輪っか 12





 少しウトウトしたらしい。目が覚めるとカカシさんの寝顔があった。
 外はまだ明るく、窓からの光がカカシさんの髪を明るく照らす。
 目を閉じた顔が可愛くて、すうすう寝息を立てる唇に触れた。柔らかな唇に指を押し当て、そうっと撫ぜる。温かな息が指に触れて、少しだけ指を唇の中に入れた。湿った部分を撫ぜて歯を突付く。すると歯列が開いて、舌がぐるりと指先を舐めた。それは赤く艶めかしくてドキドキしてしまう。
 慌てて指を引くとカカシさんの瞼が開いた。ずっと起きてたみたいに俺を見て目を細める。
「お、起きてたんですか?」
「ウン。イルカ先生が悪戯するから目が覚めました」
「悪戯なんてしてません!」
「そう…?いつキスしてくれるんだろうと待ってたんだけど」
 言いながら、近づいてきたのはカカシさんの方だった。腕の中に抱き寄せられて唇が重なる。ちゅっ、ちゅくっと甘く唇を吸われてうっとりした。
 体の中にはまだ甘い痺れが燻っていて、カカシさんがキスするたびに火が付きそうになる。
「んっ…んんっ…」
 喉を鳴らすとカカシさんが上になって俺の片足を引き上げた。意図を悟って体を開く。奥にカカシさんが宛がわれ、柔らかくなったそこからカカシさんが挿入した。
「あ…んっ…」
 ぬぬぬと体の奥をカカシさんが進み開いていく。昨日と違い、すんなりすべてを納めるとカカシさんは動きを止めて、ほっと息を吐いた。
「今日はずっとこうしていたい」
「…うん」
 同じ気持ちだと思って頷くと、カカシさんがちゅっと音を立てて額に吸い付いた。
「はぁー、信じられない。幸せ。こんな幸せなことがこの世にあるなんて…。夢じゃないよね…?…ね?」
「そうですよ。夢じゃないです」
 カカシさんは「はあー」ともう一度大きな溜め息を吐くと首筋に顔を埋めた。そこから動かなくなったカカシさんの頭を撫ぜる。背中に手を回すとカカシさんが震えていた。
「…カカシさん?」
「…イルカ先生、女々しいことを言ってゴメンなさい。ずっとね、どうしてなんだろうって思ってました。一緒にいてくれるのに、結婚はどうしてダメなんだろうって。オレの何が足りないんだろう、どうしたらイルカ先生結婚してくれるんだろうって、毎日そればっかり…。これ以上嫌われないようにしなきゃって、いつも必死で。イルカ先生がオレと居て居心地がいいようにって――」
「それであんなに世話を焼いてくれてたんですか!?」
「…うん。もちろんそれだけじゃなくて、本当にしたかったのもあったけど、他にどうしたらいいか判らなくて」
 カカシさんがそこまで不安に思っていたのかと吃驚した。そんな様子はちっとも無かったから全然気づけなかった。俺があの時ちゃんと返事してなかったからだと思うと申し訳なくなる。
「カカシさん、あんなにしてくれなくても俺はカカシさんのこと好きです。これからはお互い手分けしてやりましょう。俺だってカカシさんの面倒がみたいんです。されてばっかりは嬉しくないです」
「…うん。うん、分かった。…ねぇ、イルカ先生、もう一回言ってくれる?オレと結婚してくれるって、ずっと一緒にいてくれるって」
「何度だって言いますよ。俺はカカシさんと結婚します。一生傍にいます」
 ぎゅううと強く背中を抱きしめると抱きしめ返された。ちゅっと耳の下を吸われ、顎を上げると掻き抱くようにして首の付け根を強く吸われる。ちくっと痛みが走り、紅く付いたであろう痕を思い浮かべた。
 カカシさんが丹念にそこに舌を這わせる。
「…カカシさん、俺はカカシさんのものですよ」
「…うん。…うん」
 噛み締めるようにカカシさんが頷く。顔を上げると安心したように微笑み、それからゆっくり抽送を始めた。
 その穏やかな動きが心地よくて体から力が抜ける。繋がったところから波に揺られるような快楽が押し寄せて、まるで水面に浮かんだ木の葉のような心地になった。
 カカシさんの背中に手を回して撫ぜた。手の下でしなやかな筋肉が流れるように動き、連動して俺の中で快楽が生まれた。
 揺られていると、カカシさんが体を起こして本格的に腰を使い始める。ぐぅっと腹の底を擦られると、甘い痺れが全身に駆け抜けた。
「あぁっ…、ぅんっ…はっ、…あ…」
 開いた足の間で勃ち上がった性器が揺れる。明るい日差しの中でカカシさんにすべてを曝け出す格好になっていることが恥ずかしかった。でも同時に嬉しくて、俺は包み隠さずカカシさんの前に晒す。
 勃ち上がった性器にカカシさんの手が絡んだ。
「あっ…アっ…」
 腰の動きに合わせて扱かれて、快楽の波が強くなる。先走りが溢れて、カカシさんがそれを先端のくびれに擦り付けた。
「あぁっ!アッ!あっ…」
 一際高い声を上げるとカカシさんの手が緩む。まだ追い上げるつもりは無いのか、動きが穏やかになった。
 カカシさんが体を倒して、俺の顔を覗き込む。紅く染まった目元が扇情的でとても綺麗だった。
「…かかし、さん」
「ん?」
 ただ呼びたくて呼んでみた。
 なあに?と首を傾げるカカシさんを見ていると、カカシさんが目元にキスをした。何度も啄ばみ唇に辿り着く。舌を出してカカシさんの唇に触れると、カカシさんが言った。
「…イルカセンセ、オレはすごく嫉妬深いから浮気なんかしちゃダメだよ」
 突然の言葉に吃驚してしまった。浮気なんて、俺には当て嵌まらなくてどこか他人事のように聞いた。
「しま、せん…、そんなこと」
「すぐ不安になるからね。本当は他のヤツとも仲良くして欲しくないんだけど。…そういう訳にもいかないからね…」
「しませんって。浮気なんてしない!」
「…うん。だけどね――」
「しないって言ってるのに…」
 泣き声になった俺にカカシさんが渋い顔をした。
(どうして…?俺を疑ってるのか?俺はカカシさんを裏切ったりしないのに…。)
 幸せだった気持ちが沈んで哀しくなった。
「…イルカセンセ、アレしてあげようか?」
「…アレ?」
 何のことだろうと首を傾げると、カカシさんが体の上を撫ぜた。正確には空中を。触れられていないのに肌の上をビリビリと刺激が通り過ぎる。
 それがカカシさんのチャクラだと気づいた時には、カカシさんが胸の上に手を置いた。
「アアッ」
 空中で触れられた時より刺激が強くなった。すべての細胞が揺り動かされ、起こされるような感覚に身を捩った。
「やあっ…あぁっ…」
 その手が乳首を捏ねる。強すぎる刺激に大きく仰け反った。
 それは俺がハシゴにしたことだと頭の隅を過ぎった。掻いてやろうと思って、チャクラでハシゴに触れた。
 だけど知らなかったんだ。
(こんな刺激になるって……。)
「カカシ、さん…っ、怒ってるんですか…?」
 カカシさんは答えない。
「カカシさんっ」
「はあー…」
 見上げると、深く溜め息を吐いたカカシさんが苦笑を浮かべて、チャクラを止めた。
「二度と、他の人にこんなことしたらダメですよ」
 がくがくと必死に首を縦に振る。両手を伸ばすとカカシさんが上体を倒して、体を抱きしめさせることで俺を許してくれた。ぎゅっと両手両足でしがみ付く。
 怖かった。カカシさんに嫌われるのが怖い。
 俺はやっとカカシさんの味わったであろう心境を理解した。それは不安なんてもんじゃ無く、暗くて冷たくてずっと哀しい。
「カカシ…さん」
「ん。もう、怒ってなーいよ」
 カカシさんの手が髪を撫ぜる。俺の好きになった人が優しい人で本当に良かった。


