すこしだけ 34



「みんなね、忍びを引退した人達なんだよ。火薬部隊にいた人が集まって、昔取った杵柄って言うの?趣味で花火作ってるんだよ」
 帰り道、俺の手を引きながらカカシさんが教えてくれた。体の中はさっきまでの興奮が冷めやらず、まだ花火の振動が響くようだった。
「そうだったんですか」
 いいな、と思った。俺も現役を引退したらそんな風に過ごしたい。火を消し終えて池の傍に戻ると、たこ焼きやトウモロコシを振る舞ってくれた。皆、親切でいい人ばかりだ。――カカシさんは、使いっ走りにされていたけど。
「先輩だからって、人使い荒いんだよ。だから毎年呼ばれるけど行かないようにしてるの」
 だったら何故……?と疑問を浮かべると、カカシさんが「楽しかった?」と聞いた。
「はい!とっても……!」
「良かった。ずっとね、イルカ先生に見せようって思ってた」
 にっこり笑うカカシさんの笑顔に、ここ数週間カカシさんがずっと俺の予定を気にしてたのを思い出して胸がいっぱいになった。絶対に残業を入れたらダメと言っていたのは、この為だったのだ。
「カカシさん…っ!」
 抑えきれないほど嬉しくなってカカシさんに抱きついた。
「イ、イルカセンセ!?」
 珍しく焦ったカカシさんの声を、額を押しつけた胸元から聞いた。
 カカシさんを好きだと思う気持ちが溢れかえって苦しくなる。
「カカシさん…カカシさん…!」
 どう言えばいいんだろう?
 想いが強すぎて、言葉に出来ない。
「カカシさん…!」
 伝えられないもどかしさは、抱き締め返されることで満たされた。骨が軋みそうなほど強く抱きしめられて、溜め息を吐いた。見上げると、すぐ近くにカカシさんの顔があって、伸び上がると自分から唇を重ねていた。薄い唇を唇に感じて、はっと我に返って離れようとすると、頭の後ろを支えられて口吻けが深くなる。
「ふぅっ…んっ……はぁっ…」
 くちゅくちゅと艶めかしい水音が誰もいない森の中に響いた。カカシさんが角度を変えて唇を合わせ舌を絡める。薄布一枚隔てた体をカカシさんの手が這い回り、胸が高鳴った。隙間無くくっついたカカシさんの鼓動もドキドキと早鐘を打っていた。
(…抱かれたい)
 沸き上がった衝動を抑える事が出来なかった。見上げると、熱を持った瞳に見つめ返される。カカシさんは抱擁を強くすると首筋に顔を埋めた。
「あっ…はぅ…っ」
 首筋を甘噛みされて仰け反った。信じられないほど甘い痺れが全身を貫き、啜り泣くような声が漏れた。体が芯が火照り始める。耳朶を甘噛みされて、カカシさんの息の音を聞くとますます熱くなった。
「カカシ、さん…っ」
 手を回して背中を掻き抱けば、浴衣越しにしなやかな筋肉の動きを感じることが出来た。
 愛しい、愛しい人。
 頬に唇を寄せてキスを強請れば、すぐに応えてくれた。舌を絡めて貪り合う。その唇が首筋へ下りて、鎖骨を吸い上げた。カカシさんが着物の袷を開いて露わになった胸に顔を埋めると、乳首に舌を絡める。
「あぁっ」
 ちゅっと吸い上げられて体が跳ねた。ジンと痺れた乳首を、尖らせた舌で押し潰すように捏ねられる。熱い手の平が浴衣の裾を割って太股を撫ぜ、いつもと違う早急なやり様に血が滾った。
「あっ…ぅんっ…あぁっ…」
「どうしよう…イルカ先生、止まんない…!」
 はっはっと熱い息が肌にぶつかり、それすらも快楽を生んで肌が粟立った。
(やめないで欲しい…)
 熱に潤んだ目で見つめ返すと、がつっとぶつかりそうな勢いで唇が重なった。カカシさんの背に手を回して、もっとと口吻けを深くする。差し込まれた舌を吸い上げると、流れ込んできた唾液を飲み込んだ。カカシさんに与えられるすべてが甘美だった。
「…スキ、イルカ先生スキ……」
 するっと下着の上から中心を撫でられる。そこがとっくに勃ち上がっていたのを知ると、カカシさんは下着をずらして直に握り込んだ。
「アアッ!」
