この手の中に 3
そのまま家に連れて帰られ、ドサッっとベッドに放り投げられた。咄嗟に受身を取って衝撃に耐える。
「何するんですか!?」
急に殺気に包まれたかと思えば何も言わず家に連れて帰られて、あまりの理不尽さに怒りが湧いてカカシさんを睨みつけた。それにガイ先生に殴りかかるなんてどういうつもりだなんだ。
「どういうつもり?」
問い詰めようと口を開けると、逆に聞こうと思ったことを聞かれ戸惑った。
「何がですか・・・?」
冷ややかな目で見下ろされ、こんな風に見られたことなんてなかったから、瞬時に怒りは消えた。胃の辺りがきゅうっと縮んでもやもやし出す。
カカシさんから殺気は消え、代わりに怒気が滲み出ていた。
俺に対して怒ってる。それも、ものすごく。
でも何が原因か分からない。何か気に障るようなことでもしたんだろうか?
だが考えてみても、朝、家を出る時はにこやかに笑ってた。寝そべって手を振りながら。それから放課後、待機所で会うまでは一度も会っていない。心当たりがまるでなかった。
ちゃんと話がしたくて体を起こそうとしたら胸を押されてベッドに押し付けられた。
「・・・なんでガイなの?」
「なんでって・・・なにが?」
質問に質問で返した俺にイラついたようにカカシさんの眉間に皺が寄った。
でも、なんでここでガイ先生が出てくるのか解らなかった。腕相撲のことだろうか?でもただ教えてもらうってだけでこんなにも怒るとは思えない。訳が分からない。何か勘違いしてるなら誤解を解きたい。非があったなら謝りたい。とにかく話をしないと始まらない。
腕をのけて体を起こそうとしたら、ぐっと体重を乗せられて肺の中の空気が押し出された。
「ちょっ・・・退・・い・・て」
体重をかけられた胸は上下する事が出来ず呼吸困難に陥った。息がしたくて猫の前足に押さえつけられるネズミのごとくもがいたが、もがけばもがくほど体重が乗せられる。
「とぼけるの?」
なにを?
言ってる事が解らない。足りない酸素に頭が働かず、言葉を発する事すら困難だった。
「じゃあ、もういい」
諦めたような声と共に腕が退いて急に入ってきた酸素に噎せた。肺や気管がじんじん焼けて目に涙が浮かぶ。苦しくて体を丸めて咳き込んでいると肩を掴まれ無理やり仰向けにされた。
やっと開放され、どうしてこんなことするのかとか、何をそんなに怒っているのかとか、聞きたいことはたくさんあったのに、見上げた先にあるカカシさんの冷たい表情に、何も聞けなくなった。
なんだかカカシさんの心が離れて行ってしまったみたいで・・・・聞けばそれを確かなモノにしてしまいそうで怖かった。
「え・・・なに・・・」
ごそごそと動き始めたカカシさんの手に困惑する。
「何って、知りたいんでショ?オレが教えてあげる」
呟くように唇が動いてカカシさんの手がアンダーの下に滑り込んできた。
知りたいってなにを?
聞きたいのに頭が混乱して言葉にする事もその意味を考える事も出来ない。さっきまであんなに怒っていたのにどうしてこういう展開に繋がるのか解らない。
「ちょっ・・やめてください」
脇腹をそっと撫ぜ上げられ、これから始められようとする行為に、まさかと思いカカシさんの手を掴んだが、そんな事をものともせずに肌の上を滑っていく。
「まって・・・カカシさんっ」
止めて欲しくて強く掴むと、オレの手が邪魔になったのかアンダーから手を引き抜き裾を掴んでぐっと捲り上げた。胸元にカカシさんの吐息が触れ肌がざっと泡立った。
「やめてくださいっ、嫌です、イヤ・・・」
肩を押し返して逃れようとすると、その動きに逆らうように乗り上げてきて首筋を舐められた。
肩を掴んだ指が、腕が、体が小刻みに震えだし、目の前が滲んだ。でも泣いてる場合じゃなかった。こんなのは嫌だ。こんな風に抱かれたくない。
「お願いです。やめてください」
みっともなく声が震えた。止めて欲しくて何度も懇願した。
それでもカカシさんの手は止まらない。
こんな事は今までなかった。
昨日も突然だったけどこんな風じゃなかった。強引なところはあったけど、ちゃんと俺の意思を確認してくれていた。視線を合わせて、頬を撫ぜて、俺がホントに嫌がってないか確かめてくれていた。
なのに今は目も合わせず、何も言わず淡々と体を弄る。
こんなのあんまりだ。話もさせて貰えず一方的にこんなこと。これじゃあ、まるで・・・・・・。
「やめてください!!」
声を荒げ、本格的に逃れようと暴れた。すると片手で左手と胸を押さえつけられ、背中を浮かす事すら出来無くなった。
いとも簡単にカカシさんはそうした。
俺は何を思い上がったことを考えてたんだろ。
苦々しく朝の遣り取りを思い返すが、今はそれどころじゃない。
唯一動かす事の出来た右手で目の前にあった髪を引っ掴んで、引き剥がそうと引っ張った。でもカカシさんは梃子でも動こうとせず、手の中にブチブチっと髪の毛が抜ける感触が伝わってくるのに慌てて手を離した。
傷つけてしまった。大切な人なのに・・・・。
指を広げると沢山の銀糸が目の前をキラキラと光りながら落ちていった。今までお互いの間にあった大切な何かが手の中から零れていくように。
「あ・・・いやだ・・・」
耐えていた涙がするすると零れた。
白いシーツの上に散らばった銀糸に手を伸ばそうとすると手首を捕られ、全く身動きが取れなくなった。
涙で霞んで鈍く光る銀色を見つめながら、カカシさんを受け止めた。
激しく蹂躙されいつの間にか意識を失っていたらしい。
気が付くと右頬にカカシさんの手があって、涙を拭っている。中にはまだカカシさんがいて、その熱に体がビクビクと反応していた。体中が痺れたように力を失い己の意思でそれを止める事が出来なかった。
情けなかった。
あんなに止めて欲しいと思ったのにカカシさんに奥を探られると体はあっさりと快楽を拾った。カカシさんの落とす愛撫の一つ一つに冷たい石を詰め込まれた様に心が冷えていくのに、体の熱はどんどん上がっていった。熱を追い上げられ、今までされた事無いようなきつい体位に持ち込まれても萎えることなく身も世も無く喘いだ。
心と体は別、それを嫌というほど思い知らされた。
頬を撫ぜていたカカシさんの手が離れていくのに視線を上げれば目が合って、俺が意識を取り戻したのをみると、またゆるりと動き始めた。
「も・・ぅ」
ゆるゆる首を振ってカカシさんの動きを止めようとした。
「も・・う・・・ムリ・・・」
唇をなぞり入り込んできた指が言葉を封じるように口の中を掻き混ぜるのに思わず歯を立てた。
「・・・っ!」
押し殺したカカシの悲鳴が聞こえ、はっとして口を開けた。
口の中に広がる鉄の味にまた傷つけてしまったことを知った。
もう嫌だ。
そう思ったとき、視界の端に振り上げられたカカシさんの手が見えた。