時にはそんな日もある 4





イルカ先生が布団に入ったのを気配で確認して、オレは残りの巻物を全部広げた。
イルカ先生との時間を引き延ばしたいが為に丁寧に書いていたが、本来なら3分もあれば終ってしまう作業だ。
急いで筆を走らせると、巻物を巻きなおした。
こんなところが見つかれば、それこそ本当に怒らせてしまう。
とっとと道具を片付けると手を洗い、明かりを消して足取り軽く寝室に向かった。

このまま焦らし続けたらどうなるかな・・?

もしかしたらイルカ先生の方から誘ってくるかも、とほのかに期待が芽生えた。
でも見極めを誤ってはいけない。
我慢させすぎて拗ねてしまったら元も子もない。

・・その前に、オレの方が我慢出来るのかな?

布団で待ってるイルカ先生を目にしたら、飛び掛ってしまうかもしれない。

・・・・いやいや、絶対にガマン!

部屋に入る前に自分に言い聞かせた。
千載一遇のチャンスを逃したくない。
襖を開く前に心が乱れないように精神統一した。
途中、一糸纏わぬイルカ先生を思い描いて更に真剣に精神を静めた。
どれぐらい時間が経ってしまったのか、中にイルカ先生の気配が眠そうに揺らぐのを感じて慌てて襖を開けた。
中に入るとすぐにイルカ先生の視線を感じた。
待っていてくれた喜びと興奮で体が熱くなる。
そうっと布団を捲って隣に入ると、イルカ先生の瞳がオレを見上げた。
暗闇の中で、イルカ先生の濡れた瞳が光る。

あ――。

思考が停止して、吸い寄せられるように唇を重ねていた。
柔らかく唇を食んで、吸い上げる。
手はイルカ先生の髪を弄り、耳を弄っていた。
イルカ先生が小さく吐き出した呼気が唇に当たって、はっと我に返ったが、柔らかな唇から離れる事が出来なかった。

いやだ、いやだ、足りない、もっと。

未練がましく唇を舐めながら、オレの中の理性を総動員させる。
それでも足りなくて、懇親の力でイルカ先生から唇を離した。
未練たらしくイルカ先生の髪を撫ぜる事で気持ちを落ち着かせる。
イルカ先生の体から力が抜け、オレに身を委ねようとするのに理性を焼かれながらイルカ先生に背を向けた。

苦しい。

ふと自分の企みが酷く馬鹿馬鹿しいもののように思えた。
このまま抱いてしまいたい。
心も体も、激しくイルカ先生を求めているのに。

「・・寝るんですか?」
「ウン」
「そうですか・・」

苦しさに体を丸めるとイルカ先生が布団を掛けてくれた。
その瞬間、オレは計画の失敗を悟った。
イルカ先生も寝るつもりなのか居心地のいいところを探し出す。
オレの項に頭を寄せると深く息を吐き出した。
イルカ先生の動きが止まる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

どうしよ、どうしよ、どうしよ、どうしよ!

敵に四方を囲まれたってこんなに動揺したりしないだろう。
一度性欲を失ったイルカ先生を、その気にさせる難しさをオレは厭というほど知っていた。
自分のバカさ加減に涙が出そうになった。

今すぐ振り返ってお願いすれば、まだ間に合うかな?

――イルカ先生。

振り返ろうとして、先にイルカ先生が動いた。
顔を覗き込んでいるのか、イルカ先生の髪が首筋に触れる。
するすると冷たい髪が首筋を撫ぜて、ぞくぞくっと気持ち良さが体を駆け抜けた。

や、やめて・・。

イルカ先生の視線を頬に感じて、身もだえそうになるのを必死にガマンした。
まだ、オレは期を失ってはいないようだった。

「・・カカシさん」

頭を撫ぜられて泣きそうになった。
温かな手が気持ち良さに拍車を掛ける。

・・も・・もう・・。

欲望と忍耐が激しくせめぎあった。
今すぐ振り返って抱きしめてしまえと欲望が叫び、まだちょっと、もうちょっと引き伸ばしたいと忍耐が欲望を抑える。
オレを覗き込んでくるイルカ先生が可愛かった。
あともう少し、こんなイルカ先生を味わいたい。
さっきまでの後悔はどこへやら、甘い餌を与えられてますます貪欲になる。
ぐっと耐えていると、イルカ先生が首にぐいぐい顔を擦り付けた。

――カカシさん。

ぐすんと鼻を鳴らし、音にならない声で名前を呼ばれる。

・・なんて良いご褒美だろう。

その拗ねた響きに、かあっと頭に血が集まった。
熱い息が首筋を撫ぜ、快楽が背骨を駆け下りる。
強い力で抱きしめられて、身の内が火照った。
イルカ先生の体も同じぐらい熱い。
無言のまま、火照った体を重ね合わせて情欲に身を焦がした。
心臓が激しく波打ち、まるでセックスしているみたいだった。

もういい。
もう十分だ。
もう抱きたい。

なのに、イルカ先生が先に動く。

なに?まだあるの?

