恋ごころ -中編- 




 初めて入ったカカシ先生の部屋は上忍寮の中でも上階にあって広かった。だがその広い部屋には何も無くて、大きなベッドと簡素な机が置いてあるだけだ。生活感は全くなく、ヤルだけの部屋かと思うほどだ。
(童貞なんて嘘じゃないだろうな…?)
 その方がよほど本当らしいのだが。
「イルカ先生、コーヒー飲みますか?」
 湯気を上げるマグカップを二つ持って部屋に戻って来た時には、童貞なのも頷けた。正気に返らせてどうする。普通なら、ここは押し倒す場面だ。阿呆じゃないかと思ったが、殊勝な顔してカップを受け取ると礼を言った。
「ありがとうございます。…カカシ先生は優しいですね」
「そ、そんなこと、ないよ」
 今時、こんな言葉ではアカデミー生だって赤くはならない。照れて硬直するカカシ先生の手からカップを取ると、自分の分も机に置いた。距離を詰めてカカシ先生の肩に額を乗せる。
 今はカカシ先生でもいいから抱きしめて欲しかった。胸の中で荒れ狂う嵐を沈めて欲しい。
 だけど、いつまで経っても背中に腕は回らなかった。
「…ごめんなさい。俺、迷惑ですね。帰ります」
 イライラしながらも儚げな笑顔を浮かべて数歩下がると、カカシ先生が慌てたように背中を抱いた。
「そ、そ、そ、そんなことないです!」
(分かってるよ)
 呆れながらも身を任すと、抱擁は息が止まりそうなほど苦しいもので、でも何故か、その力強さが心地良かった。
「カカシせんせい……」
 思わず甘えた声が出た。そうすると抱きしめる腕はますます強くなって惚けた。硬いベストが邪魔だ。肌の温かさを感じたい。
「…カカシ先生、シャワー浴びてきて貰えませんか?俺…、カカシ先生に抱かれたいです」
「えっ!?でも…オレ……」
「駄目、ですか?」
 上目遣いで見上げると、ブンブン首を横に振った。
「…っ!だ、だ、だ、ダメじゃないです!」
(分かってるよ)
 いちいち手間が掛かるのが面倒くさい。そっとカカシ先生の胸を押すと、ぎくしゃくしながら部屋を出て行った。はーっと溜め息を吐いてベッドに腰掛ける。抱きしめられた時はイケるかと思ったが、どうにもカカシ先生の反応に気持ちが萎えた。
 ダサい。スマートじゃない。カカシ先生って全く俺のタイプじゃなかった。
(ヤるだけヤったらさっさと帰ろう。後々しつこくされたら、一回寝たぐらいで恋人面するなって言ってやる。初恋が砕け散って、ざまぁみろだ。)
「あ、」
 カカシ先生が童貞なのを思い出したが、まあ勃たせればどうにでもなるだろう。ちなみに俺は男とする時はネコ専門だ。理由は大事な息子をあんな所に挿れたくないからだ。向こうの部屋からシャワーの音が聞こえてくる。
(…カカシ先生ってどっちがいいんだろう?抱かれたいって言われたらどうしよう…)
 その時はそこで終わりにしよう。それでも十分傷付くだろう。
(…俺の最初の時ってどうだっけ…?)
 ………もう、相手すら思い出せなかった。それが凄く悲しい。こんなことを後悔するなんて思いもよらなかった。もう二度とアス兄に会えないと思っていたから、相手なんか誰でも良かった。  アス兄が帰ってきた時、俺は死ぬほど後悔した。アス兄に想いを告げるには、俺は汚れきっていた。それに俺のせいでアス兄は修行を中断せざるを得なかった。里に帰りたくなかったのに、俺が居たから…。
 俺はアス兄の重荷にしかならない。だけど迷惑を掛けることでしか、俺とアス兄の繋がりはなかった。
(俺なんか居ない方がいい…。)
「…泣いてるの?」
 いつの間に風呂から上がったのか、髪を濡らしたカカシ先生が部屋の入り口に立っていた。
「!!」
 その姿は凄い破壊力だった。俺の哀しみが吹っ飛ぶほどのおかしさが込み上げる。
 カカシ先生はパジャマを着ていた。これからシようって時に上下ばっちり着込んで、上着をズボンの中にしまっている。どういう入れ方をしたのか、ズボンがカボチャみたいに膨らんでいた。
「〜!〜!」
 咄嗟に顔を伏せて吹き出すのを堪えたが、肩が激しく震えるのは押さえられなかった。
「イルカセンセ…」
 気遣わしげな声が近づいて、肩に手を置かれた。
(やめろ!近づくな!)
