水たまり 5





これがどういう薬か知っているつもりだった。
媚薬と言っても自白剤入りの催淫剤だ。
自分でも舐めたし、その道のプロにも使って薬の効果を確かめた。

なのにイルカのこの反応は何だろう。

自分の性器を掴んで苦しむイルカに眉を潜めた。

「あつ・・っ、いたい・・!」

ボロボロと涙を零すとそこを握りつぶさんばかりに強く握る。

「ちょっ、なにやってるの!」
「あ・・あ・・あ・・っ、いや・・取って!これ取って・・!」
「・・んなことできる訳ないでしょ!」
「うあ・・あ・・あ・・いらないっ・・いらないっ!」

引き裂くように立てた爪を外させると、イルカがじたばたと暴れた。

「やだぁっ・・やあっ・・!」
「くそっ」

イルカの両腕を胸の前で交差させると片手で押さえて風呂場へと引き摺っていった。
服を脱がせるのももどかしく、薬を洗い流すのが先とシャワーを掛けるとそれすらも強い刺激になるのかイルカが悲鳴を上げた。
滂沱の涙を流しながら逃げを打つ体を押さえつけてシャワーを当てる。
粗方流し終えると、前に手を回してイルカの性器を掴んだ。
石のようにコチコチに張り詰めた性器を手の中に収めると、イルカがひっと悲鳴を上げた。
薄い皮だけ動かして、中の芯を優しく擦ってやる。
イルカはすぐに上り詰めて先端から白濁を勢い良く吐き飛ばした。
それでもすぐには硬さは取れず、何度も扱いて射精させる。
2、3度射精すると、イルカのそこは上り詰めることをせずに手を動かすだけで精液を流し続けるようになった。
まだ勃起しているものの、さっきまでの硬さの取れたことにほっとしていると、イルカがぐずぐず鼻を鳴らす。

「・・いたい」

横から顔を覗き込むとぽろぽろと涙を零していた。

「いたい、いたい・・」

逃げるように腰を引くイルカに、性器を見て「ああ」と納得した。
大した潤いもなく擦り続けたから赤く腫れてしまっている。
これ以上やったら皮が剥けると判断して、しくしく泣くイルカの体をタイルの上に座らせると前に回った。
足を広げると中心に顔を埋める。

「ああっ!あっ!あっ!」

イルカが止めるように髪を掴んだ。
構わず口に含んだものを頭を上下させて扱くと、じゅわっと口の中に苦味が広がる。
じゅっと強く吸い上げると、イルカが声にならない悲鳴を上げて仰け反った。
尿道に溜まっていた精液を勢い良く吸われて射精に似た快感を得たのだろう。
びくびくとイルカの足が大きく震える。
丹念に舌を這わせて中身を吸い出し、そうしている内にイルカの様子が変わってきた。
薬が抜けてきたのか、切なく眉を寄せて甘い息を吐く。
髪を弄られて、視線を上げると濡れた瞳がオレを見ていた。

「・・・おねがい」
「なに?」

頭を引っ張られて顔を上げると、イルカが縋り付いて来る。

「おねがい・・おねがい・・」
「だからなにを?」

首に回った腕を緩めて顔を合わせると、ぽろっとイルカの瞳から涙が零れた。

「カカシさん、シテ・・」
「だからシてるじゃない」

それを止めたのはイルカなのに。
怪訝に思っていると、イヤイヤするように首を横に振った。

「・・・・おしり、シて」

ぽかんと口が開いた。
イルカがオレに強請るなんて。
どんなに焦らして意地悪しても、絶対それだけはしなかったのに。

「オレに、シてほしいの?」

内心の動揺を押し隠して聞くと、イルカはこくんと頷いた。

「カカシさん、シて」

ぎゅっと首に抱きつかれて頭の中が白くなった。
薬が効いている。
イルカがオレのとセックスを気に入ってるのは知っていたけど、はっきり強請られて心臓がばくばくした。
可愛いかった。
素直になったイルカがこんなに可愛いいなんて。
かあっと腰に熱が溜まる。
イルカをタイルの上に押し倒すと性急に後ろを解した。

「イルカ、イルカ」

名前を呼ぶと首に巻きついた腕の力が強くなる。
待ちきれずに膝裏を押し上げると、イルカが協力するように足を開いた。
硬く屹立した己の先端を後口に宛がうと、腰を落としてイルカの体を開く。
温かなイルカの中に先端から包まれて強い快楽が走り抜けた。
カリが過ぎると堪えきれなくなって根元まで一気に押し込んだ。

「ああっっ!」

衝撃にイルカが仰け反り、飛沫を飛ばした。
きつい締め付けに持っていかれそうになるが必死に堪える。
ひくひくと震える体が余韻から抜け出すのを待って腰を動かすと、イルカの内壁がオレを受け入れるようにうねった。

