すこしだけ 15



翌日、補講も残業も全部断って、真っ直ぐ家に帰ると玄関のベルが鳴るのを待った。
時間指定が出来なかったから、そわそわ待ち続けてようやく品物が届いたのは日が暮れてからだった。
箱に入ってるから中身は見えないのに、気恥ずかしい思いをしながら判子を押して箱を受け取ると、玄関に鍵を掛けた。

(さて、いよいよだ)

居間に運ぶと、ビビビ、とダンボールのミシン目を裂いて箱を空ける。
出てきた雑誌と書籍の数々を畳みの腕に並べて、まず雑誌から手に取った。
インターネットで見た時、これですべてが判りそうな気がした。
裸の青年が表紙のそれは、いかにもって感じで、捲ると、

「わっ!」

ムキムキでマッチョな男達が見開きでずらっと並んでいた。
しかもパンツを履いてない。
股間を隠すのは葉っぱだったり、誰かの手だったりとかで、あまりのむさ苦しさと生々しさに雑誌を取り落とした。
額に冷たい汗が浮かぶ。
あまり見たい代物ではなかったが、これも研究の為とページを捲った。
これまたムキムキのポーズを決めたボディビルダーだった。
俺が知りたいのは男の体じゃない。
ざっと裸のページを捲ると目的の写真を探した。
それは男同士で写っている写真、――つまりカップルの写真だ。
二人の体験談があれば尚良い。
俺は一つの可能性を思いついた。
今まで俺の赤い糸の研究は男女の恋愛が対象だっかたら、男同士の恋愛の時、赤い糸がどうなっているのか見ていなかった。
赤い糸は男と女だけを繋ぐ物だと思っていたが、そうでないかもしれない。
どうしても女の人が好きになれない男の人が居ると聞いたことがある。
そんな人たちが男同士でくっついたら赤い糸はどうなっているのか。
もしかしたら、同性同士でも糸が繋がっているかもしれない。
でもそんな人が居なければ、別の方向へ伸びた糸を持ちながら、それでも相手のことが好きでいられるかもしれない。
赤い糸に左右されないで、添い遂げることが出来るかもしれない。
あくまでも可能性の話だが、同性愛の人が居る限り無視出来ない話だった。


一冊目の雑誌は一人で写った写真ばかりで、イビキさんやアスマさんみたいな人たちばっかり掲載してあった。
俺は筋肉とか髭には興味ないけど、同性愛の人たちが気に入るのは二人みたいなタイプなんだろうか?
これはあまり参考にならなかったなと脇へ避けた。
次に手に取ったのは漫画だった。
だって男同士がどんな恋愛をするのが気になるじゃないか。
だけど内容は眉唾ものだった。
まったく初対面の二人が意気投合してホテルへ行く。
そこで一夜を共にして、翌朝にはさよならするのだ。
続きがあるのかと思えば無い。
一夜を共にしたのにそれっきりなのだ。
まったく。
男としての責任はどうなっているのか。
そもそも出会ったばかりでホテルに行くヤツがいるもんか。
嘘臭さに漫画を脇に遣り掛けるが、

「…………」

気になって、ページを戻した。
裸になった後がよく判らなかった。
キスしたり、抱き合ったりするのは判るが、重なり合った時何をしているのか。
肝心な部分が白くなっていて、ドコに挿れているのか判らなかった。
絵からすればソコしかないが、ソコはまさかなと思う。
俺だって童貞だけど、保健体育の授業はちゃんと受けたから、女の子とする時どうするのかぐらいは知っている。
でも男にはその部分が無い。

(漫画だし、そこは幻想を抱いてあることになっているのだろうか…?)

この手の本のルールが今ひとつ掴めなかった。
でも、何故カカシ先生が俺の胸を触ったのかは理解できた。
そこは性感帯という事になっているらしい。
だけど実際は皮膚の一部で、触ったところでどうってことない。

(もしかしたらカカシ先生も漫画とかで情報を得たんだろうか?)

あの時のカカシ先生の不思議そうな顔を思い出して可笑しくなった。

(気持ち良くない?って、良い訳ないのに…)

信じたりするなんて、なんて素直なんだろう。
漫画を放り出すと、ごろんと寝転がった。

(カカシ先生は今どの辺にいるのかな…?)

もう任地へは着いたのか。
それともまだ移動中なのか。
カカシ先生がいないと夜が長い。
ころんとうつ伏せになって、もう一つの雑誌を手に取った。
ぺらぺらと捲ってみると、さっきのみたいにムキムキでは無かったが、どれも同じような写真で面白くない。
ただこうして見ると案外普通の人が同性愛者なんだなぁと感心した。

(そういえば、カカシ先生はどうなんだろう…?)

追及したことは無かったが、俺に告白したってことはそっちの人なんだろうか?
でも女の人にすごくモテるのに?
だけど前に結婚には興味ないって言ってなかったか?
………だとしたら、やはりカカシ先生はそっちの人だったんだろうか?

もしそうなら、赤い糸なんて気にしなくてもいいような気がする。

カカシ先生が男しか好きにならないのなら、相手が居たって気にしなくてもいいんじゃないか?
だけど相手の人はどうなるんだろう?
うーん、うーん……。

考え出すと一つの可能性を支点にいろんなパターンが思い浮かんで頭を悩ませた。
結局はまず糸を確認することから始めようと決めて、またページを捲った。



選んだ本が良くなかったのか、これというほど参考になるものは無くて送られてきた箱に本を戻すとゴミに出した。
カカシ先生に万が一にも見つかって、こんな本を読むヤツだなんて思われたくなかった。
3日分の夕食代が無駄になってしまったが、だた一つ参考になったことがあった。
それは木の葉の里内にも同性愛者の男の人たちが集まる出会いの場所があったことだ。
ハッテン場と言うらしい。
そこは里の外れにある遊郭街の近くにあるバーだった。
地図は頭に入れたから、今夜行ってみることにした。
写真で見るより、実際会った方が知り得る事が多いだろう。
昨日と同じく、すべての誘いと残業を断って家に帰った。
忍服では不味いから私服に着替えた。
誰かに見られても俺だとバレないように顔の傷を消して髪を解いた。
これだけで随分雰囲気が変わる。
日が暮れるのを待って、家を出た。
遊郭街へは歩いて三十分もすれば着くからゆっくり歩いた。
少し緊張する。

上手い具合にカップルと出会えるといいが。


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