こっ恥ずかしくて口に出せない 4





「いるかへんへ、おいひ?」

口元に運ばれたフォークに、はむっと口を開けてケーキを頬張った。
雛鳥に餌を運ぶようにせっせとケーキを掬うカカシさんの声が鼻声なのは、気のせいじゃない。
ちらりと横目で見ると、赤く染まったティッシュがカカシさんの右の鼻の穴に詰まっている。
視線に気付いて、にっこり笑う顔が痛々しかった。
怒った俺の逃亡は、一歩も前に進むことなく終了した。
寝室に逃げようとした俺の足をカカシさんが捕まえて、俺がずっこけた。
その俺のかかとがカカシさんの鼻にヒットして、つーっと鼻から血が流れ落ちた。

「は、鼻血!」

慌ててティッシュを数枚引っこ抜いてカカシさんの鼻に押し付けるが、カカシさんが俺の足を離さない。
みるみるティッシュが赤く染まったのに、カカシさんは俺の許しを請うばかりで自分の怪我は関知しなかった。

ああ、ああ、そうだった。
カカシさんってそういう人だ。

喧嘩の原因になった可愛いって言葉も、前に怒った時必死に謝ってきた。
あの時は、カカシさんが人前で俺のことを可愛いって連発したから怒ったのだが、後から考えるとそんなに怒る必要もなかった。
もう二度と言わないと誓わせてからは、カカシさんがそれを人前で口にすることはなかったし、今回はちょっとミスったが、言えば判る人なのだ。
それに、

‥‥大人になるってなんだよ、俺!

カカシさんが自分のために買ったTシャツをちゃっかり着せて貰った上に、カカシさんの足の間に抱っこされてケーキを食べてる俺って、どこをどうとっても大人な部分が無い。
すべてを譲ってくれたカカシさんの方がよっぽど大人だった。

「はい、あー‥んっ」

俺の口の動きに合わせて声を掛けるのは止めてくれ。

気まずくて仕方ない。

「カカシさん、こっちの腕緩めてください。痛いです」

ぎゅうぎゅう腹を抱く腕を押すと、カカシさんの顔が哀しく歪んだ。

「‥う、うん」

一向に緩まない腕がしばらくして少しだけ腹から離れたのは、カカシさんの精一杯の妥協だろう。

‥ったくもう、この人は。

はぁっと溜息を吐くと、びくっとカカシさんが震えた。

アンタはどこも悪くないだろうが。

「‥鼻、痛くないですか?」
「うん!なんともないれす」

なんともなくはない鼻から赤く染まったティッシュを抜いて、血が止まったか様子を見た。

「イルカセンセ、もう平気だから」

見られるのを嫌がって、背ける顔を手の平で包んでこっちに戻す。
ちゅっと血の止まった鼻の頭にキスをすると、腹の腕がまた絞まった。
肩にぐりぐり額を押し付けられてカカシさんの体重が掛かる。

「イルカせんせ、オレのこと嫌いになってませんか?」
「なれる訳ないじゃないですか」

押し潰されそうになりながら背中に手を回すと、ぐんとカカシさんの体重が掛かって畳の上に転がった。
もさもさとふさふさの頭を撫ぜてカカシさんを慰める。
俺のことに関してだけは非常に傷付き易いカカシさんを思い知って深く反省した。

カカシさんを怒ってはいけない。
カカシさんはちょっと人より夢見がちで、無邪気なだけだ。
そこをちゃんと判ってやらないと。
俺以外、誰もカカシさんを受け止められないのに。

「カカシさん、好きですよ。大好きです」
「‥‥ホントに?」
「ええ。世界中で一番大好きです」
「ホントにホント?」
「はい。宇宙中で一番、カカシさんがだぁーい好きです」

髪に隠れたカカシさんの耳がふわあっと赤く染まるのが、見てくてくすぐったかった。
つい笑い声を上げるとカカシさんもふふっと笑ってぎゅっと抱きついてくる。
銀色の髪を掻き上げてこめかみに口付けると、ようやく顔を上げたカカシさんがにこっと笑った。
その照れたようなあどけない笑顔にきゅんとなる。
胸の奥に、そうっと宝物を置かれたような温かさが広がって、俺を幸せな気分にした。
カカシさんの手が背中に回り、抱き起こされる。

「イルカせんせ、もしお腹がいっぱいになったなら、もうあっちに行きませんか?」

あっち、と寝室を指差されてドキドキする。

「ええ‥、ええ、そうですね」

体に触れるカカシさんの手を、腕を、強く意識した。
「じゃあ」と残ったケーキを冷蔵庫にしまったカカシさんが戻って来て、差し出された手に捕まると寝室に連れて行かれた。
居間の明かりが消されると、寝室を満たすのは月の明かりだけになったが、でもそれはすべてを隠すほど暗くはない。
忍びの目に、俺のTシャツを裾から引き上げるカカシさんの手はしっかりと映って、かぁっと顔を火照らせながら両腕を上げた。
Tシャツを脱ぐとカカシさんの手は下衣にも掛かる。

ぜ、全部脱ぐのか・・?

まだ酔ってない内から素っ裸にされるのは苦手だった。
素直にズボンから足を抜きながらも、そそくさと布団に入る。
じっと待ていると、服を全部脱いだカカシさんが掛布団を捲った。
そのまま隣に滑り込んでくるものと思っていたら、いらないとばかりに床に落される。

わーっ!

