すこしだけ 29
すぐにコトに及びそうだったカカシさんを押し留めて、風呂に入らせて貰った。憂いは取り除いておきたい。「一緒に」と言われたが、それはやはり恥ずかしいので断った。
タオルに石けんを擦りつけると、ぴかぴかに体を磨き上げた。これまであまり意識したことなかった奥まったところもちゃんと丁寧に洗う。パジャマを着て居間に向かうと、交代でカカシさんが風呂に向かった。
「ベッドで待ってて」
「………はい」
恥ずかしくってカカシさんの顔がまともに見られない。そそくさと寝室に向かうと、風呂場からシャワーの音が聞こえてきた。これからカカシさんと、あれこれするのだと思うと心臓がドキドキ高鳴る。
（…俺、望まれてるんだよな……？）
根深く染み込んだ不安が顔を覗かせるが、ぶんぶん顔を横に振ると、えいや！と布団に潜り込んだ。
（俺はカカシさんを信じる…！）
頭まで布団に入って緊張に耐える。でも、はた、と気付いて布団から抜け出た。
（……これからするんだから、パジャマは脱いでた方がいいのかな？）
今まではカカシさんが服を脱がしてくれてたけど、今日はお風呂に入ったし、そもそもすぐ脱ぐのに服を着る必要があったのか。
「うーん……？」
ぷちぷちとパジャマのボタンを外すと上を脱いだ。下も脱ぎかけて、
「………………」
自分の体があまり見栄えのいいものではないのを実感した。ズボンを引き上げて考え込む。出来ればどさくさに紛れて脱ぎたかった。パジャマの上を着込んでボタンをはめる。
（でも、カカシさんの手間になるかな……？）
もう一度脱ぎかけて、はっとなった。
（裸で待ってるなんてやる気満々みたいじゃないか……？）
実際、少しは気満々だったけど、そうと知れたらカカシさんは俺のことをはしたないと思わないだろうか？
（どうしよ……！どうしよ……！）
早くしないとカカシさんが風呂から上がってしまう。
「……どうしたの？」
「ひやっ！」
気配無く後ろに立たれて飛び上がった。いつの間にかシャワーの水音が止んでいる。ズボンの下だけ履いたカカシさんが肩に掛けたタオルで顔を拭いていた。その均衡の取れた綺麗な体に一瞬ぽうっと見とれるが、
「あ、あの……、俺……その……」
なんと言っていいのか分からず、しどろもどろになるとカカシさんの視線が鋭くなった。
「なぁに？今更したくなくなった、なんて言われても聞けませんよ」
「ち、違うんです……、その……パジャマは脱いでた方が良いのか、着てた方がいいのか判らなくて……」
一瞬きょとんとなったカカシさんが、ぷーっと吹き出した。体を丸めて笑う姿にこんなことを聞くのは、あまりにも物を知らなすぎたかと小さくなるが、
「わ、笑うなんて失礼です！なんでも聞いて良いっていったのはカカシさんじゃないですか！」
むくれて頬を膨らませると、カカシさんが「ゴメン」と笑いながら謝った。
「イルカ先生の好きにしていいんだよ？……オレは脱がしたいけど」
まだ笑いの収まらないカカシさんの指がパジャマの第一ボタンに触れる。ドキッとしながらカカシさんを見上げると唇が重なった。ちゅっと軽く触れるとすぐに離れたが、鼻筋や額に小さな口吻けを繰り返す。
カカシさんの唇が触れるのが嬉しかった。カカシさんがとても近くにいるのが嬉しい。
ちゅっ、ちゅっと顔の上で小さな水音が弾けて、そのうち背中に回った手がぎゅっと俺を抱きしめた。パジャマ越しにカカシさんの肌を感じて陶然となる。
「イルカ先生…」
