すこしだけ 22
下ろされた先はいつも使ってる硬いベッドで、そこに二人で座るとギシッと軋んだ音が立った。まだ体が小さかった頃に買ったベッドは、大人になった今では一人で眠るにもぎりぎりの大きさで、カカシ先生と座るとますます小さく見えた。
「……カカシ先生。ベッド…狭いですよね…?」
俺の額当てを解いて、耳に口吻けてきたカカシ先生に聞いてみた。
「…そうかな?別に気にならないよ」
囁いたカカシ先生の息が耳の中に入ってくすぐったい。カカシ先生の手がベストのファスナーを下ろして、襟元を広げると首筋に唇が触れた。啄むように軽く吸い上げると、淡い刺激を残しながら耳元に戻って行く。
ベストを脱がされ、アンダーの裾をたくし上げられて、手を上げると指先から服が離れていった。肌に触れる空気に身震いすると、大きな手が肌を温めるように撫ぜた。引き寄せられて体を預けると、カカシ先生の体温が伝わって温かい。
「解いていい?」
頷くと髪を一つに纏めていた紐が緩んで肩に髪が落ちた。硬い髪に指を通して纏めて掴むと、カカシ先生が髪に顔を埋めた。抱きしめる力が強くなる。
すうーっと大きく息を吸い込むカカシ先生に、あることが気になってもじもじと体を揺らした。
「……どうしたの?」
「…お風呂にまだ入ってないです。入って来てもいいですか?」
「え」
カカシ先生がじっと俺の顔を見た。何か言いたげで、思案するような顔をしている。
「…このままでいーよ?」
「でも……」
カカシ先生は鼻が良いから嫌なのだ。前にカカシ先生の家で俺の服を洗ったのも、他の男の匂いが付いていたからだと言っていた。
俺にはちっとも匂わなかったのに、そんなことを言うカカシ先生に、俺も自分では気づいてない匂いを発してるんじゃないかと気になった。せめて洗って綺麗にしたい。それでなくてもカカシ先生はいろんなところを触ったり、舐めたりするから気が気じゃないのだ。
「すぐ上がりますから」
体を撫で回すカカシ先生の手を引き離そうとすると、逆に腕を掴まれた。
「じゃあ、一緒に入るならいいよ?」
「えっ!い、嫌です!そんなの――」
あれこれ洗うところなんか見られたくない。泣きそうになりながら身を捩ると、「却下」と狭いベッドの上に折り重なるように倒された。
「お風呂っ!お風呂…っ」
「……ゴメンイルカ先生、待ちたくない。このままシよ?」
俺の上に乗っかったままカカシ先生がこつんと額を合わせた。こんなに近くにいるのに、カカシ先生には俺が気にしていることを気にしている素振りはなかった。
「でも……」
「ん?」
「………俺、臭くないですか…?……汚いから、待っててくれたらすぐに上がって来ますから……」
「どうして汚いの?汚いところなんてどっこもなーいよ。匂いだって、すっごく良い匂い。イルカ先生の匂い好き」
(やっぱりなんか匂うんだ!!)
ショックでぎゅっと体が縮こまったが、遅れてカカシ先生の言葉が脳に届いた。
(………でも、好きって言った……)
縮こまった体から、強張りが解けていく。
「……俺は、どんな匂いがするんですか……?」
「んー?えっとねぇ、イルカ先生の匂い」
「そ、そんなんじゃ分かりません!」
憤慨して睨み付けると、カカシ先生がくすくす笑いながら長い指で俺の髪を梳いた。何度も何度も指を通してこめかみに口吻ける。すんと鼻を鳴らされても、さっきほど気にならなかった。カカシ先生の指が優しいから、匂われてもいいかなと思えてくる。
「あのね、晴れた日のお日様の匂いがする。ずっと嗅いでると、ぽかぽかして温かいの思い出してホッとする。すごく良い匂い。大好きな匂い。大好きな、イルカ先生の匂い」
顔を上げたカカシ先生がそっと瞼を伏せて、唇が重なった。いつものキスと違って、長く唇が触れ合う。ゆっくり唇を離したカカシ先生が、指先で俺の頬を撫ぜた。じっと見つめてくる瞳から声が聞こえてきそうな気がして「なに?」と聞き返しそうになったけど、その前に体を起こしたカカシ先生がベストとアンダーを脱ぎだしたから聞けず終いになった。
「イルカ先生、こっち」
ぽんぽんと布団を叩かれ、ベッドの中央へと移動する。やっぱりベッドは狭くて二人が寝転がるほどの幅はなかった。
俺の体を跨いだカカシ先生が上に伏せて来て、ちゅっと音を立ててキスした。俺を見つめるカカシ先生の瞳の色が真剣なものに変わって、トクトクと鼓動が早くなる。カカシ先生の唇が下唇を押して隙間を作ると舌を滑り込ませた。歯の表面や上唇を舐めると歯の間をこじ開けるようとする。口を開くと舌は大胆に入り込んで、俺の舌を絡め取った。ぬるぬると舌が擦り合わされ、舌の縁を舐める。
「ふ・・んっ」
くすぐったいのと紙一重の刺激が走って、舌を引っ込めるとカカシ先生が尖らせた舌先で口蓋に線を描いた。
「んんっ…、はっ…、ぁっ」
カカシ先生が舌で触れるところがビリビリと痺れる。口を閉じたいけど、閉じたらカカシ先生の舌を噛んでしまうと、必死に口を開いていたら唇の端から唾液が零れた。
(あ‥‥)
