すこしだけ 18



 カカシ先生の俺を押さえつける手が痛かった。逃げたりしたいのに、腕をがっちり掴んで離さない。
 これは任務なんだと思おうとした。外勤なら上官に命じられて伽の相手をすることもあると聞く。
 任務なら仕方がない。カカシ先生が望んだことだ。俺が誘ったんじゃない。
 だけどそう割り切るには身に降りかかるすべてのことが生々しく、嵐のように俺を飲み込んだ。
「…っ!…んっ」
 セックスがこれほど赤裸々で恥ずかしいものだとは思ってなかった。人ごとのように知らん顔するのを体が許してくれない。カカシ先生が触れる一つ一つの動きに反応して、体が小さく跳ねた。
 大きな手が体を撫でたり揉んだりする。何でもない動きなのにさーっと撫で上げられると背中がビクッと引き攣った。
 さっきは痛みしか残さなかった唇が首筋を這い上がって耳たぶに触れる。くすぐったさに首を竦めると、カカシ先生が耳を食んだ。水に浸かったみたいに音が籠もる。狭い穴に舌を伸ばされると、直接脳を舐められたみたいに水音が響いた。
「ぅ…、ぁっ…!」
 微電流が走ったみたいにビリビリした。穴から這い出た舌が耳たぶの窪みを舐める。耳がそんなに敏感な場所だとは知らなかった。
 止めて欲しいのに気持ちいい。
 震えながら耳への愛撫に感じ入っていると、カカシ先生の手が胸を撫でた。寄せるように揉みながら、指に引っかかった突起を押しつぶす。捏ねたり、くりくり回されたりされて、そっと指から胸をずらした。
 そこを触られるのは好きじゃない。指がすぐに追いかけてきたから、もう一度逃げるとカカシ先生が顔を上げた。
 じっと顔を見られて視線を逸らす。
(…そこは性感帯じゃないです)
 カカシ先生の間違いを訂正してあげられる状況じゃないのがもどかしかった。むしろあまりされると痛くなりそうだから止めてほしいと思っていると、カカシ先生がそこに顔を伏せた。暗闇でも赤く見える舌を伸ばすと舌先を動かして乳首を舐める。その繊細な刺激にピクッと体を揺らすと、堅くした舌先で粒を弾いた。
(別にカンジた訳じゃない。ちょっと、くすぐったかっただけで……)
 それに視界に写るカカシ先生の仕草が卑猥だった。なんだかすごくやらしい。ぐねぐねと舌先を転がして、形を変える乳首を見せつけられて顔が赤くなった。 そのうち乳首はツンと尖って舌を押し返した。俯いたカカシ先生の口から唾液が滴って乳首を濡らす。ますます滑りの良くなったそこでカカシ先生の舌は踊るように動いた。唾液の中で捏ね回されて、くちゅくちゅと水音が立つ。
「……っ、はぁ…っ」
 じわじわとヘンな感覚が生まれて身を捩った。ずれた舌はカタツムリが這ったような跡を残してまた戻って行く。
 ちゅっと吸い上げられると、何かがぱしっと弾けた。心臓が激しく波打つ。
「ぁっ!」
 漏れた悲鳴に慌てて口を塞ぐと、カカシ先生がまたソコを吸い上げた。軽く歯先で噛んだり、掘り起こすみたいに舌で抉る。
「ぅっ…んっ、…はっ…あ…あっ!……もういい…っ、もうやめてっ」
 胸への刺激が腹の底へと響いて悲鳴を上げた。唇が離れても、まだ触れられてるみたいにジンジンする。
 はあっはあっと声を漏らさぬよう殺していた息を取り戻していると、カカシ先生の頭が移動した。触れられていなかった反対側に口吻ける。
「……あっ!」
 一度覚えた甘さを体はすぐに再現してみせた。乾いた砂漠に水を零したように、じゅんと甘さを染み込ませる。何も感じなかった乳首はカカシ先生の舌を甘露に変えた。動かされる度に甘く疼いて胸を振るわせる。
 ほったらかしにされた方をカカシ先生が指で摘んで捩った。両方への刺激に息が絶え絶えになる。舌と指が生み出す甘いうずきは下肢を起こした。触れられてもいないのに勃ち上がる。
「あっ、あぅっ、や…っ、あっ……!」
 カカシ先生に気づかれるのが恥ずかしい。だけど、たたたっと舌で激しく叩かれてのけ反った。
「んぁ…っ!」
 跳ねた腰がカカシ先生の腹に当たって、ぬるっと滑る。先走りまで零しているのを知って、羞恥に顔を背けた。
 カカシ先生はこんな俺をどう思っているだろう?浅ましいと思っているだろうか?
