我が家にコタツがやってきた
「ねぇ、ねぇ。どれにする?」
剥き出しで積み上げられたテーブルの間をぐるぐる回る。イルカ先生は、「大きいのは駄目ですよー」とか言いながらテーブルの下を嬉しそうな顔で覗いている。
夕方、待ちきれず報告が終わると職員室に寄って、「まだ仕事が・・・」とか言ってるイルカ先生を引っ張って木の葉スーパーに連れて来た。ついに我が家にも!と思うといてもたってもいられなくて、2階へ上がるエスカレーターを駆け上がりそうになってイルカ先生に止められた。
2階に上がると『暖房器具フェアー』をやってて、所狭しとストーブや電気カーペットが並べられていたがそんなものに用はない。電気毛布なんてもってのほか。興味有り気に手を伸ばそうとするイルカ先生の手を掴んでコタツを探した。
「イルカセンセ、コッチ!」
目当てのものをすぐに見つけ、イルカ先生の手を引くとカメの親子みたいに積み重ねられているサイズ違いのコタツを一つ一つを見て回る。
「イルカセンセ、コレは?これなんかイイんじゃない?」
イルカ先生が好きそうなのを指差せば、「う〜ん」と唸った。「この値段の違いはなんだ?」とくっついてる札を見て比較し始める。ファンヒーター付だとか脱臭機能付というのに「最近のコタツはすごい」と驚いて「知ってました?」と振り返る。俺も知らなかったので二人して「へー」と関心しながらそれぞれ見ていった。
いろいろあるけど違いなんて判らない。
(どれでもいいからイルカ先生が気に入って中に入ってくれたらいい。)
そんなことを考えてたらアレを思い出した。この間テレビでやってた鳥の求愛行動。雄が巣を作って雌を巣に誘うやつ。イルカ先生がコタツの中を真剣に覗くからなおさら。イルカ先生への愛しさが膨れ上がる。
(あぁ、早く帰ってコタツに入りたい。)
二人でコタツでぬくぬくしてる様子を思い浮かべてはほっこりした。
いろいろ見て最後に決めたのはごくごくシンプルな四角いコタツ。何の機能も付いてない木で出来たやつ。こういうのが落ち着くとイルカ先生が決めた。
支払いはもちろんオレがした。
「カカシ先生、俺、地下で買い物してくるからここで待っててくださいね」
「え、オレも行く」
「だめですよ。それじゃあ他の人に迷惑がかかります」
イルカ先生がちょっと呆れた様子でオレを見る。オレの周りには買ったばかりのコタツが入った箱と、イルカ先生が「こっちは俺が」と言って聞かなかったこたつ布団がでかい袋に入って置かれている。
どうしても『今日』コタツに入りたい。宅配だと明日になると言うから持って帰ることにした。
「えー、行きたい・・・デス」
「そんな顔しても駄目ですよ。・・・だから宅配してもらえばよかったのに」
(――だからって?)
その意味を考えて―――にんまりしているうちにイルカ先生に置いていかれてしまった。
「へへへ・・・」
でも大丈夫。
心はいつもそばに。
***
「カカシ先生、疲れたでしょう?」
「そんなことなーいよ」
と余裕をかましつつ、ちょっと腕がダルい。イルカ先生が手伝うというのに首を縦に振らず、持って帰るのも組み立てるのも一人でやった。
天板に顎を乗っけて向かい側に座るイルカ先生を見る。みかんの皮を剥いている。剥いたのを、どーぞ、と差し出されて、ぱかっと口を開けたら、一房ちぎって放り込んでくれた。
「ヘヘ・・・おいしい」
しあわせを噛み締めつつ口を開けるとまた一房。
「あったかいね。コタツってイイね」
そう言ってコタツのある幸せを満喫したのが数時間前。
風呂から上がってみれば、イルカ先生が髪も乾かぬうちに口元まで布団を引き上げてコタツに寝転がっている。
目が合うと照れたように笑う。
かわいい。
イルカ先生がコタツを気に入ってくれてよかった。
髪を拭きながらオレもさっきまで座っていたところに入る。・・・と、
(あれ?)