慌てて喉を動かしたら、口の中にある舌を舌と口蓋で挟み込む形になって、カカシ先生が小さく跳ねた。
(気持ち良かったのかな……)
ぼんやりそんなことを考えていたら、思いの外肉厚だった舌が狭くなった口の中を動き回って、いつもより強い刺激が生まれた。
「ふあっ…、あっ…」
(…気持ちいい……)
キスだけで体が熱くなって鼓動を弾ませていると、カカシ先生の手が体を撫ぜた。脇腹や腹の上を手の平が行き来し、胸へと上がって肩や首筋を撫でる。耳朶をくにくにと弄んだ手が今度はそうっと耳の縁を撫ぜで、ささやかな刺激を敏感に感じて首を竦めるとカカシ先生が唇を離した。濡れた唇で頬に触れるとぱくりと耳を食べてしまった。
「あっ…!やっ!」
そこへの刺激は強すぎて、体がビクビクしてしまう。嫌がって逃げようとすると頭を押さえられ、舌が耳の穴へと押し込まれた。
「あっ、あっ、だめ…っ、カカシせんせい…、そこ…だめっ…」
「どうして?気持ちイイデショ?」
確かめるように体を撫でていた手が足の間に滑って、服の上から中心に触れた。緩く勃ち上がりかけていたものを押さえつける様に揉まれて腰が甘く疼いた。
「ふぁっ…あ…っ」
ぎゅーんと急激に熱が昂まって、思わずカカシ先生の手を掴むと、手はあっさり離れた。
(え…?いつもならもっと強引にしてくれるのに……)
カーッと頬が燃えて熱くなった。そうするのが当たり前みたいに思っていたのが恥ずかしい。
「イルカ先生、俯せになってくれる?」
「え…?」
俺の思惑を知ってか知らずか、カカシ先生は次の行動に移った。昂ぶりを触れられただけで放って置かれるもどかしさと、いつもとは違う展開に戸惑った。ひっくり返されてカカシ先生が見えなくなるのが嫌で、でも自分からは何も言い出せなくてじっとしていると、カカシ先生が肩先を撫ぜた。
ちゅっと口吻けると唇で挟んだり、ちろちろと舐めたりする。空いた手が体を撫ぜたが、いつも触れる所には触れてくれなくて、またもどかしくなった。ジリジリとトロ火で炙るような感覚が肌を覆い、じれったくなる。
「カカシ、せんせ…」
何を言おうとしたのか名前を口にした時、カカシ先生の唇が背骨に触れて、びくん!と体が大仰に跳ねた。なんだ?と思うと、またカカシ先生が同じ所に触れて、舌を這わせる。
「…っ、……、…ぁっ」
浮き出た骨の一つ一つを舌で辿られて体が跳ねた。堪えたいのに堪えられない。舌が這う度におかしな感覚が生まれて背中の筋肉が勝手に引き攣れた。
「ふあっ、アッ、…カカシ、せんせい…っ」
這って逃げると引き戻されて、布団の上を滑った。軽々とそうしたカカシ先生に吃驚するが、つうっと皮膚の薄いところを撫ぜられて、それどころではなくなった。
カカシ先生の指が傷跡を撫でる。
「……イルカ先生、ココ、まだ痛い?」
「痛くはないですけど、ヘンな感じがするからあんまり……、アッ!」
触れないで欲しいと言い終わる前に、唇と舌先が触れた。
「きれいな色……。ここね、ピンク色になってて、すごくきれい……」
声の振動ですら傷跡に響いた。ひくひくと跳ねる体をシーツを掴んで堪えようとしたが、カカシ先生が話し続けるからムダに終わった。
「イルカ先生が怪我した時のことはね、上忍の間でも噂になってて…、ずっとね、どんな人なんだろうって思ってた。イルカ先生に会ったこと無かったから会ってみたいなって。ナルトから話を聞いたらますます会いたくなって…、会ったら……」
「……がっかり、しましたか?」
「ふふっ、どうして?あんまり可愛いんでビックリしちゃった」
「か、可愛…!?何言ってんですか!可愛くなんてないです!」
「可愛かったよ!心臓がドキドキして…、ねぇ、イルカ先生。イルカ先生は一目惚れって信じますか?」
俺の強がりは、カカシ先生に傷跡を抉るように舐められたことで吹き飛んだ。
「ああっ!」
ビリビリッと強烈な電流が背骨を駆け上がって、体が反り返る。唇と舌で嬲られ電流が流れっぱなしになった。
「ひっ…ん…、だめ…ぇ…っ」
浮き上がった胸を前に回った手が撫でつけ突起に触れた。手の平で転がされると、触れてくれと言わんばかりにツンと勃ち上がり、指先がそれに応えてきゅっと摘むと捩り上げた。
「あっ…あぁっ、…あっ」
背中と胸への愛撫に甘い痺れが足先まで走って下肢を疼かせる。熱を持ち始めた中心は、カカシ先生にのし掛かられて布団に押しつけるだけだった。刺激が得られないもどかしさに、知らず下肢が揺れる。
その動きはすぐにカカシ先生に伝わって、背中から唇が離れた。
「イルカ先生、イキたいの?」
あんまりな質問に顔から火が出そうになる。
「ち、ちが…っ」
否定したのにカカシ先生の手は下肢へと伸びて中心を探った。
「あっ、やっ…!」
「…スゴイことになってる。ね、見せて」
「や、やだ…っ、……やっ!」
抵抗すると、カカシ先生は易々と俺をひっくり返してズボンのファスナーに手を掛けた。
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