 耳たぶに触れていたカカシ先生の指が離れる。その手が下に下がって大腿に触れると、ビクビクッと体が痙攣した。ぎゅっと揉まれて嬌声が漏れる。
(……また触ってくれるだろうか?)
 浅ましい期待が顔を覗かせた。瞬時にそれを押しやると腰を捩ってカカシ先生の手からソコを遠ざけようとしたが、膝裏を掴んだ手が片足を押し上げた。感じているところを大きく晒されて顔が火照る。いや、体中が火照っていた。どこもかしこもジンジンと熱い。
「やだ…、はな…て……」
 足を閉じようと力を入れるが、カカシ先生が体を割り込ませて閉じれなくする。大きな手が太股を滑って中心へと下りてくるのを、震えながら待った。
 期待する気持ちが消しきれない。だけどカカシ先生の手は俺が思っていたよりずっと下へ下りていった。二つの双丘の奥、窄まった所に震える指先が触れる。
「やだっ!」
 とんでもないところを触られて、逃げようとする体を押さえ込まれた。恥ずかしい云々の話じゃない。そこは絶対に他人に触れさせて良いところじゃない。自分でだって直接触った事がなかった。
「いやだっ、やっ……ああっ!」
 抵抗するとがぶっと首筋を噛まれた。痛みに体を震わせると、カカシ先生が首筋から歯を外して囁いた。
「今からイルカ先生をオレのものにするから」
――え?
 俺を押さえ込んだまま、カカシ先生は手を伸ばしてベッド脇のチェストの引き出しを開けた。中から歯磨き粉みたいなチューブを取り出すと蓋を捻って双丘の間に垂らす。冷たさにひくっと体を跳ねさせると押さえる力が強くなった。
 昨日読んだ漫画が頭を過ぎる。
(やばいっ!)
 カカシ先生がしようとしていることに気づいて焦った。アレだ。漫画に描いてあったヤツ。
(おしりの穴に入れようとしている!?)
「カカシッ先生!ちょっと待って!まって……!」
「待たない。もういっぱい待った」
 逃げようと足をバタつかせながら、ふぇ?と疑問が過ぎったが、ぐりぐりと窄まりにぬるぬるを塗りつけられて、それどころではなくなった。早くカカシ先生の間違いを訂正しないと、とんでもないことになる。きっとカカシ先生もあの手の漫画を読んだに違いない。でもそれを間に受けるなんて……!
「やめっ……、それ…ちがっ、ちが…ああっ!」
 ぐっと押されて、あっけなく入って来た指に驚いた。指は止まることなく奥へと進んでいく。
「あ!いやだっ!やだっ!」
 汚い。そんなところにカカシ先生の指を入れられたのかと思うと泣きそうになった。なのにカカシ先生は構わず中で指を動かす。
「ひぃっ…、やめて…、やめて……」
「……痛いの?」
「…………汚い……」
「なんだ、そんなこと」
 こともなげに言うと太股に唇を這わした。その間も指は挿れられたままで中を広げるように動かす。
「……っ!……っ!」
 言っても無駄だと、お腹に力を入れて指の侵入を防ごうとするとカカシ先生が顔を上げた。
「イルカ先生、力抜いて」
「…………」
「イルカ先生……」
 ふぅっと溜息みたいなものが聞こえた。動かなくなった指に達成感を覚えていると、つるりと中心が柔らかくて滑った温かいものに包まれた。
(な、なんだ…!?)
