眠れない夜 3
しまった、間違えた。
これじゃあシテください、だ。
そうっと首から腕を外して離れてみようと試みるが、背中に回った腕がそれを許さない。
「カカシさん・・箱、見るって・・」
仕方なく中身に話題を振れば「そうだったね」と腕を緩めた。背を預けて座りなおすと、カカシさんがいそいそと箱を引き寄せた。膝の上に乗せられたそれを二人揃って見下ろす。だけど手は出し難くて、じっと見ているとカカシさんが中の一つを手に取った。
『48手コンドーム』。
やっぱりカカシさんの一番気になるのはそれなんだ。
どきどきしながら見ていると目の前でピリピリと薄いセロファンが破られた。箱を開けると逆さまにして、中身を全部出した。折りたたまれた紙と冊子が膝の上に落ちる。カカシさんが冊子の方を手に取り開いた。
「わあ・・勉強になる。・・ね?」
なになに?と覗き込むと男女の絡み合う絵が描いてある。
「そ、そ、そ、そうですね!」
慌てて目を逸らすが、一瞬目に飛び込んできた絵柄が脳裏に焼きついてチラついた。
あ、あ、あ、あんなことするのか!?俺、出来るのか!?
ばくばくと高鳴る心臓に落ち着きを失くす。かっと頭が熱くなって、鼻の奥がつんとなった。
ヤバい!
身に覚えのある感覚に息を吸って吐いて鼻の奥を冷やした。すん、すんと鼻を啜るって確認する。
大丈夫だ。鼻血、出てない・・。
ほっと胸を撫で下ろして俯いた。もう冊子を見ることは出来なくて箱に視線を向ける。
他には何が・・。
ページを捲るカカシさんの意識がこっちを向いてないことを確認して、こっそり中を見た。
『蛍』はカカシさんが気付いてないうちにベッドの下に落とす。
明日片付けてどっかにやってしまおう。
それから○ぶ○ぶ付き。
こんなのでされたら俺、どうなるんだよ。
想像がつかない。そっと箱を下に落とし『蛍』と同じ道を辿ってもらうことにする。
後は普通のと、味つき。
普通のはあった方がいいだろうし、味つきもまあ、それぐらいだったら・・いいかな・・。
その二つと潤滑剤を箱に戻して、こそっとカカシさんを仰ぎ見ればまだ冊子に夢中になっていた。
こうなると長い。
イチャパラ読んでる時を思い出して読み終えるのを待つが、・・暇だ。
あんまりほったらかしにすると寝るからな、と不貞腐れつつ。冊子と一緒に落ちてきた紙の方を思い出して手を伸ばした。
なんだろう?と開いて心臓が飛び出そうになる。
そこには一個一個に違う体位が描かれたコンドームが貼り付けてあった。そこには睦みあう男女の絵が描かれている。
心臓をばくばく言わせながらも、俺も男なので興味が無い訳じゃない。ぺらっと捲る紙の音を耳に留めつつ、小さい絵に目を凝らした。
見る。
よーく見る。
・・どうなってるんだろ?
一見しただけでは分からない。ぺりっと紙から剥がして顔を近づけた。
なにゆえつま先が相手の頭より高い位置にあるのか。
向き間違えてる?こっち?あれ?それともこっち向き?
手の中でくるくる回していると、すっと横から伸びた手がそれを取り上げた。びくっと跳ねるとカカシさんがくすりと笑う。
「イルカ先生、集中しすぎ。これはね、こっち向き。オレがイルカ先生の両足を持ち上げて開いた足の間に顔をうず――」
ぎゃあー!言うなっ!
「わ、わかってます!それぐらい、俺にだって・・」
黙らせたい一身で言い切ると、カカシさんがにっこり笑う。
「そっか。そうだよね。結構この中のやつってやったことあるもんね。名前付いてるなんて思わなかったけど・・、ほら、これ。『理非知らず』って。コレしてるときのイルカ先生ってすっごい気持ちよさそうなエッチな顔して――。深く挿入るからオレもキモチいいんですけど・・」
含み笑いするカカシさんに頭の中が沸騰する。
そうなのか!?そんなことシたのか!?
最近の最中なんて与えられる快楽についていくのに必死で、どんな格好をしているかなんて覚えてない。覚えていないことを突きつけられて恥ずかしい。恥ずかしくて耳を塞ぎたいのに、筋肉が固まってしまってぴくりとも動けない。動けないのは深く挿入ってきたカカシさんを体の奥が思い出して、お腹の中が熱くなったから。熱くなって、それで――。
「それから見て、千鳥って。オレの技と同じ名前の体位もあるんですよ。こんな風にしたらイルカ先生苦しいかもしれないけど、ちゃんと体支えて苦しくないようにするから今度試してみてもいーい?」
カカシさんの言葉の一つ一つに身を炙られる。細胞が熱に膨張して輪郭を失くしたみたいに感覚がおぼろげになっていく。
カカシさんが黙り込む俺の顔を覗きこんだ。
「イルカセンセ・・、どうかした?」
「・・っ!」
そうっと腕を撫ぜる手に体が大袈裟に跳ねた。
さっきみたいにびくっとではなく、ひくんと。腕を撫ぜられただけでカンジてるみたいに。
「……もしかして、煽られちゃった?」
言い当てられて、ぎゅっと目を閉じた。瞼の奥で瞳が潤む。今にも火を噴きそうな体を持て余して、はふはふと息を吐いた。だけど体は熱くなるばかりで一向に冷めやらない。
きっと、カカシさんにくっついてるからだ。
そっと離れようとするとカカシさんの腕が強く絡んだ。膝を立てて俺を囲うと足を絡めて逃げれなくする。
「どこにも行っちゃあ、ダメ。……さっきのつづき、シよ?」
耳の中に熱い息を吹き込まれるとへろりと体から力が抜けて、抱きかかえられるまま背中を預けてしまった。