いまさら(W.D編) 5
合わさった唇が離れて、今度は上、下、端っこと柔らかく触れてくる。
「くすぐったいです」
身を捩るとやんわり押し倒されて床の上に転がされた。体の半分に圧し掛かるカカシ先生の重みが心地良い。
うっとりしていると蛍光灯の光を遮るようにカカシ先生が上から覗き込んできた。
照れくさい。
顔を背けようとしたら頬を押さえられ、
「こっち、見て」
と、かさかさの頬を指でなぞられて羞恥が走る。
「カカシさ・・・」
唇を食むように口吻けられて目を閉じた。
「イルカ先生、口開けて」
(・・・って、どのくらい?)
わからなくて、ぱかっと開けたら笑う気配がした。
(なっ、なんだよ・・・っ)
目を開けたら、やっぱりカカシ先生が笑ってる。
「イルカセンセ、かわい・・・」
「!」
悔しくって急いで口を閉じようとしたら、
「ダメ」
上唇を押し上げるように舌でなぞられて体に震えが走った。そのまま歯列や唇の裏側を舐められる。歯の隙間から舌先を突付かれてひくっと逃げると唇を合わせたまま待っててくれる。恐る恐る伸ばしたら、ゆっくり絡め捕られた。表面を重ね合わせ、舌先で擽りあって、裏側の付け根を舐められた。
口腔に溢れそうになった唾液を飲み込むと喉の動きでカカシ先生の舌を吸い上げるみたいになって、カカシ先生の体が小さく跳ねた。
(気持ちよかったのかな)
だとしたら嬉しい。
うっすらと瞼を開けたらカカシ先生と目が合った。
口元が緩む。
(――赤くなってる。)
嬉しくなって、へらっと笑うと、カカシ先生が深く唇を合わせた。
「んっ!」
深く入り込んだ舌に口の中を掻き回されて、体の中からすぐ耳元で水音がくちゅくちゅと響く。
「んんっ」
強く吸い上げられて痛みに抗議の声を上げたら、カカシ先生が力を緩めてくれた。引っ込めるとカカシ先生の唇の間から自分の舌が出てくるのが見えて心臓がドキドキした。
濡れてるカカシ先生の唇がすごくエロい。
「イルカセンセ、やらしー顔・・・」
「・・・っ!」
どっちが!
言いかけた言葉はカカシ先生の唇に遮られた。
頬を撫ぜてた手が首筋を下りて体をなぞる。服の裾から入り込むと腹を撫ぜた。脇をさすり、胸を辿って肩に触れる。
カカシ先生の手のすることが好きだった。こんな無骨でちっとも良いところなんて無い体をとても大切そうに扱ってくれる。そうされるとこんな体でも良いと言って貰えるようで安心する。
口吻けを受けながらカカシ先生の手の動きに酔った。意識がふわふわして朧になっていく。
(・・・・するのかな・・・?このままするのかな?)
明かりがついてて気にならないこともなかったが、カカシ先生がそうしたいならいっかと思った。
飲み込みきれなかった唾液が唇から溢れ頬を流れた。それに気づいたカカシ先生の唇が追いかける。顎から首筋まで流れたそれをカカシ先生の舌がべろっと舐め上げた。乾いた大地に水が染み込むように体がその感覚が吸い上げ、肌が粟立った。
(もっと・・・・)
カカシ先生のすることに押し流されそうになったその時、
「・・・しょっぱい」
カカシ先生が言った一言に我に返った。
「・・・!!」
(やっぱりだめだ!!)
このまま、なんてあり得ない。
「カ、・・カシ先生、待って!」
「なぁに?」
ぐぐっと被さってた体を押し返すと怪訝そうに眉を寄せた。
「あ・・の。するんですよね?」
「スルよ」
当たり前デショ。
カカシ先生の目が物語っている。
嫌とは言えない、肉食獣のような目。でも――。
「俺、風呂まだなんです。すぐ入ってきますから・・・・っ」
押し返した体がぐっと戻ってきた。
「いーよ。このままで」
(よくないっ、よくない!!)