 目を開けてとんでもない光景が飛び込んできた。カカシ先生が俺のを咥えている。
「…!…!…!」
 吃驚しながら首筋の痛みを思い出した。抵抗したから噛まれるのだろうか? 痛みよりも恐怖に近い冷たさが胸に広がって、ヒッと喉を鳴らした。
 だけどカカシ先生がしたことは違った。唇を窄めたまま、頭をゆっくり上下に動かす。
「あっ!ああっ!」
 口で扱かれて、どっと砂糖に漬けられたような甘さがそこから生まれた。
「あっ、あっ、あっ」
 声が上がるのを抑えられない。指を挿れられて萎えかけていた中心は、ぐんと張り詰めて天を向いた。口の中で舌が優しく表皮を擦る。
「…あっ!…ふぁっ、んんっ…!」
 薄い唇に己の中心が飲み込まれて引きずり出される様を見ていると、ますます中心が猛った。中の動きを再開されてもどうにも出来ない。いつの間にか指が増やされ、二本の指が中を掻き回していた。時折指を折り曲げ探るように壁を擦る。
「あ…あ?」
 何が起こったのかわからなかった。カカシ先生の指がそこに触れると体が跳ねる。前を咥えられて気持ち良いのに、それ以上の気持ち良さが中の触れたところから湧き上がった。
「見つけた。ココ…?」
 場所を確かめるように指がそこを抉った。
「…っっぅ!!うそ…っ…あぁ…だめっっ」
  体の奥にしこりみたいなものがあった。そこを擦られると、おかしいほど気持ち良くなる。今までの快楽を凌駕する快楽に飲み込まれて、意識する間もなく前を弾けさせていた。俺を咥えていたカカシ先生の教えることすら出来なかった。口の中に出してしまい、激しい快楽と罪悪感に苛まれているとカカシ先生の喉がこくんと動いた。もう一度こくんと喉を動かして口の中のものを嚥下すると、濡れた唇をぺろりと舐める。その姿を見て、腹の奥がずんと重く痺れた。
「…やらしい」
 カカシ先生が俺を見て言った。
(そりゃ、アンタだろう…)
 言ってやりたいが言葉にならなかった。イったばかりの体を指で蹂躙される。口から零れるのは意味の無い喘ぎ声だけで、その合間に息をするだけで必死だった。カカシ先生の指が飽くことなくそこを刺激する。二度射精した中心がむくりと身を起こして快楽を望んだ。更に指が増やされてぴりっとした痛みが走ったが、すぐに気にならなくなった。指を引き抜いたカカシ先生が自身を扱いて俺に当てる。
「………」
「………」
 一瞬カカシ先生がじっと俺を見たけど何も言わなかった。ぐっと体を前に倒して俺の中の押し入る。
「あ、…いっ!」
 指とは比べものにならない熱と体積を持ったものが狭い腸壁を押し広げる。苦しさに息を詰めて耐えようとすると、カカシ先生の動きが止まった。
「…っ!は…っ」
「イルカ先生、息して……」
 カカシ先生が辛そうに顔を歪める。くっと奥歯を噛んで手を伸ばすと、俺の頭や頬を撫ぜた。
「カカシ、せんせ……」
 ふっと安心して力を抜くと、ぐんと体の奥へと熱が進んだ。
「あっ…く…ふぅ」
 驚いた体がひくついたけど、今度は止まらずゆっくり進んだ。だんだんとカカシ先生が体の奥を満たしていく。
「っは、繋がった……。イルカ先生大丈夫?」
 すべてを納めると、カカシ先生が覆い被さった。涙で滲んだ視界の向こうに心配そうなカカシ先生の顔が現れた。
「……か…し、せんせぇ……」
 胸に広がったのは悔しさでも嫌悪でもなく、喜びだった。大きな喜びが競り上がって、つうっと目の端から転げ落ちた。涙を拭おうとする大きな手が温かかった。寂しいことがどこにもないみたいに、カカシ先生でいっぱいになる。コトコトと温かいものが胸を満たして幸せな気持ちになった。俺は、幸せだった。
「イルカ、センセ……」
 カカシ先生がゆっくり動き出した。奥まで埋め込んだ熱を引き摺り出す。ずずずっと壁を擦りながら熱を奪われて寂しくなった。だけどそれは一瞬で、倍以上の衝撃でもって戻ってきた。