手を引かれてベッドの傍に来るとカカシさんが俺をベッドに座らせた。カカシさんは跪いて俺を見ると、パジャマのボタンを一つ一つ外していく。だんだんと露わになっていく肌に心臓が爆発しそうになる。こうして素面で脱がされるのは、思わぬほど恥ずかしかった。
喉がカラカラに渇いて唾液を飲み込むと、ごきゅと大きな音がした。
「…興奮してる？」
「ちが…っ、緊張して……」
「そう？オレは興奮してる」
パジャマをはだけさせながら、カカシさんが俺を押し倒した。背中に柔らかい布団と胸に温かい手を感じた。唇を深く重ねられて口を開く。するりと潜り込んだ舌が口の中を這い回った。舌を掬い取られ、じゅっと音を立てて吸い上げられた。
「…んっ…あふっ…」
呼吸から甘い息が漏れて、カカシさんがちゅっと唇を離して俺を見た。情欲に濡れた目がそっと伏せられる。再び重なった唇がさっきより激しく重なり、俺を翻弄した。手は体を這い回り、胸の突起に触れる。そのうち唇は首筋から胸へ下りて、突起を吸い上げた。舌先が輪郭をくるりと舐めて、固く尖った粒にまとわりつく。きちっと歯で軽く挟まれると電流が流れたように甘く痺れた。
「あっ…あぁ…ん…あっ…」
感じて身を仰け反らせると、腿に触れた手が足の間に下りた。パジャマの上から揉み込まれて、熱く張り詰めていく。竿を掴んだ手にぐりっと先端を撫でられて啼き声を上げた。
「ああっ、…でるっ…！」
「もう？」
揶揄されてカッと顔が熱くなった。カカシさんはまだ余裕の顔で俺を見ていた。その顔を見て、一時快楽を堪えようとするが、数回軽く扱かれて音を上げた。
「あっ……、っ、…イ…きたいっ、あっ」
「まだダーメ」
甘く笑ったカカシさんが俺のズボンをパンツごと剥いだ。足を大きく割られて、熟したそこが丸見えになる。
「やぁっ…、見な…で…」
「見ないと出来ないデーショ」
「ひやっ…アァっ！」
ぬるっと先端が滑ったかと思うと、生暖かいものに包まれた。カカシさんの口の中で熱を扱かれて上り詰めそうになる。カカシさんの手が後ろの入り口に触れていた。前から零れた先走りを固く閉ざしたところに塗り込める。
「あっ！あっ！…んっ、…ああっ、だめぇ…っ、いっちゃ…っっ！！」
口の中には出したくなくて頑張ったけど駄目だった。きつく吸い上げられて、カカシさんの口の中に射精する。その間も、カカシさんは俺のモノから口を離さなくて、ちゅっちゅっと軽く吸い上げては快楽を長引かせた。
射精だけでは感じられない快楽に啜り泣いた。ひーひーと声を上げていると、カカシさんが俺の足を押し上げて袋にまで口吻けた。
「ああ…っ、あー…」
自分の足に胸を圧迫されて挿れられるんだと思った。はふはふと息を吐いて衝撃に備える。
だけど体を押し広げるあの圧迫感はいつまで待ってもやって来なくて、代わりにヌルッと何かが滑った。
「あ…？」
なんだと目を上げて前を見ると、カカシさんが俺の足の間に顔を伏せている。
「あっ！やだ…っ、汚いっ！」
「まだ言ってるんだ？」
「だって…」
言い訳しようとすると、目を逸らしたカカシさんの先を尖らせた舌が窄みを割って中へ潜り込んで来た。
「ああっ、あっ、やめ…っ、やめて…っ」
駄目だと言うのにカカシさんは聞いてくれなくて、ぐねぐねと柔らかい舌が秘肉の間を動いた。
「ぅうんっ…いや…っ、…アッ！…だめぇっ…ああっ」
駄目だと思うのに、そうされるのはたまらなく気持ち良くて、イッたばかりの前からたらたらと白濁した液が零れた。
「ああーっ、あーっ」
後ろを舌で弄られながら、前を扱かれる。あまりの気持ち良さにぽろぽろと涙が零れた。