真っ白な布団の上で素っ裸にされて慌てた。
これじゃあまな板の上の鯉ならぬ、布団の上のイルカだ。

も、もっと秘めてくれ!

「カ、カカシさん布団‥っ」
「ん?あると暑いでしょ?」

のっしと体の上に手をついて覆い被されて目を閉じた。
こうなったら早く始めてワケの判らなくなる所まで連れて行って欲しい。

「イルカセンセ・・」

掠れたカカシさんの声にドキッとして首を竦めた。
こういう時のカカシさんの声はすごく体に響く。
いきなり胸元に置かれた手が肩を滑ってぎゅっと揉んだ。

あ、それ気持ち良い。

凝りが解される感じに、緊張も届けてホッと溜息を吐くと唇を塞がれた。
啄ばむように軽く合わせると、ぺろっと上唇を舐める。

「‥甘い」
「あ」

ケーキのせいだ。

甘いものが嫌いなカカシさんに、ごしごし唇を拭うとすぐに手を取られた。

「ダメ。オレが‥」

あとの言葉は唇に消えて、何度も舌を伸ばして唇を舐めるとカカシさんが唇の甘さを拭い取った。
それが済むと唇が合わさり、深く舌が潜り込んでくる。
口の中の甘さも奪い尽くすように舌の上や口蓋を舐められて、まるでディープキスみたいな口付けにふわーっと顔や首筋が熱くなった。
肩を撫ぜていた手が体を摩り、胸に戻ってくる。
小さな突起をつ、と指先で押されて体が震えた。
確かめるみたいに形をなぞり、くりくりと転がす。

「んっ」

むずくすぐったいような感覚に体を引こうとすると唇が離れた。
喉の奥に溜まった唾液をこくんと飲み込んで瞼を開く。
カカシさんを探すとすぐ傍にいて、手を伸ばして引き出しを探っていた。
何を探しているのが思い当たって目を伏せる。
濡れた唇を舐めると、そこに甘さは残ってなくて、ただジンジンと痺れる感じがした。

‥熱い。

唇に触れると、カカシさんが俺の片足を引き上げて、間に体を割り込ませた。
すべてを晒す格好に顔が火照る。

カカシさん‥っ

お願いだからもっと俺を快楽に堕として欲しい。
見られているところからじりじりと体を焼かれるようで手を交差させると顔を隠した。

なんだかヘンだ。
いつものカカシさんのやり方と違う。

戸惑っている間に後口を塗らされ、指が潜り込んで来た。

「ぁ‥あ‥っ」

そこを触られると慣れた体が快楽を拾う。
濡れた指が体の中を行き来して、引き抜かれると今度は二本に増えて戻ってきた。
苦も無く指を飲み込む体に頬が焼ける。

だって仕方ないじゃないか、朝だってシたんだから‥。

慣らすように指を回されて、上がりそうになる声を喉の奥で殺した。
これだけでもうカンジているのかと思われるのが恥ずかしい。
だけど男の体と言うのはどうしようもなく単純で、いくら俺が堪えようとしても前が勃ち上がって、気持ちイイとカカシさんに教えた。

「う‥ぅ‥あ…ぁっ、‥んっ、はぁっ‥」

くちゅくちゅと音が立つほど後ろを塗らされる。
指を奥まで入れたまま中を掻き混ぜられると、もっと奥まで届きそうなもどかしさに体が焦れた。
前から先走りが零れて竿を伝う。

「んあっ‥アっ!」

ぬちゃっと音を立てながら指が引き抜かれて仰け反った。
もう挿れて欲しい。
だけどカカシさんはそうせずに、濡れた手で屹立した性器を一撫ぜすると、覆い被さって乳首に口付けた。
滑った舌が乳輪をぐるりと舐めて吸い上げる。
尖らせた舌先で乳首を揺らされると、甘い刺激が電気となって下肢へ流れた。

「アッ‥、ああっ‥」

気持ちイイ。
けど違う。
中途半端に触られた性器が辛くてカカシさんの肩を掴んだ。

ちがう、ちがう…、カカシさん、そこじゃない‥。

性器に触れて欲しくて爪を立てる。
肩の筋肉が動いて、カカシさんの手が腹に置かれるとホッとした。
わき腹を撫ぜる手が早く下に下がってくれるように願う。
だけどカカシさんの手は、上に上がってもう片方の乳首を捏ねた。

「あっ、‥やっ!‥っん、ぁっ‥」

どうして‥っ?

きゅうぅぅと眉間に皺が寄った。

カカシさんはまだソノ気じゃないんだろうか?
俺に、挿れたくないのか?

そうっとカカシさんの下肢を伺うと、腹に付きそうなほど反り返っている。

じゃあ、なんで?

泣きそうになってくしゅっと顔を歪めると、カカシさんが視界を遮った。

「どこ見てーるの?」

笑いながら尋ねられて顔が火照る。

「し、知りません!」

なけなしの根性でシラを切るとカカシさんがくすくすとおかしそうに笑った。

「知らないの?イルカ先生。じゃあもう、オレのは要らない?」
「カ、カカシさんっ!」

いぢわるされて半泣きになった。
気が付けば、物足りなさを感じていた体はどこもかしこも火照っている。

「カカシさんっ‥カカシさん‥!」

腕を揺さぶって強請ると、カカシさんが体を起こしながら俺の体も引き起こした。
座らされてぐにゃりと崩れる体を両手をついて支えた。
カカシさんの意図することが読めなくて、顔を見ているとカカシさんが下を指差しながら言った。

「オレのこと、気持ちヨクしてくれる?」


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