ソワソワ 6





コタツの向こう側でイルカ先生がみかんの皮を剥いていた。
大きな手で包み込んでぺりぺりとみかんを肌に剥くと、今度は薄皮も綺麗に取っていく。
頃合を見計らって、「あーん」とすると、イルカ先生が、「あーん」と言いつつ手を伸ばしてみかんを口に入れてくれる。

「おしいですか?」

小首を傾げるのが可愛い。

「おいしいよ、イルカ先生も食べてみて」

促せば、もじもじしながら剥いたみかんをこっちに押しやる。

(なんて可愛いんだろう、食べさせてホシイのかな。)

あまりの可愛い仕草に浮かれつつ、みかんを手に取るとイルカ先生へと手を伸ばす。

「はい、あーん」

恥かしげに開かれた唇にみかんが届きそうになった時、地面が揺れた。

「わっ、地震!?落ち着いて!大丈夫だか――わーっ!」

揺れは大きくなって、コタツの上にあったみかんが転がりだす。
あっという間に床が抜けてイルカ先生がコタツごと出来た穴に飲み込まれた。

「イルカセンセーッ!イルカセンセーッ」

遠ざかるイルカ先生に穴の淵から手を伸ばすが届かない。

「――・・きろ」

みるみるイルカ先生が小さくなって暗い底へと消えていく。

「うわーん、イルカセンセーっ」

「オイ、起きろ」

「センセェーッ」

「いい加減起きねぇかっ!」


ぐわんと頭を揺すられて目が開いた。
眩しい光を遮るように覆いかぶさるのは。

「何する!ヒゲっ」

掴まれた首元を引き剥がそうとアスマの手を掴むと、ちっと舌打ちしてすぐ離す。
なんだと思えばアスマの指先に血豆が出来てた。

「そんなのさっきなかったよね?何時作ったの?どんくさーい」

無理やり起こされ機嫌の悪いまま、ぼりぼり頭を掻きながら悪態づけば凄い形相で睨まれたが、それを無視して夢の内容を追いかけた。

なんだか良い夢を見ていた気がする。
いや・・・、悪い夢か・・。
叫んでいたような気がするが、もしかして寝言言たりしてなーい・・?

ま、いっか。

いきなりの覚醒に重くなった頭を軽く振って、そろそろ帰ろうかと考える。
イルカ先生も出来上がってる頃だろうしと起き上がり、邪魔なアスマを脇に押しやって目を見開く。
綺麗に締まっていた襖が外れかかって斜めになっている。

「なんで襖壊れかけてんの?」
「イルカに聞けや」
「は?イルカセンセ?」
「えれぇ怒って破壊して行きやがった」
「なんで!?ひげっ!イルカ先生に何した!?」
「俺が知るかっ!コタツで寝てるテメェ見て静かにキレてたんだよ」
「え?」
「他所様のコタツで寝るような人はうちのカカシさんじゃあねぇーんだとよ」
「えぇっ!?なにソレ」

慌ててコタツから這い出してイルカ先生のいたテーブルを見るが、居ない。

「イルカならそのまま飛び出してったぞ」
「先にそれを言えっ!」

事態は上手く理解出来ないが、イルカ先生が居ないのと怒ってるらしいのが哀しくて、後を追いかけるべくサンダルをひっかけると部屋を飛び出した。

「おい!財布おいてけ!」

アスマの声が追いかける。
奢る約束だったのを思い出して財布と後ろに投げると居酒屋から家へに向かって走った。




家に帰り着くと扉は開けっ放しで、電気も点けずにイルカ先生が居間でゴソゴソしている。

「イルカセンセ?どーしたの?」

急に声を掛けたから驚いたのか「わっ」と言う声と共にごすっと何かがぶつかる音がする。

「・・いひゃい・・」

哀しげな声が聞こえて慌てて居間に入り込んで、驚いた。

「あっ!」

朝、出かける時にはなかった物が出ている。

それは、コタツ。

ずっと出したいと思っていた。
嬉しくてたまらなくなったが、今はイルカ先生の方が先。

「大丈夫ですか?」

頭を押さえて蹲るのに手を伸ばす。
きっと滑って転んだんだろう。
すごく酔ってるみたいだから。
一体どれだけ飲んだんだろう。
プンプン酒の匂いをさせるイルカ先生に、「見せて」と頭を押さえた手を剥がそうとすると、ブンブン手を振って暴れだした。

「しゃ、しゃわるなっ!」
「あー・・はいはい」

手を引っ込めると、ばたばた這って部屋の隅へと逃げる。
硬く膝を抱えて背を向けるのに、ひとまず怪我はなさそうだと判断して、酔いを醒まして貰うために台所へと水を汲みに行った。



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