「すぐっ・・ですから!」
唇が触れそうなところでもう一度押し返すと、さすがにカカシ先生の目が怖い感じになった。
「だって、俺・・・汚いし・・・」
「イルカ先生はどっこも汚くなーいよ」
「でも・・・」
泣きそうになった。すぐって言ってるのに。
「もぉー!イルカセンセっ」
手首を捕られてカカシ先生の股間に導かれた。
硬い。
慌てて引っ込めようとしても、ぐっとそこに押し付けられる。
「オレ、もうこんななってるの!わかるデショ?」
そんなこと言ったって。
「でも・・・・」
唇の端が引きつって戦慄いた。イライラしたようにカカシ先生が頭を掻く。
「だって・・・っ」
アンタいろんなとこ舐めるじゃないか。
それなのに・・・・。それなのに。
風呂にも入らせて貰えない。
「あ・・まり、・・です」
喉も引きつった。その気も無いのに目の淵に涙の珠が盛り上がった。多分さっきまで泣いてたから簡単に出るんだろう。
「あー、もう・・泣かないでよ」
弱りきった声が聞こえた。きっと困った顔してる。でも涙で見えない。
はぁーっと大きく吐かれた溜息にびくっと体が震えた。そのはずみで目に溜まっていた涙が零れた。
「ごめん。わかったから。もう泣かないで」
「か、かし、せっ、せい、・・がっ」
「ごめんなさい」
背中に大きな手のひらを感じて体を起こされた。さっきみたいな体勢になって、よしよしと背中を撫ぜられる。
こんな時でもその手は気持ち良い。
「じゃあね。選ばせてあげます。このままするか、一緒にお風呂に入るか。どっちがいい?」
「・・・・おふろ」
とにかく、おふろ。
「ん。じゃあいこっか」
なんだその選択肢。
思ったのは手を引かれてからだった。
目の前で脱ぐカカシ先生に視線が泳いだ。しなやかな裸体。つい上から下まで視線を走らせて、慌てて逸らした。当然のことながらある部分がとっても元気だった。
浴室前の脱衣所。
こんな明るいところでカカシ先生の裸を見るのは初めてだった。ということは逆に俺も見られるのは初めてだ。
「脱がないの?」
問われて、はっと服の裾に手を掛けたがそれから先に進めない。
恥ずかしい。
よくよく考えてみれば俺はカカシ先生の前で自分から服を脱いだことがない。いつもキスして体に触れられて、気持ちよくなってるうちにいつの間にか脱がされてるから――・・・。
「イルカセンセ、手」
なんだろ?
いつもの癖で右手を出すと、そっちも、と。
両手を差し出してもじもじしていると、カカシ先生の手が服の裾を掴んで、一気に脱がされた。
「ぎゃ、わわっ、自分で!自分で脱ぎますっ」
「そう?じゃあ、先入ってますね」
ズボンを下ろされそうになって、慌てて言うと、あっさり手を離して風呂に入って行った。
「・・・・・・・」
やけにあっけない。
ぽつんと一人、脱衣所に立ち尽くす。
中からシャワーの水がタイルを叩く音がし始める。
意味も無くうろうろ。
緊張する。
ズボンのウエストに手を掛けたまま腹を確かめる。
過ぎるカカシ先生の腹筋。
(どことなく、もっさり・・・?)
いじけた。
逃げたい。
風呂なんて一人ずつでいいじゃないか。
「イルカセンセー?まだー?」
「はっ、はいっ」
逃げたら怒る。きっと怒る。でなくても呆れられる。
「・・・・・・・」
意を決して、一息に脱いだ。
考えてみたら、もし一緒に風呂に入ることがあれば前からやってみたいことがあった。
「・・・・・・・」
腰にタオルは巻いておいた。
がらっと風呂の扉を開けて、またいじけた。
頭からシャワーを浴びるカカシ先生の背中を流れ落ちる泡。
(俺が洗いたかったのに!)
ボディーシャンプーの匂いまでする。
(・・・面白くない)
外で自分がぐずぐずしていたことは棚に上げてむくれた。
おまけに一緒に入っても良いと思った名目まで失ってしまって、なんて声をかけていいのやら。
俯いてるカカシ先生は俺に気づかない。
(カカシ先生。俺はここにいるよ・・・)
水の流れる背中に訴えた。
「どうしたの?こっちおいで」
濡れた髪を後ろに撫で付けるようにかき上げ、顔を上げたカカシ先生が俺の手を引いた。気づいてくれたことに、ほっとする。
流れ落ちるお湯の下に立たされる。完全に髪が濡れる前に頭を括っていたゴムを解かれ、俯いた頬に髪が降ってきた。
カコンと後ろで音がしてシャワーが逸れたと思ったら頭からじゅわーっとお湯が流される。濡れた毛先の間からこっそりカカシ先生を伺うとそこは体を洗ってるうちに落ち着いたのか大人しくなっていた。