 堪えきれなくなって立ち上がると、カカシ先生に背を向けた。
「す、すみません!シャワー貸してくださいね」
 声がおかしな風に震えたが、泣いてるように誤魔化せただろうか?
 さっき音が聞こえてきた方に走ると風呂場を見つけて駆け込んだ。手早く服を脱ぎ捨てると、シャワーを最大にして、ひーひー笑い転げる。笑って、笑って、おかしさが過ぎると、
「は…」
 馬鹿馬鹿しくなった。
(俺っていつまで引き摺ってんだよ。いい加減、諦めろってんだ。)
 哀しみを抱え込んで、哀れんでいる自分が馬鹿馬鹿しくなってくる。
「はぁ〜あ」
 不思議な人だ。あれだけ男前なのだから仕草に気を付ければ凄くモテただろうに。きっと俺の前に好きになった人もいただろう。
(でもあれじゃあ、逃げられるよな)
 普通、風呂から上がったら素肌にタオル巻いてるとか、パジャマの下だけ履いてるとかだろう。あんな格好で風呂から出てこられたら100年の夢も醒めるってもんだ。
「うくくっ」
 思い出して、また笑った。男前なだけに余計可笑しい。
 シャワーを止めると外に出た。置いてあったタオルで濡れた髪を拭いていたら、横にある着替えに気付いた。いろんな犬の顔が一面に描いてある。
(うわっ!)
 子供でもないのに、こんな柄を着るのはごめんだった。気付かなかったことにして、ズボンだけ履いていこうとしたが、カカシ先生がパジャマを着込んでいるのに、俺だけ裸になっているとヤル気満々と思われそうで、仕方なく上も着た。せっかくシャワーを浴びたのに、服から居酒屋の油の匂いがして、かなり嫌だ。
 些か不機嫌になりながら部屋に戻ると、俺のマグカップを持ったカカシ先生が「あ!」と声を上げた。
「イルカ先生、帰るの!?」
 哀しげな顔になるのに溜飲を下げた。
「いえ、…着る物が無かったので…」
「あ!ゴメン…!脱衣所の所に置いておいたんだけど…。ちゃんと声掛ければ良かったね。すぐ持って来ます!」
「いえっ!いいです!カカシ先生…!それよりどうしたんですか?カップ持って…」
「冷めたから、入れ直してたんです。はい、イルカセンセ」
 温かなマグカップを手渡されて、胸がきゅんとおかしな具合に痛くなった。さっきのコーヒーを一口も飲んでいなかった。カカシ先生はニコニコと俺を見ている。
 受け取ったコーヒーに口を付けると甘い味がした。子供の頃に飲んだコーヒー牛乳みたいな懐かしい味だ。
「…美味しい」
「そう?良かった」
 ニコニコとカカシ先生が笑う。
「懐かしい味がします」
「そう。(ニコニコニコ)」
 心からの賞賛だったが、カカシ先生にリードを任せると夜明けを迎えそうだったので、カップを置くとカカシ先生に寄りかかった。
「…カカシ、せんせ」
 鈍いカカシ先生にも分かるように、ありったけの甘えた声で呼んだ。伏せた額の辺りから、ごくっと生唾を飲む音が聞こえてほくそ笑んだ。
 ちゃんとその気になったようだ。胸に置いた手からドクドクドクと早すぎる程の鼓動が伝わり、カカシ先生の極度の緊張と興奮を知った。手を滑らせると、パジャマ越しにも鍛えられた肉体が感じられる。外見のイメージとは違って、思いの外硬く広い胸板にぺたりと頬を付けると背中に腕を回した。すぐにカカシ先生が抱きしめてくれて、ほうっと体から力が抜ける。
「イルカセンセ…」
 掠れたカカシ先生の声が聞こえて顔を上げた。やっぱり良い声だ。
「…カカシ先生の声、好きです」
「ホント?」
「はい、もっと聞きたい」
