眠れない夜 2
その箱が届いたのは、注文したことすら忘れていた1ヶ月後の夜のことだった。
ご飯を食べて、カカシさんと並んでテレビを見ていたら玄関のチャイムが鳴った。
「うみのさーん、お届けモノでーす」
「「はーい」」
立ち上がろうとする前にカカシさんが立った。
「オレが行くからイルカ先生テレビ見てていーよ」
くしゃっと髪をかき混ぜて笑うと、電話台の引き出しからハンコを取り出して玄関に向かった。後姿を見ていると開いた扉の向こうに小さな箱を持った配達員がカカシさんの向こうに見えた。カカシさんが箱を受け取り、受領印を押す。
「ごくろーさま」
扉が閉まるとカカシさんがニコニコしながら居間に戻ってきた。
「すいません。なんでした?」
「ん?いーもの」
「いーもの?」
開けても無いのになんでそんなこと分かるんだろうと思っていたら、
「あ!これオレ宛の荷物。ここ送り先にしちゃった。ごめんね、マズかった?」
「いえ、いいんですけど・・」
あれ?
「でも『うみの』って、さっきの人」
不思議に思っていると、カカシさんが種明かししてくれた。えへへと笑いながら指差した送り状の名前が『うみのカカシ』になっていた。
わーっ!なにやってんの!?このヒト!
なんかすっごくこっ恥ずかしいんですけど!
ふわーっと体温が上がって激しく照れた。照れたけど、でも。家族になったみたいで嬉しい。嬉しくて嬉しくて楽しくなって、へらーっと笑うとカカシさんに押し倒されてしまった。
「もーぉ、イルカ先生可愛い!」
「なに言ってんですか。可愛いのはカカシさんの方です!」
ごろごろぎゅうぎゅうしながら一頻りイチャイチャし終えると送られて来た箱が気になりだした。
「…カカシさん、あの箱なにが送られて来たんですか?」
「気になりますか・・?」
カカシさんの腕の中から顔を上げると、ひたっと額を合わせてきた。
「あ・・、いや・・」
立ち入った事を聞いてしまっただろか?
差し出がましいことを言った気がして不安に視線を揺れると、カカシさんが俺ごと体を起こした。
「気になりますよね!じゃあ、あっち行って見ましょーね」
箱をがしっと片手で掴むと明かりを消して寝室に移動する。手を引かれて付いていくと向かい合うようにベッドに座らされ、その中央に箱が置かれた。
「なんかね、在庫切れのがあって届くのが遅れてたんです」
「はぁ・・」
なにが・・?
だけどそれは箱が開いたら分かることなので黙って待つ。
嬉々としながら箱の周りのテープを剥ぐカカシさんの手元を見ながら、なにかが心の奥でひっかかった。何かを忘れているような、思い出せそうで思い出せないもどかしい気持ち。
………なんだっけ?
思い出したのは蓋が開いた瞬間だった。
「あ!!」
どこか見覚えのあるパッケージ。ボトルの形。そして漢字で書かれた『蛍』の一文字。
本能が逃げろと告げた。考える間もなく体がベッドから飛び降りようとするが、腹に腕が回って引き戻された。ふわっと体が浮いて背中に衝撃を感じた時にはカカシさんに背を預ける形で拘束されていた。
「は、はなして・・っ」
「だーめ。だってイルカ先生もその気、デショ?」
「ちが・・っ」
「そう?でもイルカ先生が先に逃げたからダーメ。オレがその気になっちゃった」
ちゅっと耳の下を吸い上げられて体が震えた。カカシさんの唇が耳朶を含み、舌先が淵を擽る。直接耳に吹き込まれた水音が頭の中で弾ける。
「んぁっ、あっ、だめ・・、んーっ、やめっ・・」
「ホントに?どうしてもダメ?」
耳から唇を離したカカシさんが俺の体に腕を回したまま、じっと顔を覗きこんできた。
「ダメ?絶対ダメ?」
「うぅ・・」
ズルい。最近のカカシさんはズルい。前だったらこんな時、すっと引いてくれたのに、最近は引いてるようで引いてない。っていうか絶対引かなくなってきた。かと言って強引かと言えばそうでなく不安そうにこっちを窺がう。
俺はこの不安そうな目にめっぽう弱い。
――オレのこと嫌いにならないで。
そんな風に見つめられるとぎゅうとかしたくなって困る。カカシさんって言ってることと、やってることは責めなくせに、性格は受身で大きな受け皿が俺のために用意されてるから、そこにざばざば愛情を注いでやらないといけない気がして、ついついその大きな体に腕を回してしまう。
そんな訳で、
「イルカセンセイ、大好き」
カカシさんの声にはっと我に返った時には、カカシさんの首に腕を回してしがみ付いていた。