「・・・・て」
「え?・・・んぷっ・・んーっ」
顔を上げされられたと思ったら、いきなり顔面にお湯をかけられて顔を背けた。
「な・・に・・・?」
「ほら、こっち向いて。すぐ終わるから」
カカシ先生の指が頬に触れて擦る。
(顔を洗ってくれるつもりだったのか。)
「自分で――」
「だぁーめ。今日はぜーんぶオレがするの」
と、嬉しそうに。
手を伸ばしてもシャワーが遠ざけられる。
「息とめて」
満面の笑みで促されて。
観念して目を閉じた。息を止めるとお湯が降り注ぐ。頬を包むようにしてカカシ先生の親指が頬を擦る。
気持ち良い。
でも乾いた涙が水に戻り、カカシ先生の指の下でぬるぬるしている。
(やっぱり・・・・)
顎を引いて逃げるとシャワーが退いた。顔や瞼についた水滴を掌で拭われる。
「苦しかった?」
瞬間、じんと胸が疼いた。
息が、と聞かれているのはわかってる。でも思い出したのは、泣き出す前の――自分の無力さ。
苦しかった。
でも、今は――。
「大丈夫です」
だってこんなに近くにカカシ先生がいる。この先もまたあんな風に苦しくなることがあるかもしれないけど、きっとカカシ先生が隣で支えてくれる。
胸の疼きが熱に変わってじわっと広がる。
幸せだ。
すっごい幸せだ。
「カカシ先生、すき」
湧き上がる思いのまま告げた。
「なに言ってんの!今度はこっちに座って」
「あ、照れた」
目元を赤くしたカカシ先生が可笑しくてくすくす笑っていると、ぐっと頭を押さえつけられて椅子に座らされた。
「いつまで笑ってるの」
ざあっと頭からシャワーを浴びせられて笑いを引っ込めた。でも胸の奥からぽこぽこ笑いがこみ上げてくる。楽しかった。
「頭洗うよ」
「はい」
大人しく頭を下げてカカシ先生の手を待つ。
カカシ先生の長い指が髪を泡立てると掻き分け、頭皮を擦る。俺がしたかったことをカカシ先生がしてくれる。いつか俺もしてあげたい。
泡を洗い流すときゅっと水気を絞って一つに纏め上げられた。
「次は体ね」
後ろに廻ったカカシ先生がスポンジで背中を擦ってくれる。
「痛くない?」
「ん・・・もうちょっと強くしても大丈夫です」
ごしごしと背中を擦られながら溜息が漏れた。
「きもちいいー・・」
「そう?」
頷くと首筋もごしごし擦られ頭ががくがく揺れた。
なんかもうされるがまま。
腕をとられ、肩から手首、手の甲、平、指先と洗われながら、なんて贅沢な、と思った。スポンジが届かない指の間は手を使って洗ってくれる。
足も。つま先から始まって指の間を洗われるとくすぐったさに身を捩ると「じっとして」と窘められた。大人しくしていると足首、脛、膝と徐々に上がってくる。さすがに落ち着かなくなって、
「後は自分で――」
言いかけると、するっとタオルの下、腿に手が入り込んだ。
「あのっ」
「洗うだけだから」
「でもっ」
「洗うだけ。なにもしないから」
言い含めるように言われて何も言い返せなくなった。ここであんまり言うとカカシ先生を信用してないみたいで嫌だ。
(カカシ先生は洗ってくるだけだ)
自分に言い聞かせて、それでも体が反応してしまわないように身構えた。してる時、いつもカカシ先生が腿を撫で擦るからそこへの刺激に弱い。
腿の上をスポンジでごしごし擦り、外側を擦る。内側を洗われた時つま先がちょっと跳ねたがカカシ先生は気づかなかったみたいだ。そしてもう片方も。
するっとタオルの下から出て行く手に安堵の息を吐いた。
(よかった。ヘンな反応しないで)
考えてみたら当たり前だ。こんな狭いところで何をしようというのだ。
もしかしてカカシ先生・・・・と頭を過ぎっていたことに羞恥を覚えた。
『イルカセンセ、やらしー顔』
さっきカカシ先生に言われた言葉。
『やらしい。』
その通りだ。触れられるとすぐに期待してしまう。そうされるのが好きだから。求められるとひどく安心するから。
「ありがとうございました。後はもう――」
早く洗ってしまって風呂を出よう。何もここで――。
「うわっ」
いきなりひょいと膝裏を持ち上げられてバランスを崩した。咄嗟に手を伸ばしてカカシ先生にしがみ付く。
「なっ、なんですか!?」
「ん?裏っ側も洗おうと思って」
裏?腿の裏?
「いっ――」
――いいです。
そう言いたかった。膝なんか上げたらタオルの中が見えてしまう。そんな足を開いてみせるような格好になるなんてとんでもない。
「洗いにくいね。膝立ちになって」
(だから!)
