この手の中に 1





 死ぬほど体がだるい。そして眠い。
 昨日のカカシさんは何故かやる気満々で(それはもうとんでもなく)いきなりサカった後はいくら頼んでも放してくれなかった。一体いつ寝たのか分からない。なんでそうなったんだか。
 そうなる前は・・・腕相撲してたんだ。カカシさんと腕相撲してみたくなって風呂から上がってきたカカシさんの手を取った。体勢を整えて『腕相撲して下さい』と言おうとしたらカカシさんの手に力が入って臨戦態勢に入ったから、『以心伝心だ』なんて嬉しく思ったのに。今考えて見たらあの体勢で腕相撲以外の何があるってんだ。まったく。
 軋む体を起こして横で眠ってるカカシさんを見た。一発はたいてやろうかと思ったがあまりにも気持ちよさそうに寝ているので止めておく。
 布団が捲れて寒いのかカカシさんがぶるっと身震いするとすりすりと擦り寄って来た。
 これだよ。ったく、可愛いな。・・・ってカカシさん裸だ。ってか俺もだ。服ぐらい着せとけってんだ。
 ・・・・結構いい勝負だったんだよな。
 最初はあっさり傾いたから勝てる!と思ったのにすぐ戻されてそれから膠着状態が続いて・・・からかわれてるのかと思った。(小さかった頃にやった父ちゃんとの腕相撲を思い出したのだ。)でもそれからお互いの腕が震えだしてカカシさんも真剣なのが分かった。でもちらっと見てみるとまだ余裕って顔してて。悔しいなって思ったら、急に笑みが消えてすごく真剣な顔をした。腕がぐっと押されて耐えようとしたけど全然駄目。ぐいぐい押し切られて負けてしまった。
 俺に勝った後、カカシさん凄く嬉しそうな顔になってカカシさんも真剣に勝負してくれたんだなと思ったら、負けてしまったけど何だか嬉しくて堪らなくなってしまった。
 カカシさんが真剣になった時、カカシさんの腕の筋肉の形がはっきり出てて・・・ほんと綺麗なんだよな。俺みたいにボコってカンジじゃなくて全体に無駄無くついていて、しなやかでまるで野生の動物みたいだ。どう鍛えたらそうなるんだか。
 じっとカカシさんの腕を見ていたら視界の中に自分の手が入ってきた。知らず手が伸びていたらしい。
 うわ、やばい、やばい。触るトコだった。俺って懲りてない。
 その手をそのまま布団に持っていって引っ張り上げるとカカシさんの肩に掛けた。
 カーテンの隙間から眩しいほどの光が入ってくる。
 そろそろ起きようかなと布団を抜け出そうとするといきなり腕を引っ張られた。
「さわらなーいの?」
 わわっ、起きてたのか。
「触りません。何でそんなことしなくちゃいけないんですか」
 見られていたのが恥ずかしくて態とぶっきらぼうに言った。
「だーって、イルカ先生からラブラブ光線出てたから触りたいのかなーっと思って」
 いいですよー触っても、とクスクス笑いながら俺の腕を布団の中に引っ張り込もうとする。
「ラブラ・・・・・なんですかソレ。そんなの出してません」
 出してない・・・ハズ。
 引っ張り込まれた腕がカカシさんの熱に触れて・・・ちょっとだけ布団に戻りたくなった。でも仕事があるんだよな。
「つれなーい」
 その言葉に後押しされて纏わり付いてくるカカシさんをひっぺがすと服を着るためにベッドを降りた。
 服、服・・・とその前にシャワー・・・は終わってる。いつもいつもすいません。
 言葉にするのは気恥ずかしかったので心の中で言っておいた。
 箪笥から新しい服を出して着ていたらカカシさんの視線を感じてそのまま背中を向けて着替えた。慣れたとは言えやっぱり恥ずかしいのだ。
「イルカセンセー、いつでも挑んできてくれてイーヨ」
「はい?」
「オレ、何でも受けて立つよ?」 
「そんなこと言って。じゃあ俺が勝ったら何でも言う事聞いて下さいね」
 昨夜のカカシさんの言葉を思い出して言ってみた。
「イイですよー」
 首だけ回して後ろを見たら頭の後ろに手を組んで余裕の顔して笑ってる。ふと頭の中に子供たちによく読んでやった絵本が過ぎり、カカシさんの頭にぴょんと2本の白くて長い耳が生えた。
 昨日はカカシさんになら負けても良いかと思ったけど、ちょっと悔しくなってきた。もともと俺は負けず嫌いなんだ。
「約束ですよ」
 次は絶対勝ってやる。


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