを見て申し出た。
「おぉ、すまんの。儂としたことが…」
「いいんですよ、火影様」
 詫びる火影様の声に鈴を転がすような声で女の人が笑った。旧知の間柄なのか親しそうだ。
「どうぞ」
 二人にお茶を出しながら考えていたのはカカシさんの事だった。きっと、もう待っている。
「……まったく困ったもんじゃの、カカシには。イルカ、すまんがカカシを呼びに行ってくれんか?さっきから待っておるのだが、いっこうに来ぬのじゃ」
「えっ、そうなんですか…」
 考えていた人の名前が出てドキッとしたが、すぐに気を引き締めて考えた。誰かが呼びに行ったのなら上忍待機室へだろう。でもこの時間なら、カカシさんは職員室の前にいる。
「わかりました。すぐに呼んできます」
 カカシさんの代わりに謝りそうになりながら盆を片付けていると、来客があった。ドアの外の見知った気配に、カカシさんが来たことを知ってホッとした。
「失礼します。あれ、イルカセンセ?」
 意外な場所で俺を見つけたと目笑したカカシさんの目が、俺を通り越して驚きに変わった。
「あ」
「お久しぶりです。はたけ上忍」
(え?)
 ふわりとカカシさんの赤い糸が持ち上がる。振り返ると、カカシさんの赤い糸と女の人の赤い糸が繋がっていた。


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