「もっ・・カカっ・・・わっ」
カカシ先生にしがみ付いていたことが仇となった。体を引かれるとあっさり椅子から落ちて膝立ちの姿勢をとらされた。裸の胸が重なって心臓がばくばく跳ねた。
少し屈みこんだカカシ先生が腿の裏を洗う。
「・・・っ」
尻までごしごし洗われて息を詰めた。すごく恥ずかしい。耳や首筋、腕までが熱くなる。
(早く終われ・・・)
カカシ先生の肩に顎を乗せてぎゅっと目を閉じた。恥ずかしさに頭に血が上ってくらくらする。
「ゃっ・・・」
ぬるっと尻の間を指が滑った。腰を引いてカカシ先生の手から逃れようとすると腰を掴まれ戻された。
「カカシ先生っ、そこはっ」
「洗うだけだから」
静かな声でなんでもないことのように。
そんな風に言われると、大仰に反応した自分の方がおかしい気がしてくる。
(でもそこは気軽に人が触れていいところじゃないから俺の反応は間違って無い筈だけど、カカシ先生は体を洗ってるからそこも体の一部だから洗うのは当然のことで、でも俺はそこを触られると大変なことになるかもしれなくて、だから・・・だから・・・」
自分でも何を考えているのか分からなくなってきた。ゆるゆるそこを撫ぜられてるうちに思考が麻痺していく。ただ忘れちゃいけないのはこれはセックスの始まりじゃなくて洗ってくれてるだけだから・・・・。
(だから・・・・なんだ・・・?)
カカシ先生の指がそこで念入りに動く。泡でぬめった指が周辺でくるくる輪を描いていたかと思えば、襞をまるで弦でも弾くように爪先で引っ掻く。
そうしながらカカシ先生は互いの胸の間に隙間を作ってスポンジを滑らせた。
平たい胸の上をスポンジが辿る。
いや、平たくなんかない。
不規則な大きさの穴の開いたスポンジの表面で胸を擦られると穴に乳首が引っかかり、何度も小刻みに弾かれた。
「ふ、・・ぁ、・・・っ、・・・っ」
上がりそうになる声を必死で耐えた。
後口と胸。じりじりとむず痒くなるような刺激を両方から受け、体が焦れ始める。
(でも・・・洗ってくれてるだけだから・・・)
勝手に熱くなっていく体を戒めた。それでも息は上がっていく。
襞を撫ぜていた指の腹にぐっと力が入り窄まった中心を押してくる。それは後口を解かしてくれるのに似て。びりっと強い刺激が背筋を駆け上がり脳が痺れた。
(あっ・・・あっ・・・)
息を詰めても頭の中で上がる声までは抑えられない。
期待が膨らむ。
(このまま、入れて欲しい。)
だって中に入ったこの指がどれほど気持ちいいことをしてくれるのか知っている。
ゆらゆらと腰を揺らしたい衝動が湧き上がる。
(いれて。)
(いれて。)
体の奥で火が灯る。いや、火ならとっくについていた。居間で戯れるように触れ合ってた時から体に残った種火はカカシ先生という風が煽ってくれるのをずっと待っていた。
(はやく・・・っ)
だが、いつまで待っても指は入ってこない。それどころかするっとかわすようにように逸らすと、また周辺を撫でてくる。
(あっ・・・ちがうっ、・・・ちがうっ)
恨みがましい気持ちが胸を占める。
「か・・かし・・せん・・せ・・ぇ・・」
堪らず名前を呼べば、ちゅっと穏やかなキスを頬にくれた。
「やっ!」
欲しい刺激が貰えなくて、かっと頭に血が上った。
ぷいっと勢いよく顔を逸らしてから、はっとなる。
(洗ってくれてただけなのに・・・)
慌てて向き合えば、カカシ先生が眉を下げて困ったように笑う。
「ち・・ちがうんです・・・カカシ先生が・・・」
キスが嫌だったわけじゃない。俺が勝手に熱くなって、勝手に期待して、勝手に焦れて。それで欲しいものが貰えなくて八つ当たりしただけ。
カカシ先生は悪くない。なのにカカシ先生が哀しそうに笑う。
(ちがうのに・・・っ)
言葉にするのももどかしくて、すぐ目の前にあった唇に喰らいついた。
「イルっ・・」
吃驚して逃げようとするのを追いかけた。首の後ろに手を廻して逃げれなくすると、ぎゅうぎゅう唇を押しつける。そうしているうちに体の奥の火が燃え上がり、慰める筈が夢中で湿って柔らかい唇を食んでいた。
(ちょうだい、ちょうだい!)
もしかしたら声が漏れていたかもしれない。
「イルカっ」
短く名前を呼ぶと逃げていたカカシ先生が口吻けてくれた。
「ンっ、ん、んっ」
息も吐けない激しさに酩酊する。
「ああっ」
ぐっと中に入り込んできた指に体が歓喜で震えた。先ほどまでのまどろっこしさが嘘みたいに壁を強く擦り上げる。同時に前に絡んだ指に責められて意識が遠のいた。
「ヒッ、ア、あっ・・あ・・っ」
待ちわびた刺激にひっきりなしに口から喘ぎが漏れた。どぷんと熱い湯に浸けられたように体が火照る。
(熱い・・・。)
熱い・・・。
熱い――・・・。