 いきなり激しく扱かれた。すぐに先走りが零れて、カカシさんの手を濡らした。にちゃにちゃといやらしい音が暗闇に響く。立っていられなくて足がよろめくと、木に背を預けるように誘導された。
「あ…、あ、カカシさん…カカシさん…っっ!」
 駆け上がりそうになると、ふっとカカシさんの手が緩んだ。
「あ…っ!」
 強請るような淫らがましい声が漏れて羞恥した。
(そ、そうだよな…、外だもんな…)
 頭で分かっていても、一度火の点いた体は収拾がつかない。はあっはあっと息を吐いて、性感を堪えていると体を返された。
「ゴメン、イルカ先生。木に手を突いてて」
 え?と思う間無く下肢が空気に晒され、尻が割られた。ぬるりと生暖かいものが窄まりを這う。
「あ!や、やだ…っ!」
 振り返ると、しゃがんだカカシさんが俺の尻に顔を埋めていた。ひちゃひちゃと舐めては尖らせた舌で穴をこじ開けようとした。
「だめっ…ひぁっ…あ…っああっ…」
 止めさせないとと思うのに、舌が触れると甘い快楽が沸き上がった。膝がガクガク震え、前から勝手に先走りが零れた。カカシさんの手がそれを掬って後ろに擦り付ける。舌と指が同時に体の中に入って嬌声を上げた。舌が浅いところを解し、指が中を広げる。
 指先が前立腺に触れると、突き抜ける快楽に後孔が指を締め付けた。そこでの快楽を知った体が先を強請る。自ら腰を振りそうになるのをなんとか堪えた。
「あ…あ…あ…」
 もどかしい快楽に爪が木の皮を剥ぐと手が重ねられた。
 中に指を残したまま、カカシさんが背中に覆い被さる。振り返ると唇が重なった。
「…カカシさん、も……」
「……うん」
 くちゅっと指が抜けて、熱いものが宛がわれた。衝撃に備えて木にしがみつくと、カカシさんが腰を支え、熱が体を割り開いた。
「ぅあ…っ、あ…、あ…っ」
 ぬぬぬと太く硬いものが体の奥を満たしていく。狭い腸壁を埋め尽くす熱に体と心が歓喜した。
 カカシさんと深く繋がっている。
 奥まで進むとカカシさんはすぐに駆けだした。ずるっと半ばまで引き抜かれたもので突き上げられる。
「うあっ、あっ、あっ…」
 激しい抽送を繰り返されて息が乱れた。繋がったところがカアッと熱くなり、甘く痺れる。腰を支えていた手が前に回って、中心を扱いた。先を捻るように潰されて、電流が貫いた。
「ああっ!アッ…あぁっ…!」
 びゅくびゅくっと下肢が震え、熱を吐き出す。射精の快楽に震える体をカカシさんは尚も突き上げた。快楽が深みを増して足下の感覚が無くなってくる。次第にカカシさんと繋がっている所しか感覚が無くて怖くなった。
「ひゃぁ‥‥んぁっ…だめっ…だ…ぇっ…」
「ゴメン、あと少し…」
「ぅうんっ…、……あっ!く…る…、あ…、…っっ!!」
 2度目の絶頂は声も出せなかった。体が激しく痙攣して、中にいるカカシさんを締め付ける。「くっ」と押し殺した声が聞こえて、カカシさんが強く俺を抱いた。カカシさんの腰がビクッ!ビクッ!震え、体の奥に精液を叩きつけられるのを感じた。その刺激が甘い波を生んで啜り泣く。
「あっ…、ふ…っ」
 ぐったりして下を見ると、濡れそぼった俺の中心がたらりと白濁を落とした。クモが地面に下りるみたいに細い糸の伸ばすのを見ていたら、大腿に別の白が流れた。幾筋も線を描く。
(……カカシさんのだ)
 カカシさんが膝を折って、俺を抱きかかえた。その拍子にぬるんと繋がりが解けて、膝が崩れた。
「…イルカ先生、大丈夫?」
 胸に凭れて、はあはあ息を吐き出しているとカカシさんが顔に掛かった髪を除けた。手の甲で汗を拭いて世話を焼く。だけどまだ余韻に浸っていたかったから、ぴたりとカカシさんにくっついた。首筋に頬を付けて背中に手を回す。
「イルカセンセ?」
 不思議そうな声だったけど、俺がじっとしていたらカカシさんも木の根に腰を下ろして、そっと髪を撫でた。そしてそのまま息が整うまで、ずっと森の中で抱き合っていた。


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