時にはそんな日もある 2
ようやく明かりが消えたのは、待ちくたびれてウトウトしそうになっている時だった。
カチッと明かりを消す音がして、すっと襖が開く。
現れたカカシさんの姿に、眠気は軽く吹っ飛んだ。
夜の青い光の中で、カカシさんは一際格好良く見える。
布団が持ち上げて、隣に入ってくるカカシさんにギシッとベッドが軋んだ音を立てると、心臓が大きく跳ねた。
目が合うと、カカシさんは覆い被さるように俺に口付けた。
言いようの無い満足感が胸に広がり、ちゅっと唇が濡れた音を立て離れた。
髪を梳いて頬を撫ぜる手が心地よく、やっとだと目を閉じる。
だが、数度ベッドが揺れた後、カカシさんが動きを止めた。
体に触れてくる手が無い。
・・あれ?
隣を見るとカカシさんが背中を向けていた。
「・・寝るんですか?」
「ウン」
「そうですか・・」
体を丸めるカカシさんに布団を掛ける。
「アリガト」
「・・・・・・・・・いえ」
腑に落ちないものを感じながらも、カカシさんが眠たいなら俺も寝ようと思った。
カカシさんが背を向けたから、頭をカカシさんの枕に移して項に顔をくっ付ける。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
寝れる訳がなかった。
今の今までスルつもりだったのだ。
カカシさん、本気ですか。
起き上がって顔を覗き込んでみる。
「・・カカシさん」
頭を撫ぜてみるが、瞼を閉じたカカシさんは眠ってしまったのか、こっちを見てはくれなかった。
・・切ない。
もう一度布団に戻ってカカシさんの項に顔を押し付けた。
ぎゅっと目を閉じて眠りが訪れるのを待つが、轟々と赤く火を吐く石炭を腹に抱えて、走り出すばかりの蒸気機関車のような状態で眠れる訳が無かった。
したい、したい、したい、カカシさん、したい。
眠気の代わりに欲望が渦巻いて、独りもんもんとした。
触ってもらえると思っていた性器が熱を持って張り詰めた。
相手が寝てしまったのなら一人で抜けばいいと思うかもしれないが、そうはいかない。
カカシさんの熱を感じて、俺の上で熱を追いかけるカカシさんが見たかった。
一緒に熱を共有したい。
そうでないとこの熱は解放されない。
火照る体に溜息を吐いた。
我慢しきれず、意を決してカカシさんの体に腕を回す。
「・・カ――」
名前を呼ぼうとして止めた。
こんなとき何て言えばいいんだ?
考えてみれば俺から誘った事なんて無かった。
シたい、だろうか?
でも、何を?と聞かれたらどうしよう・・。
自分のされる事を思うと、口になんて出せそうになかった。
カカシさんはどうしてたっけ?
いつも気づけば始まっていたような気がする。
キスしてる流れでとか、体を洗ってる流れでとか。
そう思ってカカシさんを伺うが、背を向けて眠るカカシさんにエッチに繋がる流れなんて無かった。
じゃあ俺が先に寝てる時は?
シてなかっ・・いや、あった。
前にコタツで寝てるときに悪戯された。
夜中に裸に剥かれてたこともある。
あの時は目が覚めたら中にカカシさんが居てすごく吃驚した。
・・・だったら。
俺だって寝ているカカシさんに手を出したっていい筈だ!
前例を得て勇気が出た。
カカシさんが任務後で疲れてるとか関係なかった。
だってカカシさんは明日休みだ。
それに俺が駄目って言っても聞いてくれなかったこともある。
カカシさんの体に回していた腕に、意図を持って力を込めた。
どうしてもシたい!
カカシさんがパジャマ代わりに着ているトレーナーの上から腹を撫ぜた。
布地の下にカカシさんの割れた腹筋を感じてすごいなぁと感嘆する。
俺のはこんなに綺麗に割れてない。
それでいてカカシさんの体は筋肉ムキムキじゃなくて、しなやかなところが好きだった。
しなやかな筋肉はカカシさんに色気を持たせる。
しなる柳のようなカカシさんの動きに、見てるだけで何度翻弄されたことか・・。
一つ一つに筋肉を辿りながら、はっと我に返った。
違う!筋肉の鑑賞じゃなくてエッチ!
ふんっと鼻息荒くカカシさんの服の下に手を突っ込んだ。
念の為、とカカシさんの腹筋を直に撫ぜて、上に行くか下に行くか悩んだ。
上と言ったら胸だが、カカシさんはあまり胸は好くないみたいだった。
前に一度、カカシさんを気持ち好くしようと目の前に来た乳首をぺろっと舐めてみたが、困ったような顔をされただけだった。
俺と違って乳首にカカシさんの性感帯はないらしい。
だったら下だ。
下はカカシさんもお気に入りだった。
触れても舐めても嬉しそうな顔をする。
そう思って、手を下に滑らせるが、
寝てる間に、勝手に触っていいのかな・・。
迷いが出て、腹の上とズボンの際を行ったり来たりした。
触りたい。
でもどうしてもその下に手を入れられない。
「・・・・・・・・・・・・・」
ぎゅっとカカシさんにしがみ付いた。
体がぽっぽと火照って仕方ない。
この熱を解放させる事の出来る人が目の前にいるのに、今がそういう状況でないのが酷く切なかった。
そもそもどうしてカカシさんは寝てしまったのか。
4日ぶりなのに。
いつもなら絶対するのに・・。
ようやくそこに考えが及んでひしゃげた。
シたくないからに決まっていた。
大体こんなに触ってるのに、カカシさんが気づかない筈ない。
背中からカカシさんを見上げて、向こうを向いたままの顔に胸が痛くなる。
もう俺のこと抱きたくなくなったのかな・・。
しがみ付いていた腕から力が抜ける。
引こうとすると、いきなりその手を引っ張られて心臓が止まりそうになった。
「わっ」
これ以上ないほどカカシさんの背中に密着して、指先に唇を感じる。
さっきまでの哀しいのが無くなって、ぱあっと嬉しくなった。
「・・カカシさんっ」
「んー・・?」
寝ぼけた声で呻くように返事したカカシさんが寝返りを打った。
「どうしたの、イルカセンセ」
腕の中に引き寄せられてほっとした。
やっぱりここだよと胸に潜り込むとカカシさんが頭を撫ぜた。
「・・眠れないの?」
「カカシさんは寝てたんですか?」
「ウン、眠くて・・」
くわわと欠伸したカカシさんに心底ほっとした。
シたくないんじゃなかった。
「イルカ先生は寝てなかったの?・・なんだかイルカ先生の体熱いね。・・シたいの?」
図星を突かれて真っ赤になった。
顔はカカシさんの胸に伏せたが、冷たい指が熱くなった耳たぶを撫ぜた。
「ねぇ、そうなの?」
「・・・・・・カカシさんが、眠いなら・・我慢します・・」
言った後に後悔した。
どうして素直にシたいって言えないんだろう。
せっかくのチャンスを逃して泣きそうになった。
「・・そう」
ああ、もう駄目だ。
「でも、オレがシたくなっちゃったから、イルカ先生眠くないなら付き合って?」
胸にしがみ付いていた体をカカシさんと同じ目線まで引き上げられた。
「ネ?」
大好きな人に強請られる。
「・・しょ、しょうがないですね!」
「ウン」
何故かいつも以上に嬉しそうなカカシさんに、照れくさいのと嬉しいのとで、目を逸らしてから了承した。