一体どれだけご褒美が貰えるのだろうと、うっとりしていると、イルカ先生が腹をくすぐった。

うひゃっ、くすぐったい・・!やめて!やめて・・・っ!

今にも笑い出しそうになるのを上忍根性で堪えた。
きっと、多分、それは愛撫かもしれないから。
ようやく手が離れた時は息も絶え絶えだったが、不意を狙ったように服の下に入り込んだ手がまた腹をくすぐる。
これに耐えたオレは本当に偉かった。
ひたりと動きを止めたイルカ先生の手が腹を温める。
その手が徐々に下がっていくのに、ドクンと心臓が跳ねた。

えっ、うそ!イルカ先生が!?

握らせたり、触らせたり、それ以上のこともさせたことはあるが、こんな状態で自ら触ってくれる事なんてなかった。
興奮して心臓がこれ以上ないほど早鐘を打つ。
期待した息子が一気に張り詰めて、イルカ先生の手を待った。
早く触れて欲しくて、じっと息を潜める。
だけどイルカ先生の手はパジャマのズボンを境界線に、なかなか入って来ようとしなかった。
入りそうで入らない。

・・これって、焦らしプレイ?

イルカ先生がそんな高度なテクニックを持ち合わせてるなんて思えなかった。
天然に焦らされて、待ち侘びた息子が不平を零す。
今すぐにでもイルカ先生の手を取って性器を擦りあげたい衝動に駆られた。
そんな時、じりじりとイルカ先生の指がズボンのゴムを押し上げた。

あ・・、早く・・。

あと少し手を下げれば、オレがどれほど望んでいるか知れるのに。
だが、終に観念したのかイルカ先生の手から力が抜けた。
出来ないと訴えるようにぎゅううと強く抱きしめられる。
その後にそろそろと手が引き抜かれていき、――その手を捕まえると口元に運んで口づけた。

――ご苦労様。

イルカ先生の頑張りを褒めてあげたい。

「カカシさん!」

嬉しそうに名を呼ばれて笑顔になった。
だけど振り返る瞬間、顔から力を抜いて寝ぼけたフリをする。

「どうしたの、イルカセンセ」

振り向いた瞬間、胸に飛び込んできたイルカ先生に顔が綻んだ。
それを見られないように頭を押さえて髪を撫ぜる。

なんて、なんて可愛いんだろう。

愛しくてたまらなかった。
一刻も早く抱きたくて演技を続ける。

「・・眠れないの?」
「カカシさんは寝てたんですか?」
「ウン、眠くて・・」

欠伸してみせると、何故か安心した顔をした。

不安にさせちゃった・・?

すぐに悪い方へ考えちゃう人だから、焦らし過ぎたのが良くなかったのだろう(・・ま、オレも焦らされたけど)。

そのお詫びに不安が吹き飛ぶほど抱いてあげよう。
どれだけオレがアナタをスキか身を持って知って。

「イルカ先生は寝てなかったの?・・なんだかイルカ先生の体熱いね。・・シたいの?」

少しだけイジワルするとイルカ先生は耳まで真っ赤になった。

「・・・・・・カカシさんが、眠いなら・・我慢します・・」

どうしてそれが、シたいって言ってるのと同じだって気付かないんだろう。

そういうところも可愛くてしかたないんだけれど!

イルカ先生の耳を愛しく撫ぜていた指を離して、胸にしがみ付くイルカ先生の体を引き上げた。

「でも、オレがシたくなっちゃったから、イルカ先生眠くないなら付き合って?ネ?」

早く「うん」と言って欲しくて甘く強請った。
恥ずかしそうに唇を噛んだイルカ先生が目を逸らす。

「・・しょ、しょうがないですね!」

その瞬間のイルカ先生の言葉とは裏腹の嬉しそうな顔が可愛くて、ぎゅうぎゅう抱きつくと痛いと怒られてしまった。



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