 背中に回していた腕を首筋に変えて体を密着させた。カカシ先生の手が背中を撫でるように察すって気持ちイイ。服越しに伝わる体温も心地良くて、首筋に顔を埋めると、ちゅっと軽く吸い上げた。
 今日はこの体が欲しい。
 首筋に舌を這わせ耳の下まで舐め上げると、唇で耳朶を挟んだ。ぶるっと震えたカカシ先生に気を良くして、舌を尖らせると、つーっと耳の縁を舐める。複雑な耳の内側にも舌を這わせると、カカシ先生の体がブルブル震えた。
 こういうことも初めてだろうか?瞬く間に耳が紅色に染まる。
「…気持ちイイですか?」
 耳元で囁くと、ぶわぁっとカカシ先生の体が熱くなった。
「ウ、ウン」
 言葉以上にこくこく頷くカカシ先生から体を離して手を引いた。
「…ベッド、行きましょう?」
 油の切れた機械みたいに、ぎこちなく歩くカカシ先生を連れて寝室に向かう。途中、明かりを消して部屋を暗くした。
 ベッドの横に並んで立って、カカシ先生を見上げる。少し伸び上がって唇を重ねようとして止めた。
「…カカシ先生。カカシ先生はどっちがいいですか…?」
「え…?ど、どっちって?」
「だから…、上と下…」
「上と下…?」
「だ・か・ら!抱く方が良いのか、抱かれる方が良いのか、どっちだって聞いてるんです」
「あっ!ああ…!だきっ、抱く方がいいです!許されるなら…イルカ先生を抱きたい…!」
「そうですか」
 商談成立。
 止めていた唇をカカシ先生のと触れ合わせると、カカシ先生が吃驚したように顎を引いた。考えてみればカカシ先生とキスをするのはこれが初めてで…、
(…これがファーストキスってことは無いよな…?まさかな…)
 唇を離してカカシ先生を見てると、ぽーっと遠くを見ていた。薄く唇を開いて、はあ、はあと荒い息を零している。
 ちゅ、ちゅっと音を立てて唇を啄んだ。カカシ先生の薄い唇は、弾力が無くてどこか物足りない。
「カカシ、センセ…」
 口吻けを返してくれないことに不満を覚えながらも、しっとり唇を合わせると舌を差し込んだ。歯の隙間を潜って奥へ進むと、カカシ先生の舌先を突く。ひくっと震えた舌をべっと舐め上げて、絡みつかせると擦り合わせた。くちゅくちゅと水音が立ち、口の周りが唾液で濡れた。構わずカカシ先生の口内に舌を這わせると、ぎゅっと腕を掴まれた。酷く興奮しているのか、ばふばふ鼻息が頬に当たる。
 それでも、されるがまま俺には何もしてくれないカカシ先生に、さすがに物足りなくなって唇を離すと強請った。
「…いいですよ?カカシ先生の好きにしてくださって…」
 これで暴走しない男は居ない。押し倒されるのを待っていると、ぐっとカカシ先生の体重が掛かった。
「も…ダメ…」
 やっとだ。本当にカカシ先生は手間が掛かる。数歩下がってベッドに倒れ込もうとしたら、思いの外強い力でカカシ先生がのし掛かってきた。俺より体の大きいカカシ先生の上に乗られて胸が詰まった。
「…うぅっ、カカシ先生重い…、カカシ先生重いです!カカシセンセ!?」
 いつまでも動こうとしないカカシ先生の肩を揺する。バシバシ背中を叩いてもビクともしなかった。
「ちょ…!もうっ、なんで!?」
 何とかカカシ先生の下から抜け出す。仰向けに転がすと、動かなくなったカカシ先生の頬を叩いた。胸に耳を当てて心音を確かめる。
「…はぁ〜あ」
 カカシ先生は気絶していた。心臓が破裂しそうなほど波打っている。興奮して、頭に血が上りすぎたのだろう。
(これだから童貞はっ!)
 呆れを通り越して怒りが沸いてくる。
(俺の性欲はどうしてくれるんだ!!)
