コタツを巡る攻防戦
「イルカセンセ、暖房器具ってコレのこと?」
幾分、いや大いにガッカリしながら確かめた。
それに対して、
「ええ、今ぐらいならそれで十分でしょ」
それが何か?とでも言うようにイルカ先生がオレを見た。
卓袱台の横に小さな電気ストーブ。
「・・・これで冬越すんですか?」
「まさか。木の葉の冬は寒いですからね」
「ですよね〜」
じゃあもうちょっと待ったらアレが出てくるのかと浮かれたら、
「寒くなったら石油ストーブ出しますね」
儚くも夢が敗れ去った。
「イルカセンセ・・・・・・・・・コタツは?」
「ありませんよ。んなもん」
んなもんって。
何故かイルカ先生の機嫌が悪くなってこれ以上言い出しにくい雰囲気になった。
でも、諦めない。
「ねぇーイルカセンセ?買いましょうよ。コタツ」
「・・・・・・・」
日を改めて言い出したオレにイルカ先生は無言で答えた。それが寂しくて、すりすりとイルカ先生の首筋に頬を摺り寄せる。
「カカシさん。」
「買ってイイ!?」
にっこりと振り返ったイルカ先生に期待したが、
「煩くするんだったら離れてください。俺忙しいんです」
笑顔とは裏腹にそっけなく言い放った。
でも、まだ大丈夫。めげてない。
「・・・どうしてダメなんですか?」
見際目を間違えないように慎重に聞いた。
「どうしてって・・・アレがあると邪魔なんですよ。部屋狭くなるし」
「じゃあ、小さいのにするから」
「そんなに寒いんでしたら何時までもトレーナー着てないでフリースとか半纏とかもっと温かい格好してくださいよ。靴下も履け」
「ええっ」
それはイヤ。ぜったいイヤ。
「さっ、さむくないですっ」
「だったらいらないじゃないですか」
「ええぇ・・・・・」
ひどいよ、イルカセンセ。
ワザとらしくぐすんと鼻を啜ってみせればイルカ先生が溜め息を吐いた。
「どうしてそんなにコタツが欲しいんですか」
「わかりません」
「わかりませんって・・・」
ただ予感がする。
「でもどうしても欲しいんです。ないといけないような気がするんです。アレがあるとすごくイイことが起こるような気もするんです!」
訳も分からず鼻息荒く言った俺をイルカ先生は呆れたように振り向いた。
「俺は逆に無い方がいいような気がします。だいたいアレがあると温かくて眠くなるから仕事がはかどらなくて」
と言いつつ迷ってる風だった。
「でも・・・イルカ先生も寒いデショ?足、つめたいよ」
「わっ、くすぐった!」
止めてくださいと、剥がそうとするのに逆らって両手で掴んだ。こっそりチャクラを送って暖める。
「ほしいな・・・」
「カカシさん」
「・・・・ごめんなさい」
煩くするんだったら、とイルカ先生が言い出す前に黙った。
鼾で目が醒めた。
顔を上げればオレを背中にくっつけたまま、イルカ先生が卓袱台に突っ伏して眠っていた。右手には赤鉛筆を握ったまま、口を開けて高らかに鼾をかいている。
「疲れてんだね・・・」
掴んだままの足から手を離し、イルカ先生の胸の前で手を組んで持ち上げると寝室まで引き摺った。途中で目を覚まして「まだ仕事が・・・」と寝ぼけてたけど、布団の中に押し込めばすぐに寝てしまった。
「う、うわぁ!!」
イルカ先生が飛び起きた。起きるにはまだ早くて日も昇っていない。
「俺いつのまに・・・」
わたわたと布団から抜け出し、卓袱台を見てまた悲鳴を上げた。
「ぜんぜん進んでねぇ・・・」
きょろきょろして寝室の前に転がっていた赤鉛筆を掴むとすごい勢いで添削を始めた。朝からテンションが高い。
「イルカセンセーー」
意味もなくベッドから呼びかけると、
「一限目で返さないといけないのに!」
キッと涙目で睨まれた。
(ふぇ!?オレのせい?)
なんかしたっけ?と思いつつ、眠気も吹っ飛んで体を起こせばクシャミが出た。立て続けにもう一発。
「・・・はむひ」
鼻が詰ってヘンな発音に・・・あ、また・・・っ。
ばんっと音がして居間を見るとイルカ先生が怖い顔して睨んでる。
「ごめんなひゃい。もう―――」
五月蝿くしないからって言おうとしたのに怖い顔したまま、ずんずんこっちにやって来る。のびてくる手に思わずガードしたら肩を掴んでベッドに押し戻された。布団を顎の下に挿まれ、起き上がろうとしたら額を掴んで枕に押し付けられる。
「イ、イル・・カ――・・」
「・・・―――まだ早いから寝ててください」
「でも・・・」
「いいから」
ちょっと優しい顔つきになった。
「――うん」
返事をすれば、額に押し付けられていた手が退いた。それからちょっと赤い顔して「いいですよ」と言った。
「え?」
「・・・・コタツ」
「え・・?」
「だから・・・買っても」
「ほんとに!?でもどうして急に?」
「あっても無くても一緒みたいだから」
「??」
「わからなくていいです」
ポンと布団を叩くと居間に戻っていった。
それからぼんやり仕事をしているイルカ先生を見ていると、終わったのか書類をカバンに詰めてベッドに戻って来た。
「ひゃあ」
「あったかーーい」
冷えた足を勝手にオレの足の間に挟んで体を丸めた。へにゃと緩んだ幸せそうな顔を見ていると文句を言う気も失せて、同じく冷たくなった手を引き寄せた。
「今日、早く仕事終わるんだったら一緒に買いに行きましょうよ。ねぇ・・・?ねぇ・・・って」
もう寝てた。
仕方なく約束は起きてから取り付けることにし、イルカ先生を抱き寄せた。首筋に当たる息がくすぐったかったけど、寝息を聞いている内にいつの間にか眠ってた。