 それから日が暮れるまで愛の営みに勤しんで、約束通りカカシさんにお風呂に入れて貰ってから食卓に着いた。
 コタツに入って、ご飯が出来上がるのを待つ。久しぶりのカカシさんのご飯にウキウキした。台所から良い匂いが漂ってくる。
 だけど目の前に並んだ物を見てガッカリした。
 お粥と団子汁。
(なぜお粥?)
 団子汁も肉団子が浮かんでいるものの、スープは透明で質素そのものだった。もっと肉肉しく、味の濃いものを期待した俺は、病院食とあまり変わらないご飯を見て口角を下げた。
「カカシさん…」
「ん?さ、食べよ」
 付き合ってくれつもりなのか、カカシさんの前にも同じ晩御飯が並び、文句は言えなかった。
仕方なくレンゲを口に運ぶ。
「うまっ!旨いです!!」
「そう、良かった」
 予想を上回る美味しさに、すぐに二口目を掬った。お粥はお米の形状が無くなるほどしっかり煮てとろとろしていて、薄く付いてる味が何の味だかわからないけどすごく美味しい。肉団子も口に入れるとじゅわっと旨みが溶け出して、あまりの旨さに悶絶しそうになった。
 見た目は質素だけど、手の込んでいるのが食べてみて分かる。
(やっぱりカカシさんのご飯は美味しい…!)
 何度もお代わりして、鍋が空になるまで食べた。
 さっきは分担しようと言ったけど、晩御飯だけはカカシさんが担当してくれないかと少しだけ思った。



text top
top