「ああっ……アッ……はあっ…」
 繰り返されて体が熱くなる。最初馴染ませるように動いていたそれは、徐々に動きを変えて勢いを増した。がつがつと怖いほどカカシ先生が腰をぶつけてくる。乳首や昂ぶりを一緒に刺激されると意識が飛びそうなほど気持ち良かった。カカシ先生が見つけた中のしこりを昂ぶりで突かれると訳が分からなくなる。
「あぁ…っ、カカシ、せんせっ!…カカシせんせぇっ……」
 怖くなって腕にしがみつくと、カカシ先生が俺の頭を抱えて深く口吻けた。俺もカカシ先生の髪に指を滑らせてしっかり抱え込んだ。すぐに呼吸が苦しくなって唇を離したが、カカシ先生は離れて行ったりせずに耳や首筋に口吻けを落とした。密着した体の間で昂ぶっていた熱が擦られる。
「あっ…あっ…、イ…クっ…、ああっ…ん、あぁっ」
 一緒に、とカカシ先生が耳元で囁いた。頷くけど、初めての俺にはどうしたらいいか分からない。とにかくカカシ先生がイクまで我慢したらいいのかと、今にも弾けそうなな熱を必死に耐えていたら、これ以上ないほどカカシ先生が早く動いた。擦れ合うところが発火しそうに熱くなる。互いの腹の間にあった俺の熱も揉みくちゃにされて爆発寸前になった。
「ああーっ!あっ、も、…だめっ、もう…っク…」
「うん、いいよ。イって」
 止めとばかりに深く腰を押しつけられて熱が弾けた。
「ああっ!ああぁーっ!」
 体がバラバラになりそうな快楽に全身でのたうつ。痙攣しているとビチャッと体の奥が熱く濡れるのを感じた。しがみついたカカシ先生の体が細かに震える。射精の余韻は長く尾を引いた。大きすぎる快楽に呼吸が長く整わない。
 ぐったりしているとカカシ先生がゆっくり俺の中から冷めた熱を引き抜いた。くぷりと先が抜け出る感覚にふるりと体が震えた。
 動けなくて大きく開いたままの膝をカカシ先生が閉じた。双丘の間からとろりと温かいものが零れてきた。
 あっと現実に帰って慌てているとカカシ先生が俺の体を返した。俯せにして腰を持ち上げる。
(あれ…??)
 始末してくれるのかと思った。恥ずかしいけど、溢れてきたものを拭いてくれるのかと。だけどカカシ先生がとった行動は違った。
 双丘を開くと、解放したばかりの熱を押し当てる。
(ええーっ!?どうして!?……俺、もうムリだから!!!)
 振り返ると、カカシ先生がぐっと体を沈めた。突き刺さる昂ぶりは解放したばかりには見えない。さっきよりずっと楽に挿入ってくる。
「ぎゃーっ!!カカシ先生!俺、もう無理ですから!!」
「うん、大丈夫」
 ぬっちぬっちと動き出す腰に抵抗すると中心を掴まれた。握りつぶされるのかとヒヤリとすれば扱き出す。
「うあっ…無理…っ、むりぃ…、アッ!!」
 だから、乳首に触るのは止めて欲しい。弄り倒されて体を許すと背中の傷に口吻けられた。
「ひぁっ!だ、ぇっ…、カカシ、せんせぇ、やっ…ぁっ…」
「うん、大丈夫だから」
「あっ、…あっ…」



 いつの間にか辺りは真っ暗になっていた。裸の肌に羽毛布団が掛けられ、柔らかく温かい感触に疲弊した体はウトウトと眠りに引き戻されていた。

……っ、…ひっく…

 誰かが泣いている。
「酷いよ…こんなこと……。こんな風にするつもりじゃなかったのに…」
 悲しい泣き声だった。パタパタと頬に水滴が落ち、聞いているだけで悲しみに胸が潰れそうになって両手を伸ばした。
(さあ、大丈夫。こっちへおいで。俺といっしょに眠よう…)
 腕の中に収まったぬくもりを抱いて、深く眠りへと落ちていった。
 それは温かな眠りだった。


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