はなつ光 3
髪を梳いて現れた顔ににんまり口元が緩んだ。こんなに真っ赤になった人を見たことない。
「イルカセンセー、照れてるの?」
つんつんと鼻先と突付く。目と口をぎゅっと閉じてはいるけれど、思った通りその表情に嫌悪は見当たらない。体と同じように強張った頬が極度の緊張を伝えていた。
ガチガチに固まったイルカ先生を見て余裕を取り戻した。
「イルカせーんせ」
(怖いことなんてしなーいよ?)
親指の腹で髪の生え際を優しく撫で付けた。
それでも目を閉じたままのイルカ先生に、伸び上がってキスすると、ぴくっと閉じた瞼が震えた。それからぎゅううと眉間にシワガ寄った。
考え込むみたいに。
(くすっ)
目を閉じていても考えていることが読めてしまうイルカ先生の表情の豊かさに可笑しくなる。
(目を開けたらいいのに)
だけど疑問に思いながらも目を開けないのは、きっと許されてるからだ。
唇に触れることも、体に触れることも。
「センセ」
喜びに体中が火照った。溢れ出ようとする押さえきれない何かに叫びだしたくなる。
押さえつけていた手から布団を剥ぎ取ると指を絡めてしっかり繋いだ。汗ばんだ熱い手が食べてしまいたいほど愛しい。
「大好き」
耳元でしっかり聞かせると、目を閉じていても分かるように唇でしか出来ないことをした。
重ね合わせた唇を吸い上げる。
ちゅっと離れる瞬間立てた水音に繋いだ手が小さく震えた。
だけど振り払われたりはしない。
(やっぱりいいんだ)
嬉しくなって何度もした。ただ唇がくっつくのが嬉しい。表面の感触を覚えると、閉じた下唇を唇で挟んで愛撫した。その弾力と柔らかさに夢中になる。前にした時よりもずっとあたたかで気持ちいい。
繰り返すうち次第に気持ちが高ぶって、中に侵入したくなった。
イルカ先生の中に入れて欲しい。
上唇と下唇の間を舐めて許しを請う。
(入れて、入れて、入れて)
それでも入れてくれないから、仕方なく唇を離すと顎を掴んで押した。
「あっ」
驚いたような呼気と共に開いた唇にすかさず舌を差し込んで口を閉じれなくするとイルカ先生の舌を求めた。舌を伸ばせば柔らかくぬめった舌先に触れる。触れた途端、奥へと逃げようとするイルカ先生を追いかけてた。絡めようとする舌と逃げる舌が重り合って擦れる。ただそれだけのことがとんでもなく気持ちいい。
「もっと…、イルカ先生、もっと・・」
喰らい付くように深く唇を重ねて口の中をかき回した。
「んん・・っ、ふぁっ・・」
ざらついた上顎を擽ると感じ入るような甘い声が上がり、背中を仰け反らせる。その反応に理性が溶けた。
もっと声が聞きたい。もっと反応するところが見たい。
頭を抱えて執拗に擽ると、押し返すようにイルカ先生の舌が動いた。その舌を絡めとって吸い上げる。口の中に招き入れて擦り合わせるとイルカ先生が震えた。
繋いだを手を強く握り締め、くぐもった声を上げるのに唇を離すと息を切らしたイルカ先生が口を開けて大きく喘いだ。
口の端から飲み込めなかった唾液が零れ落ちる。それを舐め上げていると、こくりとイルカ先生の喉が動いて口の中のものを飲み込んだ。
イルカ先生の体の中に流れ込んだオレの唾液を思うと、更なる衝動が込み上げた。
――もっと、イルカ先生の中にオレを。
強い想いに突き動かされてイルカ先生の体に手を這わせた。喉元に唇を這わせながら服の下に手を入れて乳首を探し当てた。指先で捏ねると、そこはすぐにつんと尖って指を押し返す。服を捲し上げて胸の頂きに吸い付くと、ひくんとイルカ先生の体が引き攣った。反った背中の隙間に腕を差し込み引き寄せると唇を押し付けた。