イルカ先生が見えない。で、横に来てイルカ先生を撫ぜてみるけど、なんだか物足りない。そうだ。あれだ。
「イルカセンセ、ひざまくら」
して、と見るとイルカ先生が眉を寄せて体をもじもじと揺らした。
イヤらしい。コタツから出たくないらしい。
じゃ、じゃあ・・・あれ。・・・・・・出来ない。
背中に張り付こうにもイルカ先生が寝てるから出来ない。
(つまんない。)
なんだろう、この疎外感。イルカ先生は一人でぬくぬくして、とろーんとして。その顔が言っている。
あー、しあわせ、って。
面白くない。コタツから出るとこれ見よがしに部屋の片隅に行って本をひろげた。
「カカシセンセ・・・、コタツ入らないんですか?そんなところで寒くないですか?」
「・・・・・・・・・・・」
さむいよ。決まってるじゃないか。
それでもぴらっとページを捲る。こっちに視線だけ向けてイルカ先生が不思議そうにオレを見ている。でも、その目もやがて眠そうにしばたいて、下瞼と上瞼がくっつきそうになって、―――くっついた。
なんだよ、なんだよ。
一人で幸せそうな顔しちゃって!
コタツなんてぜんぜんいいことないじゃないか!!
「ウソツキーー!!」
天井に向かって叫んだ。
それでも収まらなくてぽいっと本を放り投げると立ち上がって、イルカ先生を温めているコタツを台ごと掴むと寝室へと運ぶ。ベランダへと続く大きな窓を開けて頭上に持ち上げると、
「二度と来るな!」
闇へと放り投げた。
コタツ布団が羽を広げるようにふわっと広がる。落ちながらゆっくり傾いて布団が翻った瞬間、赤い光が煌々と闇を照らして。
いまいましい。
火遁をお見舞いすると地面に着く前に炭となって風に流れた。
せいせいした。
でも、まだ心の中がもやもやする。
それもそのはず。
イルカ先生は今もコタツの中で眠っている。
現実のオレは本なんて投げたりしない。物を粗末にするのはイルカ先生が嫌うから。コタツもイルカ先生が気持ちよさそうだから捨てたり出来ない。
(もーいい。寝る。)
本を閉じると床に置いて寝室の押入れを開け、しばらくどころかずっと使ってなかった客用布団を引いた。そのかび臭さに寂寥感が増す。
明かりを消すとそれに気付いたイルカ先生が、「もう寝るんですか・・・?」と寝ぼけながら聞いてきたけど。
頭から布団を被って目を閉じれば、居間からごそごそと衣擦れの音がする。かちっとコタツを消す音に続いてイルカ先生がこっちに来る。
「カカシ先生?今日はこっちで寝るんですか?」
ゆさゆさ揺さぶられ、ちょっと機嫌が直ったけど、困らせてやろうと思って黙っていると、イルカ先生はすぐ諦めてベッドに入ってしまった。
・・・・所詮、オレなんて・・・。
しぃーんとした暗い部屋でコタツを睨みつける。
コタツなんて買わなきゃよかった。
アイツのせいでオレの居場所がなくなっちゃった。
イルカ先生を取られちゃった。
どうやってこの冬乗り越えよう・・・・。
ムリムリ。
さむくてオレ・・・・。
イルカ先生なんて、イルカ先生なんて――。
いじいじ考えてたら後ろでごそっと起き上がる気配がした。息を止め、眠ったままぴぃーんと神経を張り詰めてイルカ先生の行動を探る。
畳に足をつく音がした、と思ったら背中が冷えた。でもすぐ温かくなる。イルカ先生が布団に潜り込んできた。寄り添うようにぴたっと張り付かれて。
それだけで温かくなる。心も体も。
(――なんだ。こうすればよかったのか。)
いじけてた心が解けていく。
嬉しくてたまらない。
イルカ先生が好きでたまらない。
足の先から爪の先までカーッと体が火照りだしてじんじん痺れだす。それでもじっとしていると、イルカ先生が体を押し付けるように擦り寄ってきて、
「イルカせんせっ!」
堪らず寝返りを打てば、――気持ちよさそうに寝てた。体が離れた分イルカ先生が擦り寄ってくる。
なんだ。寒かったのね。
イルカ先生の家は壁が薄ければ天井も床も薄い。畳の上に直に布団をひけば底冷えして布団は冷たい。なかなか寝付けるものではないけれど。
イルカ先生の顔にかかる髪をかきあげて額を露にした。
「ふふ」
よく寝てる。
イルカ先生の首の後ろと膝裏に手を差し込んで持ち上げ、ベッドに降ろす。離れる瞬間、するっとイルカ先生の手が首の後ろに回る。
「あー、なーに?狸寝入り?」
首っ玉にしっかりしがみ付かれて、耳元で囁けば擽ったそうに肩を揺らした。顔を覗き込めば目を閉じたままにまーっと笑っている。
「コノヤロ・・・」
腹いせにイルカ先生に体重をかけてやる。それでも寝たフリしてるから、首筋に顔を埋めてちいさく痕を残した。啄ばむように繰り返してたらイルカ先生がはっと甘い息を零して。
伸び上がって目を閉じたままのイルカ先生に夢中になって唇を重ねた。