いまさら(W.D編) 1
隣で気持ちよさそうに眠るカカシ先生の青白い顔を眺める。
カカシ先生と付き合いだしてそろそろ一ヶ月になろうというのに、未だこの状況に不思議な気持ちになる。
一体俺のどこがよかったのか。
体の関係は割りと早いうちに結んだ。
男と付き合うことが初めてで、どう接していいのか迷ってるうちにカカシ先生に美味しく頂かれた。ホントに美味しかったのかどうかは疑問だが、カカシ先生がそう言っていたのでそうなのだろうということにしておいた。
一人の時より温かい布団の中で現実離れした幸福に包まれ、眠ってる間に出来てしまった隙間を埋めるため、カカシ先生に擦り寄った。
「ん・・。もう起きたの?」
起こさないようにそっと動いたはずなのに。
うっすら目を開けたカカシ先生がすぐに俺を見つけて目を細めた。緩く上がった頬や優しく下がった目尻に、ぎゅうっと頬を押し付けたいような衝動が湧き上がる。でも朝からそんなことされても嬉しくないだろうから、大人しくカカシ先生の引き寄せる手に従って胸の中に納まった。
裸の胸におでこをくっつけて、くんと息を吸い込めば、昨日あれだけ汗を掻いていたのにカカシ先生からはちっとも汗の匂いがしない。それどころか肌はさらっとしていて、昨日の出来事が本当にあったことなのかと疑いたくなる。
俺の方はそうもいかない。
冷たくなった髪を温めるように撫ぜながら鼻先を埋めてくるカカシ先生から逃れるように首を竦めた。
だって汗臭い。体はべたべたするし、――今も・・。
ぴったりくっついたため心臓がドキドキして体からじんわりと汗が滲み出している。
(いやだな。)
こんなことならカカシ先生に見蕩れてないで、目が醒めた時すぐに風呂に入ればよかった。
なんで俺はこんなんなんだか。
出来れば匂いも味もない人間になりたかった。仮にも忍の端くれだから普通の人よりその辺はコントロール出来てる筈だが、気になって仕方が無い。
カカシ先生とは違ってすぐにじめっとしたり、匂いを発する自分の体が好きじゃない。恥しい。
そんなわけも無いのに「いい匂いだ」とか「おいしい」とか言われると穴に入りたい心地になる。
カカシ先生と付き合いだしてから気付かされた己の体質は、大いなコンプレックスとなったが、簡単に変えれるものでもなく――・・。
「んっ」
髪から離れて剥きだしの背中をなぞる手に体が跳ねた。
この体も。
カカシ先生の手の動きに勝手に反応を返す体も恥しくてたまらない。背中の傷跡を確かめるように指先で辿られると体がひくつく。
(そこは皮膚が薄くなってるから)
だから反応しやすいんだと自分に言い訳してみても、あ、と掠れた声が喉の奥から漏れるのを抑えることすら出来なくて、羞恥で体が火がつくように熱くなる。そうなるとますますカカシ先生の冷たい指先の動きを感じるハメになり、さらに息が上がる。
「ね、いーい?」
傷跡から下がって腰の辺りをなぞる手に、カカシ先生が何を望んでいるのか伺えた。
黙って頷けば更に手が下がり――その行き着く先を思い浮かべて、心臓がどくどくと高鳴った時、
「あぁっ」
予想を反して前を掴まれて一際大きな声が出た。
背中をなぞられて緩く勃ち上がったソコをぐにぐにと揉まれて、それに返事をするように一気に張り詰めた。
髪にカカシ先生の息が当たる。
(笑われたんじゃないだろうか・・?)
こんなに簡単に臨戦態勢になる俺はもしかして早い方なんじゃないかと気もそぞろになる。
(イくのだっていつも俺の方が先だし。)
同じ男としてカカシ先生はこんな俺をどう思っているのか・・・。
「んァっ、あっ、あっ」
急にぐにぐにと俺のを弄んでたカカシ先生が上下に擦りだした。根元から先端へ痺れるような快感が何度も走り抜けて一気に開放へと駆け上がりたくなる。
(イってしまうっ)
やめて、とカカシ先生の胸に頭を擦りつける様に振るがカカシ先生は止まらない。くちゅっと湿った音が立ち始めるとカカシ先生が先っぽを親指で押し出すようにしてもっと汁を溢れさせようとする。
(ダメ!!)