 キスしたせいで少し勃ってしまった。一人で抜くのも胸くそ悪い。
「……………」
(…………同意の上だし、いいよな?)
 気絶した方が悪い。勝手に進めさせて貰うことにした。起きているとカカシ先生は面倒くさい。いっそ寝ててくれた方が都合が良い。
「据え膳食わぬは…って言うし。…頂きます」
 両手を合わせると、落ちていたカカシ先生の足をベッドに乗せて、体を跨いだ。パジャマの裾をズボンの中から引っ張り出すとプチプチボタンを外して…、さっき脱衣所に置いてあったパジャマと同じ柄なのに気付いた。
(うわっ!同じ柄のパジャマを着せようとしていたのか!いきなりペアルックなんて引くわ!しかもこんな柄…!)
 胸の下までボタンを外すと左右に開いた。白すぎる肌が露わになり、目を奪われる。
「うわぁ…カカシ先生、色白!…ん?」
 更に開いて、指が引っ掛かりを覚え…、ピンク色の乳首が出てきた。
「!!」
 ただのピンク色じゃない。リップクリームみたいな透明感のある可愛いピンク色だ。今までいろんな子を抱いたけど、女の子にだってこんな色した子は居なかった。
(い、色白だから…?)
 プルプルと指先で弾くとつんと尖った。きゅっと捻るとピンク色から薄紅色に変わった。
「うわー、ヤバいかも…」
 どういうワケか興奮する。ぎゅむぎゅむと押し潰しながら、もう片方にはぺっと舌を押し当ててみた。舌を動かしていると、柔らかかったソコが小さな粒となって舌を押し返した。
 ちらりとカカシ先生を見上げるが、気を失ったままで反応は無かった。
(……つまんない)
 顔を上げて、ふんっと鼻を鳴らす。ただ、もしかしたらと仮説が生まれて興味が湧いた。
 乳首がこれだけピンク色なら、アソコもピンク色かもしれない。
 ごくっ。
 乳首を晒して気を失っているカカシ先生のズボンに手を掛けた。まるでレイプしているみたいだ。腰を持ち上げてズボンをずらすと、意外にも履いているのは普通のボクサーパンツだった。ここまで来たら、ブンゼの白パンツだって驚かなかったのに。パンツの中で大人しく横たわっているカカシ先生の雄を指で撫ぜた。
「………」
 もう一度、ちらりとカカシ先生を見る。じっと目を閉じたままなのに、えいやっとパンツを脱がした。
(おわっ!)
 やっぱりカカシ先生のはピンク色だった。こっちはソーセージみたいなピンク色だった。付け根のもしゃもしゃは髪より濃い銀色で、卑猥さなんてまったく感じなかった。そこだけ見ていると、まるで西洋のお人形さんみたいだ。
 しかし馬鹿デカイ。絶対被ってると思ったのに皮は被って無くて、ちゃんと剥けていた。
(…これって、大きくなっているサイズ?)
 つんつんと指で突いてみると柔らかかった。
(うそ…、通常サイズかよ)
 手にとって扱いてみる。くんっと中に芯が通って硬くなった。一擦り毎にグンと伸び上がる。(…デカッ!)
「ぅ…、ふっ…」
 カカシ先生の息づかいが変わって、ゆっくり目を開けた。はふっと息を吐いて、頬を赤らめる。虚ろだった視線が宙を彷徨い、俺を見つけた。
「…イルカ、せんせ…?何して…!?」
 はっと目を見開いて体を起こそうとするのに、扱いていたカカシ先生の雄を口に含んだ。ちゅうぅと先端を吸い上げると、頭が布団へ逆戻りした。激しく胸が上下し、腹筋が痙攣したように震えた。
「はっ…、ぁ…」
 喉の奥まで雄を迎えると、舌をぴったり裏筋に当てて頭を上下させる。口の中の雄がいきり立ち、大きく膨らんだ。頭を動かす度に、ずちゅっ、ぬちゅっと卑猥な水音が立った。
「ぁ、…イルカせんせぇ…っ」
 甘えを含んだカカシ先生の声にゾクリと背中が震えた。熱に潤んだ瞳が俺を見る。口の中に苦みが広がったのを合図に口を離すと、「あ…」と残念がるような声をカカシ先生が漏らした。


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