「あっ!うぅ・・、ん・・っ」
抑えながらも甘く上がった声に呼吸が早くなる。
なんて敏感なんだろう。
これは?と仕掛けたことに体で反応してくれるから嬉しくなる。
それならココはもっとだろうと手をズボンの中に差し込むと、届く前に慌てたように手を掴まれた。
制止が掛かったことにぎくっと心臓が冷える。動けないでいるとイルカ先生が身を捩って背を向けた。そのまま一言もしゃべらず体を硬くする。
「・・イルカセンセ・・、イヤだったの・・?」
聞けば、首を横に振った。そのことにほっとする。
「つづき、シていい?」
ぶんぶん。
「ダメなの?」
「・・・・・・・」
「セックスするのはイヤ?」
「・・・・・・・」
返事もしなくなったイルカ先生に戸惑う。キスは許してくれたのにと思うと混乱する。下肢に触れようとするまでは確かに快楽に染まっていた。それなのにどうして先に進んではいけないのか。
(一番最初の時は最後までシたくせに)
一瞬、過ぎった考えは頭の奥底に押し遣った。口が裂けてもそんなこと言いたくない。責めることもオレじゃダメなのかと考えることもしたくなかった。だけど――。
「もしかして、なにか酷いことした?一番最初の時に・・」
可能性を考えて口にすれば、ぶんぶん首を振った。だったら、
「オレのこと、嫌い?」
恐る恐る聞くと強く首を振ってオレを安心させた。
「イルカ先生、ココにも触らせて。カンジてるイルカ先生が見たいし、一番感じるところに触れたいです。オレのすることでイルカ先生に気持ちよくなって欲しいし、オレもそうなりたい。だって、――好きなんだもん」
好きなんです、好き。
繰り返すうちに腕を掴んでいたイルカ先生の手から力が抜けていく。
「き、らいに、ならないで・・」
「なるわけないでしょ?」
途切れ途切れの言葉を不思議に思いながら一際強く抱きしめると、掴んでいた手から完全に力が抜けた。今はただ、縋るように腕を掴む。
それを了承と受け取って、手のひらでイルカ先生の性器を包んだ。初めて触れるイルカ先生の性器にドキドキしながら快楽を煽った。ゆっくり上下させて性器を扱く。次第に芯を持ち始めるのにほっとしながら扱く手を早くした。
強張りながらも「ん、ん・・」と押し殺した声が漏れるたびに心臓が高鳴った。腕の中にカンジてるイルカ先生を抱きしめて、これ以上ないほど興奮した。触れてもいない己の性器が滾っていく。押し上げる服が窮屈で仕方なかった。
でもまずはイルカ先生を。
そう決めて、イルカ先生に集中した。はあ、はあと荒い息を吐くイルカ先生の横顔は髪に隠れて少ししか見えないけど、上気した頬や赤く染まった耳はとても扇情的だった。熱くなっていく体から微かに汗の匂いがたち始めて、こっそり息を吸い込んだ。
「気持ちいい?」なんて聞くまでもなく、手の中のモノが張り詰めていく。ちゃんとカンジているのが嬉しかった。
(そろそろかな?)
先端に触れれば、そこは先走りに濡れてぬるっと滑る。
「ぁぅ・・、・・っ」
堪えきれず、といった態で漏れた声に背筋が震えた。もっとヨクしたくて鈴口を抉る。
「ぁ、ぁ・・ゃっ」
強く首を横に振ると体を丸めて快楽に耐えようとする。腕を掴む手が震えのにイルカ先生の限界が近いのを感じた。
根元から強く擦り上げると腕に爪が食い込む。
「イって」
手の動きを早くすると、泣きそうなか細い声を上げてイルカ先生が痙攣した。手の中のモノが魚のように何度も跳ねる。それを宥めるように緩く包んでイルカ先生が落ち着くのを待った。部屋の中に青い匂いが立ちこめる。それは初めて嗅ぐイルカ先生の雄の匂いだった。
|