水たまり 4





ハラ減った。

暗闇の中、ゴロゴロ布団の中を転げまわって空腹を凌いだ。
昨日徹夜したと言ってもこれ以上寝るのも限界。
カップラーメン一個残して出て行ったイルカに恨みがましい気持ちが湧き上がった。

オレが料理しないの知ってるくせに、何故早く帰ってこない。

空きっ腹を抱えて枕に顔を埋めて、イルカの足音が聞こえてくるのを待った。

それから数時間。

いつもより遅い時間に帰ってきたイルカに、腹を立てながらベッドから抜け出した。

一言文句言ってやる。

居間で仁王立ちしていると玄関を開けたイルカがなかなか入ってこない。
なんだと思えば玄関先に蹲っていた。
きつい酒の匂いがここまで漂ってくる。

オレが家にいるの知ってるくせに、外で飲んでいたのか、この人は。

かぁっと頭に血を上らせながら、ずかずか玄関に向かって歩いていくとイルカに声を掛けた。

「ちょっと!こんな時間までどこ行ってんのよ!」

言ってから、今の台詞がどこぞの女のヒステリーのようでしまったと思ったが、イルカはオレの存在に吃驚して気づかないようだった。
肩まで震えさせてガタッと音を立てたイルカに呆れてしまう。
だいたいこの人は気を抜きすぎだ。
中忍とはいえオレの気配に気づかないなんて。
足腰立たなくなるまで飲んでくるのもどうかと思って、説教しようとしてやめた。
イルカから饐えた匂いがする。
吐くまで飲むような酔っ払いに説教しても仕方ない。
仕方ないから介抱してやるかと手を伸ばして、眉を顰めた。

「あぁ?なに?」

腕に触れる瞬間の、イルカの怯えたような態度。
腕を掴んで引き上げると、黒く濡れた瞳がオレを見上げた。
その瞳の中に浮かぶ感情を読む。
恐れと惑いと、――でもオレにじゃない。

「アンタ、何かされたの?」

問いかけると、その目に強い感情が過ぎった。

――拒絶。

オレに言えない何かがイルカの身に起こって、それで帰りが遅くなった。
逃げようとする顔を掴んで上げさせる。
光が無くてもオレにはイルカの顔が良く見えた。
乾いた肌に残る涙の跡は二方向。
頬の上を流れるものとこめかみに向かって流れるものと。
一体、どんな状態になればこめかみに涙が流れるのか。
その状態を思って腹の底から火が吹き上げた。

「い、痛いっ」
「言いな。誰になにされたの?」

頬に食い込んだ指にイルカが顔を顰めた。
その手を外そうともがいたくせにオレが質問すると泣きそうな顔で首を横に振る。

「いいから。言いなって」
「ち、違・・、何も・・」

よく見れば、イルカの首筋に爪で引っかいたような跡があった。
そこから漂う違う男の匂いに血が沸騰する。

「言えっていってるだろ!」
「違います!」

掴んでいた手から無理やり逃げて、イルカが玄関の隅に蹲った。
ひっくひっくと声を押し殺して泣くイルカの姿に疑念が湧き上がる。

まさか。

「アンタ、自分から抱かれたなんて言わないよね?」

そんなの、いくらアンタでもただで済ませないよ。

「いやだっ!痛い!やめて――」

泣きじゃくるイルカの腕を掴んで引きずるように居間に連れて行った。
卓袱台を蹴飛ばして部屋の隅にやるとイルカを転がしその上に圧し掛かる。

「嫌だ!嫌だ!」

暴れるイルカの腕を一纏めにして頭の上で押さえつけるとベストのジッパーを下ろした。

オレのものに手をつけたヤツがいる。

どす黒い怒りが全身を満たしてイルカを押さえつける指先が震えた。
どんな任務でも手が震えたことなんて無かったのに。
感情がかなり高ぶっているのを自覚できたが、それを抑える術をオレは持たなかった。
怒りのすべてをイルカにぶつける。
ベストを開いたものの、押さえつけた状態で服を脱がせるのは面倒で首元を掴むと力任せに引き裂いた。
布の裂ける甲高い音とイルカの悲鳴が重なる。

「いやだっ!やめて!」
「煩いよ。インラン。どんな顔して男誘ったの――」
「違う!!!」

絶叫するように叫んだイルカがもの凄い力で暴れだしたから慌てて両手でイルカを押さえつけた。

「ちょっ―」
「違う!!違う!!」

イルカにこれほどの力があったのか。
滂沱の涙を流しながら声が枯れんばかりに叫ぶイルカに、オレがイルカの何かを深く傷つけたのを知る。

「違う・・!」

だったらなんで?

途方に暮れてイルカの首筋に顔を埋めて気が付いた。
不思議と首より下、服に覆われていた部分からは男の匂いがしない。

「無理やりされそうになったの?」

だったらオレに言えばいい。
生きていることを後悔するほどソイツを苦しめてやるのに。

「ねぇ、イルカセンセ」

問いかけても、イルカは怒っているのか顔を背けたまま口を閉ざした。

「・・あっそ。そんなことするなら体に聞くけど?」

ズボンに手を掛けるとイルカの体が強張った。
逃げようとするのを押さえつけて下着の中に手を突っ込むと、うな垂れたものを握って扱き出した。
しばらくすると性器は張り詰め、先走りを零し始める。
親指で溢れてくるものを押しかえるように塗りこめてやると痙攣するように全身が震えた。
相当感じてる筈なのに、イルカは唇を噛み締め喘ぎ声さえ漏らそうとしない。

「ちゃんと言いなよ」
「・・・・・・・くっ」

こうなるとイルカは頑固だ。

言わないのは、言えない様な訳があるからなのか。
それとも新しい男に惚れてるからなのか。

収まりかけていた苛立ちが膨れ上がる。

「・・・ね、コレ、覚えてる?」

優しく甘い声で囁きかけてやる。
訝しげに薄く目を開いたイルカに見せ付けるように取り出したのは小さな小瓶。
軽く振って見せると、中でとろりとした液体が揺れた。
イルカが怯えたように目を開く。

「そう、覚えてるの。あんまり意地張り続けると使うよ?」
「い、いや・・」

逃げ出そうと暴れるイルカに業を煮やし、小瓶の蓋を開けると手のひらに中身を空けた。
適量は確か2〜3ml。
だけどまどろっこしくて、濡れた手でイルカの性器を掴むと中に流し込むように先端に指を擦り付けた。




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