時にはそんな日もある 3
なんだかすごくいい日だった。
4日ぶりに家に帰って、玄関を開ける前に聞こえた足音に口元が緩んだ。
嬉しい。
イルカ先生が迎えに来てくれた。
だけど更に嬉しいことに、家に入るとイルカ先生から抱きしめられた。
汚れてて汚いのにそんなことお構いなしで、オレのことをぎゅうっとすると匂いまで嗅ぐ。
途端に恥ずかしくなって体を離すが、イルカ先生は気にした風も無く、上機嫌で風呂を勧めると食事の支度に戻って行った。
脱衣所で上着を脱ぐと髪から乾いた砂が落ちて、慌てて浴室に入った。
体を洗って湯船に浸かれば、さっきのイルカ先生を思い出してくふくふ笑った。
ご褒美を貰ったみたいだ。
いつもと同じように任務に行って帰ってきただけなのに、イルカ先生から抱きしめてもらって、特別報酬を貰った時よりずっと嬉しくなった。
イルカ先生のしっかりした抱き心地を思い出す。
ご飯を食べたら、ベッドに誘おう。
4日ぶりだから絶対に駄目って言わない。
いっぱい抱いて、いっぱい突いて、いっぱい注いでぐちゃぐちゃになろう。
そうしてイルカ先生の居なかった4日間の餓えを満たそう。
想像すると、ふつふつと体が燃え始める。
待ちきれなくなって、急いでご飯を食べようと湯船から上がった。
その視線に気付いたのは、ご飯を食べ出してすぐだった。
イルカ先生がオレを見つめている。
「・・どうしたの?イルカセンセ」
「い、いえ!なんでもありません」
「そう?」
「あっ、デザートにイチゴ買って来たから、後で食べましょうね」
「ホント?うれしい」
なんだか誤魔化された気がした。
その証拠に、しばらくするとイルカ先生がまたオレを見ていた。
秋波と呼ぶには控えめで、でも内包する熱を伝えるには十分な強さで。
イルカ先生がオレに欲情している・・?
イルカ先生はオレをというより、オレの唇を見ていた。
そのひたむきなまなざしにオレの方がドキドキしてしまう。
いやいや、まさか。
・・でも。
試しに唇を舐めて見ると、イルカ先生の頬がかぁっと火照った。
そわそわと落ち着きを無くして、視線を彷徨わせる。
イルカ先生がオレに欲情している!!
その事実を知っても、さっきまでと同じようにご飯を食べ続けたオレは偉かった。
すぐに押し倒していたら、その栄光を一瞬で終らせるところだった。
とにかくオレはじっと我慢してその視線を味わった。
そんな風に見られるなんて、滅多にない。
イルカ先生の熱いまなざしを一身に浴びて、俺はウキウキと浮かれきった。
出されたイチゴは真っ赤に熟れて美味しそうだった。
だけどオレが食べたいのはコレじゃない。
イルカ先生の視線を味わうために課した我慢は、オレにとって拷問だった。
本当なら今すぐイルカ先生を抱きたい。
空腹が満たされれば次は性欲だと、腹を空かせた狼がオレの中で涎を垂らしていた。
・・コレがイルカ先生の乳首だったらな。
尖った先端を舌で舐めて、甘く食んであげるのに。
ついイチゴ相手に実演してしまって、はっと我に返った。
ダメダメ、これじゃ変態だよ。
見られてないよなとイルカ先生を見ると、こっちを見たまま固まったイルカ先生の口元から噛みかけのイチゴが転がり落ちた。
「イルカセンセ、落ちたよ」
「えっ、あ!」
イルカ先生が慌てて口元を抑える。
たらっと口の端から流れ落ちた涎には、気付かないフリをしてあげた。
・・・楽しいかもv
腹の中の狼が尻尾を振った。
今日のイルカ先生は美味しいに違いない。
落ちたイチゴは自分の口の中に放り込んで、新しいのをイルカ先生の口元に運んであげた。
イチゴを食べ終わった後はお風呂を勧めてイルカ先生が出てくるのを待った。
いつもの流れなら、この後はエッチだ。
だけどイルカ先生を焦らすためにクナイを取り出した。
新聞を広げて砥石を用意すると1本ずつ研いでいく。
当然この後がエッチだということはイルカ先生も知っていて、風呂から上がったイルカ先生のチャクラはふわふわと浮かれていた。
全身で楽しみだと言っている様は可愛くて、今すぐ食べてしまいたくなる。
だけどそれは居間に入る手前でしゅんと萎んだ。
いつまでも入って来ない様子に顔をあげると、イルカ先生が悲しげな表情で立っていた。
その表情に胸を掻き毟られながらも、濡れた黒髪から水滴が滴り落ちる姿に激しく欲情した。
その色気は犯罪だ。
誰が見ても手を伸べたくなるだろう。
悲しげなのが色気に拍車を掛けていた。
雨の日は絶対に傘を持たせなきゃ。
でないと絶対犯されちゃうよ。
新たな心配を胸に、イルカ先生を傍に呼んだ。
微かな笑みを浮かべたイルカ先生がととと、と傍に座って髪を拭き出した。
またそんな無防備な!
拙い様子に手を出したくなる。
こんな様子を見せられて、構いたくならない男がいるだろうか(いや、いまい)。
ぐっと堪えるために、いつも以上に真剣にクナイを研いだ。
シュッ、シュッと砥石に刃を滑らせるのをイルカ先生が一生懸命見ていた。
それはご飯を食べていた時とは違って、とても一途な視線だった。
オレが研ぎ終えるのを待っている。
オレに構って欲しくてじっと我慢している様は健気で愛しかった。
可愛い。
でも、もっと・・。
オレは貪欲だった。
どこまでがイルカ先生の限界か知りたかったのもある。
クナイを研ぎ終えるとイルカ先生がぱっと顔を上げた。
僅かな期待を覗かせてオレを伺う。
立ち上がるとその目がオレを追いかけた。
巻物を取り出すとしゅんと翳る。
その口元がむぅっと尖るのを目の端に見て、限界かもと思った。
これ以上はイルカ先生を怒らせる。
だけどすぐにイルカ先生は口角を下げた。
その顔は、ただ寂しいと言っている。
「イルカセンセ、もう終るから先に布団に行ってて」
誘いの言葉に、ぱあっとイルカ先生の瞳が輝いた。
こくりと頷いて寝室に向かうイルカ先生は、全然オレのこと怒ってない。
・・・・まだイケる。
後もうちょっとだけ焦らしても大丈夫だろう。
ゴメンネ、イルカ先生。
試すような事をして。
でも知りたいんだ。
どこまでオレを求めてくれるのかを――。