ソワソワ 3
すっごい、いいもの見つけた。
仕事を早く上がって、帰る途中に寄った木の葉スーパーの入り口の脇にそれは置いてあった。
毛皮みたいな絨毯。
通りすがりに何気なく触れてみたらすんごい気持ちよかった。
長い毛足は柔らかく滑らかな触り心地で、つい立ち止まって撫でまわしてしまった。
――欲しい。
家にあったら絶対いい。
サイズを確認すると1畳用と2畳用のがあった。
一畳用では駄目だ。
2畳用の値札を見ると買えなくはないが割といい値段をしている。
食費に換算すると2週間分。
買うか買うまいか考える。
あったらきっと温かい。
この上でゴロゴロしたり、本読んだりするのもいい。
コタツの下に引いても気持ちいいだろう。
カカシさんもきっとこの手触りが好きだ。
クリスマスはお互い仕事でなにも出来なかったしな。
これは二人へのクリスマスプレゼントという事で――。
――買っちゃえ。
数秒の逡巡で決断を下し、三色あるうち茶色を選んでレジへと運ぶ。
衝動買いなんて久しぶりだった。
肩に担ぎ上げたその重みににんまりしながら家路を急ぐ。
去年、無理してコタツを持ち帰ったカカシさんの気持ちがよく分かった。
早く家に来て欲しい。
これが部屋にあるのを想像すると、それ早く再現したくて仕方なかった。
家に帰り着くと、早速卓袱台を退けて畳の掃除をする。
途中で、思い出して押入れを漁る。
引っ張り出したコタツ布団をベランダに干して、作業再開。
畳がきれいになったところで、畳んであった絨毯を広げた。
(うわー・・)
手触りを確かめながら、その上に寝転んだ。
ふかふかと体を受け止める感触に、とろーと気持ちが緩む。
(・・やっぱり買ってよかった。)
すりすりと頬擦りして柔い感触を堪能する。
だけど時間があんまりなかったのを思い出して、再び作業に取り掛かる。
次に出すのはコタツ。
押入れから箱を出して中身を取り出した。
説明書の手順どおりに組み立てると絨毯の上に置いた。
外に干してあった布団を上に掛け、天板を乗せる。
(カカシさん、帰ってきたら喜ぶぞー・・)
その様子を思い浮かべて一人ほくそ笑む。
部屋に入ったら、「あっ!」と驚いた声を上げて、嬉しそうな顔をするに決まってる。
不意に、残念に思う気持ちが沸きあがる。
その顔が見たいけど見れない。
今日は同僚と飲み会なので、この後また家を出ないといけなかった。
残念だ。
コンセントを差し込んでスイッチを入れる。
布団を捲れば、中から赤い光とじんわりと熱が零れた。
(あったかーい・・)
溶けそうな笑顔で横たわるカカシさんが目に浮かぶ。
思わず中に入り込んで転がりたい欲求が湧き上がるが耐えた。
とにかく時間がない。
コタツのスイッチを消すと台所に立った。
飲み会のことをカカシさんに言ったら、カカシさんも外で食べてこようかなと言っていたが、もしかしたら食べてこないかもしれない。
だから何か作っておきたかった。
少しだけご飯を炊いて、きんぴらに玉子焼き、それからほうれん草のおひたしと簡単なものを作って冷蔵庫に入れる。
後は昨日作ったおでんがいいカンジになってるから温めて食べてくれたらいい。
食べなかったら食べなかったで明日のお弁当になるだけだ。
とにかく準備万端にして後片付けを済ませると部屋を飛び出した。
待ち合わせの時刻はとっくに過ぎていた。