「…だめぇ…っ、おかしくなる…っ、ああっ！」
舌の隙間から指が潜り込んで、アソコに触れる。
「…あっっ！」
もう一度イきそうになって体を硬くすると、ふっとカカシさんの手が前から離れた。
「やっ！どうして…っ？やぁ…っ」
「あんまりイきすぎるとイルカ先生辛くなっちゃうデショ」
「あぁ…んっ、…ねがい…おねが…いっ」
「イルカ先生…っ！」
ずるっと体の中で蠢いていた指が引き抜かれ、熱が宛がわれた。身構える余裕もないまま、熱く滾ったものが体を割り開く。
「ああっぁっ！」
いきなり最奥まで責められた衝撃に意識が飛びかけた。そんな俺に構わずカカシさんは俺の腰を掴むと最初っから飛ばしてくる。
「あっ！あっ！あっ！あ…っ」
突き上げられる衝撃に息を吐くばかりで吸い上げられない。朦朧とする意識の中、カカシさんが律動するところから大きな波が押し寄せて俺を攫った。苦しいのに気持ち良くて前後不覚になる。波が溢れて決壊しそうになるとカカシさんが俺の前を扱いた。嬌声を上げながら前を弾けさせると、びゅくっと体の奥が濡れた。
（あ…、カカシさん…ゴムしてない…）
気持ち良くて意識が途切れそうな中、カカシさんの声が聞こえた。
「あっ、出しちゃった…！」
その焦った言い方が可笑しくて、くすっと笑いながら目を閉じた。
目を開けると、隣で寝そべったカカシさんが俺の髪を梳いていた。優しい手と体に残る甘い痺れにとろんとなりかけるが、カカシさんからした石けんの香りに、はっと覚醒した。
（…早くしないとカカシさんが帰ってしまう）
哀しくなりながら体を起こしかけるが、腰から下に力が入らなかった。
「あ、あれ…？」
腕だけで体を支えると、カカシさんが背中に手を置いた。ただそれだけなのに、びくんと体が震える。
「あ…んっ」
甘ったるい息も漏れて、ばふっと枕に顔を隠した。
（なんて声出してんだ…っ）
カーっと恥ずかしくなっているとカカシさんが頭を撫でた。
「イルカ先生、疲れてない？どっか痛いとこない？」
さっきの俺の反応を変だと思わなかったのか、カカシさんは普通に聞いた。
「…なんとも、ないです」
「そう。体拭いといたから、今日はこのまま寝ても大丈夫だよ」
でも寝たら、カカシさんは帰ってしまうではないか。
喉元まで出掛かった言葉を飲み込んだ。服を着込んだカカシさんは帰るつもりに決まってる。
枕に顔を埋めたまま頷いたら、カカシさんが体を起こす気配がした。じわじわと押し寄せる寂しさに、顔を上げてカカシさんを見送ることも出来ない。
すると、のしっとカカシさんが背中に覆い被さった。体に手が回り、首筋にカカシさんが顔を埋める。
「あー、帰りたくない」
低い声が背骨に響いた。また震えそうになるのを堪えながら、チャンスだと思った。
「………帰らなきゃいいじゃないですか」
ぶっきらぼうに言うと、カカシさんが動きを止めた。
「いいの？そんなこと言ったら泊まるよ？泊まったら、ますます離れたくなくて居着いちゃうかもよ？それでもいーの？」
「そんなの、好きにしたらいいじゃないですか…っ」
「…………」
何も話さなくなったカカシさんに、心臓だけがドキドキと煩く騒いだ。冗談だったのかと諦めかけるが、
「………ウン」
と、小さな声が聞こえて強く抱きしめられた。
「好きにする」
ぐりぐりと首筋に押しつけられる頭を後ろ手に撫でると、手を取られ指先に唇が触れた。
「よろしくね、イルカ先生」同棲生活の始まりだった。
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