こころみる人たち




2日目



今日は宿直で寝るのは別々。
校舎の見回りを終えると明かりを消して冷たい布団に滑り込んだ。
コチコチと時を刻む時計の音に目が冴える。
カカシさんはもう眠っただろうか。

「あ」

思いついて、式鳥を作った。
手紙を結わえて家に帰らせる。
鳥はすぐに戻ってきた。
足元に違う手紙を結わえて。
逸る手元に紙が震える。

『アナタが恋しい』

胸がきゅんと大きく鳴った。
手紙を胸に目を閉じた。
明日会えるカカシさんに想いを馳せて。









「ただーいま」

誰もいないのに言ってしまうのは、もう癖になっているというかこのドアを潜ればそう言うのが当たり前になってるからだ。

暗い部屋のひとつひとつにぱちぱちと明かりを点けて(見つかったら怒られる)、お風呂に入って、ご飯を食べて、テレビを見て、またぱちぱちとひとつひとつの部屋の明かりを消してベッドに入る。

ベッドは一人だからと言って決して広いわけではなく、イルカ先生が子供の頃から使っているベッドは大人が寝るにはぎりぎりの大きさで、逸れは一人でも二人でも大差ない。
だったら大きいベッドに買い換えればいいと思うかもしれないが、どのみちくっついて寝るから大きさはさほど問題ではない。
それにイルカ先生の匂いがびっしり染み付いたこのベッドには愛着があり、そこにオレ一人が寝ているというのも感慨深くてイイ。



今頃イルカせんせいは何してるんだろ。
そろそろ見回りを終えて眠る頃かな。

目を閉じて、眠りが訪れるのを待つ。

そういえばイルカ先生は約束を覚えているかな。
一人でしてたりしないよね・・?

本人が聞いたら怒りそうなことを考えていると、眠りの代わりに、別の気配が近づいてきた。
イルカ先生のようで、そうでないもの。
それはこっちに来るでもなく、外の電線にとまったまま動かない。

どうしたんだろ?

窓を開けて呼び寄せると小さな鳥が手のひらに乗った。
何故かもっちりした体つきの黒い小さな鳥。
その足元に手紙を見つけて、開いた。



『もう、寝ましたか?』

ん?起きてる・・けど?

ほかには?と手紙を裏返えしたり、光にかざしたり。
結局、それ以外に見つからず、手のひらの鳥を見つめる。
しゃべるかと思ったがしゃべらない。
見つめられた鳥はもぞもぞと手の中で体を動かし、腰を据えるとこっちを見上げて「ぴよ」と鳴く。

その瞬間、ぶわっと来た。

綺麗でも汚くもなく、だけど癖のある文字。
鳥はオレが寝ていたら、きっと外にとまったままだっただろう。
鳥の真っ黒な瞳やもぞもぞする仕草。

そのどれもがイルカ先生を思わせて愛しさが込み上げる。
イルカ先生がすっごく好きだ。

会いたい。 こんなにもイルカ先生が溢れているのに、本人がいないなんて。
寝ましたか?だなんて何を思いながら書いたのだろう。

ねぇ、オレがいなくて寂しい・・?




手紙を小さく折りたたんでお守りの中にしまい込む。
イルカ先生の想いの詰まったこの手紙はオレの宝物になった。
窮地に立ったら何度もこれを見直すだろう。



返事を書くべく紙を引き寄せ、『起きてるよ』と書いてすぐに消す。
伝えたいことがもっと他にある気がする。

『会いたい』

そんなこと書いてどうする。

くしゃっと丸めて新たな紙に向かうが、暫くすると手がまた同じ字を書き綴る。

『会いたい』

イルカ先生に。

『会いたい』

イルカ先生・・。

『イルカ先生』

会いたいな。

会いたい。

会いたい。

会いたいよ・・。



恋しい。

雫のようにぽつんと落ちた想いは何にも混ざらず胸の奥にしんと息づく。


想いを鳥に託すと空へと放す。
鳥の代わりに様子を見に行きたいけど、それはルール違反なので絶対にしない。



鳥が消えた方向をいつまでも眺め、やがて諦めて布団に入った。








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