こころみる人たち




4日目



ちょっと誘惑に負けた。


暗い寝室に水音が響く。
ぴちゃぴちゃと絶え間ない音に熱が籠もる。
枕に頬をくっつけたまま口吻けを交わす。
圧し掛かったりしたら堪えられなくなるのは経験済みなのでそんなことはしない。
体を撫ぜようとする手も引き剥がす。
前にこれで耐えれなくなって失敗したから、触れるのもナシ。
焦れたように逃れようとする手に指を絡め、握り込む。

「イルカせんせ・・」
「だめ・・カカシさん・・だめです」
「だって・・・。・・・イルカ先生、もっと舌だして・・」

ん、と差し出した舌をカカシさんが舐める。
唇は離して表面だけ擦り合わせる。
ふいにカカシさんが顔を上げてぱくりと舌を咥え込んだ。
深く絡めて強く吸われる。
途端にビリリと背筋に快楽が走って慌ててひっこめた。

「・・イルカセンセ、もっと・・」
「だめです・・、そんな風にしたら俺・・」
「勃った?ねぇ、今、勃ってる?」

口吻けの合間に頷くと、はっと熱い息をカカシさんが吐いた。

「オレも・・、イルカ先生が欲しくて硬くなってる」
「あっ・・、だめ・・やらしいこと言わないで・・」
「濡れてきた・・?先っぽ、ぐちゅぐちゅって濡れてる?」
「あっ、あっ、だめ・・だめ・・あ・・」

カカシさんの言葉に煽られて、触れてもいないそこが痛いほどじんじんと張り詰める。

もしかしたら今シても充分気持ちイイかもしれない。
抱かれたい、と気持ちに迷いが生じる。

だけど、もっと、確実に――。

より深い快楽を想って堪えた。

「・・挿入れたい」

泣きそうな声でカカシさんが言った。

「ダメ、まだ駄目です」



今夜は離れて眠った。
くっついていると熱が移っておかしくなりそうだから。
もぞもぞと寝返りを打つカカシさんに睡魔はなかなか訪れないようで、繰り返し熱い息を吐いていた。
その溜息を聞きながら、あと3日の我慢と自分に言い聞かせた。









「お風呂入ってきますね」
「うん」

少し唇を尖らせたような顔で去っていくのが面白い。

いつもそんなこと言わないくせに。

にんまり笑みを浮かべると、読みかけの本を持ってベッドに入った。
スタンドの明かりだけ点け、イルカ先生が隣に潜り込むのを待つ。

押して駄目なら引いてみろ。

使い古された手だが効果は絶大。
そっけない態度のオレをイルカ先生が気にするのにさほど時間は掛からなかった。



隣で何度もイルカ先生が寝返りを打つ。

「あ、ゴメンネ。眩しかった?」
「いえ・・・」

スタンドの光を遠ざけつつページを捲ると横顔にイルカ先生の視線が刺さった。

「・・・新しく出たやつですか?」
「いーえ?最近、バイオレンスばっかり読んでたからこっちも読み直そうかなって・・」
「そうですか・・・」

それっきり枕に顔をうずめるようにして口を閉ざした。

その横顔の淋しそうなこと!

内心でほくそ笑みながら本を閉じた。
明かりを消すとイルカ先生の頬に掛かる髪を梳く。
横を向きに寝転がるとすぐにイルカ先生から胸の中に納まった。
ぎゅうと抱きしめると背中に回された手がしっかりしがみ付いてくる。

やった!やった!

勝利に酔って大笑いしそうになるのをなんとか耐えて、イルカ先生の額に口吻けた。
おやすみ、と言う様に、そうっと。
唇を離すと黒い瞳が上を向いた。

「カカシさん・・・」
「ん・・?」

なにか言いたげに開いた唇は言葉を紡ぐことなく閉ざされる。
だけど、瞳は雄弁に物語っていた。
オレを見上げていた視線がゆっくり頬を滑り降ちて唇に止まる。
なんて色っぽいことを無意識にやって見せるのだろう。
誘われるように唇を寄せると鼻のキズの上に口吻けを落とし、鼻筋を通って唇に触れた。
最初啄ばむように軽く、それからしっとり合わせて、貪った。
夢中だった。
ただの口吻けなのに気持ちよくって離れることが出来ない。

「だめ・・カカシさん・・だめです」

甘い声にますま熱が滾る。
体の線をなぞると、イルカ先生に幾ばくかの理性が戻って手を押さえられる。
そんなことで熱くなった体は納まらない。
やらしいことをいっぱい言ってイルカ先生を煽った。

「・・挿入れたい」

それは懇願ではなく、宣言。

今からアナタを抱きますよ。

そんなつもりで言ったのに、言った途端ぐっと胸を押された。
突っぱねた手でオレを遠ざけると、掠れた声で言う。

「ダメ、まだ駄目です」

アナタなんだってそんなに意思が固いんですか。




発散されることのない熱がもんもんと体温を上げ、一向に眠ることが出来なかった。








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