「ああっ、はあっ、あぁ・・」

ゆっくり抽送を始めるとイルカが甘い声を上げる。

「ああっ・・あっ、んんっ・・」

耳に心地よい声に体を寄せるとイルカの頬に口付けた。

「イルカ、オレとするのスキ?」

閉じていた瞳を開くと、イルカがこくんと頷いた。

「すき」

あまりの素直さに心臓が跳ねる。

「気持ちイイ?」
「イイ」
「これは?」
「あっ、イイっ・・イイっ」

恥ずかしくなって顔を伏せた。
いや、嬉しい、だ。
イルカがオレのすることを素直に悦んでくれるのが嬉しかった。

「じゃあもっとシてあげる」

照れ隠しにぐりぐり腰を回して中を突き上げるとイルカが涙を零した。
蕩けた表情が歓喜に満ちている。

ああ、なんだ。
オレはイルカとこんな風に抱き合いたかったのか。

「カカシさん、カカシさん」

最中に名前を呼ばれることがこんなにも嬉しいものだと知らなかった。
胸に熱いものが満ちてイルカの胸に顔を埋めた。

「・・カカシさん、・・」
「ん?なに?」

うまく聞き取れなくて、もう一度言ってとイルカの唇を啄ばむ。

「カカシさん、すき」

衝撃に胸が痺れて息が詰まった。
初めてスキと言われた。

「すき・・あ・・カカシさん、すき・・」

言いながら、ぽろぽろ涙を零す。

「・・イルカ、どうしてそんなに泣くの?」

オレも胸がいっぱいだ。
だけどイルカの泣き方を見ているとそれだけじゃなさそうだった。

「イルカ?」
「カカシさんが好きだから」
「スキだと泣くの?」
「ん」
「どうして?」
「・・ずっと、言いたかったから・・。でも言えなかった・・。言えなくて苦しかった。ここがいっぱいになって、いつもいつもいっぱいで、でもどこにも行き場が無くて・・」

痛みを耐えるようにイルカが胸を押さえる。

「でも、今はいっぱい言えるから、嬉しいです」

ゆったり微笑んだイルカの目元から涙が零れ、こめかみに消えていった。
溜まった想いが溢れ出す様にイルカが涙を零す。
拭っても拭っても涙は溢れて、たまらずイルカを抱きしめた。

「イルカ、スキだよ。スキ・・」

口付けると、応える様にイルカが顎を上げた。
夢中になって口付けを交わした。

「カカシさん・・」

促されて、止まっていた腰の動きを再開するとイルカが甘く鳴いた。

果ててももっとと強請られ、やがて動けなくなるまで何度も体を重ね合わせた。



疲れ果てた互いの体をシャワーで流し、そうだ、これだけは、とイルカに質問した。

「ね、イルカ。今日イルカに手を出したの誰?」

優しく穏やかに聞いたが、イルカの体が強張った。

「怒ってないよ。ちゃんとオレに教えて?」

視線を合わせて聞くとイルカが拒絶するように目を閉じた。
薬はまだ利いている。
それでも答えないとは相手はイルカの身近にいるヤツだ。
それにしてもこの薬を使われて、口を割らないなんてイルカもなかなかだと質問を変える。

「イルカ、今日は誰といたの?」
「あ・・あ・・」

耳を塞いだイルカの体ががたがた震えだした。

マズい。

「イルカ!もういいよ!」

背中を撫ぜて落ちつかせた。
たまにこういう忍びがいる。
仲間のことを簡単に口を割るヤツと拷問しても自白剤を使っても絶対に口を割らないヤツと。
後者は無理強いすれば気が狂う。
イルカもそうだったのかと諦めた。
探すには他の方法もある。
それにしても、とイルカの危うさが気に掛かった。
オレとしては誰を売ってもいいからイルカには無事でいて欲しい。

「カカシさん・・」

イルカが不安そうな顔で顔を上げた。
その瞳から悲しげに涙が零れる。

「ん、もういいよ。怒ってないからそんな顔しないで。忘れていいよ」

言ってから、はたと気づいた。
そんなことわざわざ言わなくてもイルカは忘れる。
今夜のことを、オレとのことを。
すべて、綺麗さっぱり。

「さ、風邪引くから部屋にもどろ?」

体を拭いて、手を引いて寝室に連れて行くとベッドに上げた。
虚ろな目をしたイルカが頭を振る。

「・・カカシさん、俺なんか変です。頭の中がぼんやりする・・」

痛みで正気を保とうとするように自分の髪を引っ張り出したイルカの手を外させた。

「うん、今からイルカの記憶、消えていくから」
「え・・?」

驚いたように顔を上げたイルカの表情に、裏切られたと浮かび上がった。

「嘘つき!好きになっていいって・・、もうずっと好きでいいと思ったのに・・っ!」

張り裂けそうな声で叫んだイルカが涙を流した。
オレを殴ろうと振り回した手を掴んで腕の中に閉じ込める。

「大丈夫だよ!オレがなんとかするから。イルカが忘れても、オレが何とかする!」
「嘘つき!嘘つき・・!」
「ウソじゃない!」

きつく抱きしめるとイルカの抵抗がやんだ。
泣き続けるイルカの体が小さく震える。

「・・ほんとに忘れるんですか?」
「うん、忘れる」
「忘れたくない。カカシさん、忘れたくないです」
「ゴメンネ、イルカ先生、こんなことしてゴメン」
「・・・・・・・・・・」

ぐずっ、ぐずっとイルカ先生が大きく鼻を鳴らした。
しばらくして胸の間にあった腕が背中に回る。

「・・・カカシさん、ずっとこうしててくださいね」

優しく背中を撫ぜられて、どっと後悔が押し寄せた。
イルカ先生はいつだってオレを許してくれる。
薬を使ったことも、最初に無理やり襲ったことも。
それでもオレから離れていかなかったのに――。

「イルカセンセ、今度はオレが捕まえるよ。絶対に離さないからね。そうしていいんデショ?」

ぎゅっと抱きしめるとイルカが笑った気がした。

「――はい」

背中を強く抱きしめられる。

嬉しくて、でもそれからイルカの手はぱたっと落ちて、イルカは静かに眠りに就いた。




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