慌ててカカシ先生の手を掴んで引き剥がした。これ以上は耐えられない。イってしまう。そうなったらぐったりしてしまってカカシ先生と繋がれなくなってしまう。朝から何度もイかされるのはさすがに辛い。
「イルカセンセ?」
無理やり抑えた快楽にぶるぶる震える手でカカシ先生の手を掴んでいると不思議そうに名前を呼ばれた。
それもそうだろう。
カカシ先生の愛撫の手を拒んだ事なんて一度もない。
これが夜なら、今頃とっくに流されてる。
(でも今は――。)
息が多少落ち着いたのを見計らって体勢を変えた。カカシ先生を跨いで馬乗りに。布団に潜り込んだままカカシ先生の胸元から下へと下がっていく。下ろしたままの髪が脇腹をなぞるのがくすぐったいのか、カカシ先生の腹筋がぴくっと動いた。
「センセ?」
もう一度不思議そうに名前を呼んで、布団を捲ろうとするのを慌てて中から引っ張った。
見られるのは恥しい。
片手はぐうっと布団を掴んだまま、もう片方はカカシ先生のに手を添えると、大きく口を開けた。
***
「先生!飴ちょうだいね!」
元気よく催促されて、まかしとけと頭を撫ぜた。
思えばこの子がチョコをくれたから、カカシさんとの関係がある。
(奮発しよう)
贔屓はいけないがこれはお返しだ。
楽しみ!と跳ねるように教室を出て行く後姿を見送って教室の戸締りをした。職員室に戻るとカバンを手に早々に退出する。
あの子ほどでもないが明日の事を思えば心が跳ねた。
「明日の晩は一緒にいようね」
そう言い置いてカカシ先生は任務に発った。帰ってくるのは明日の晩。
今回は何も催促されなかったが明日はホワイトデーだ。そんな日に「一緒に」と言ってくれるのが酷く嬉しい。バレンタインデーに何も出来なかったから明日は何かしてあげたい。
大したものは出来ないがご馳走を作って、それから、それから――。
丁度夕飯の買い物時な為か、木の葉スーパーは人でごった返していた。タイムサービスの声と共に賑やかな音楽が掛かって、勢いが増した主婦の間を掻い潜って、野菜やら肉やらを手にした。
今日の食材よりも明日の食材。
かごの中にはカカシ先生の好きなナスや魚やら。
(・・・ほんと俺ってたいしたもん作れないよな)
それでもカカシ先生はおいしいと言ってくれる。残さず食べてくれる。
ごちそうさま。と言って貰えるとすごく幸せな気持ちになる。乾燥したとうもろこしがポップコーンになるみたいに、胸の中が溢れ出して止まない喜びでいっぱいになる。あまりに嬉しくなって叫びだしそうになったこともある。実際にそんなことをしたら、ご近所もカカシ先生も迷惑だろうからしなかったけど。
晩御飯の食材を選び終わるとお菓子コーナーに移った。そこにはホワイトデー用の飴やマシュマロやらが綺麗に包装されて並んでいた。その中から一番綺麗に思えたのを生徒用に選んでかごに入れる。それからゆっくりカカシ先生に贈るのを吟味する。
(なにがいいんだろう?)
バレンタインデーの時はチョコを催促されたからチョコが好きなんだろうか?それとも疲れを癒すのに飴?小腹が空いた時にクッキー?
(・・・そもそもホワイトデーって何を贈ればいいんだ?)
どれもピンと来ない。
(いっそのことクナイとかもっと実用的なものを送った方が喜ばれるんじゃ・・・)
そこまで考えて、ふと横に置かれたワゴンが目に付いた。
『手作りマシュマロセット(誰にでも簡単に作れます!)』
(これだ!!)
これしかないと袋を手に取りレジへと向った。
家に帰り着くと夕飯の用意もそこそこにマシュマロを作り始めた。どうせ今日はカカシ先生が帰ってこない。そうなるといつも気合を入れて作っていた夕飯がどうでもいいものになる。
(それよりも、こっち!)
ガサガサとセットの袋を開けて中身をテーブルの上に出した。新しいおもちゃを手にした子どものように気持ちがはしゃいで仕方が無い。説明書に書かれた手順どおりにことを勧め、卵白を泡立てながら、どう渡そうかと思いを巡らせる。
楽しい。
カカシ先生が家に来るようになって晩御飯を作るときも楽しかったけど、それ以上に。泡だて器がボウルの底を打つカッタ、カッタという音が更に楽しさを掻き立てる。
(まさかマシュマロ作る日がくるなんてな。)
人生何が起こるかわからない。
でも。
なんて、幸せ。
(どんな顔して受け取ってくれるだろう?)
想像しているとぶわーっと自分の中から優しい気持ちが湧いてきて、カカシ先生にいろんなことをしてあげたくなる。
カカシ先生にはいつも笑ってて欲しい。
カカシ先生の笑ってる顔を見ていると幸せな気持ちになる。
カカシ先生が笑って傍にいてくれるだけで俺は幸せだった。
途中、?なところもあったがなんとか形にして冷蔵庫に冷やした。
それから明日の晩御飯の下準備をして、漸く今日の晩御飯にありつけたのは夜の11時になってからだった。