(今日がダメなら明日でも…)
 そう考えていたら、ベッドの方からシクシク泣く声が聞こえた。カカシは背凭れに頬杖を突いて呆れ果てた。
「なに泣いてるの? 欲しいなら自分から来れば良いじゃない。オレはあげるって言ってるんだからサ」
 カカシは一歩も動くつもりはなかった。イルカはカカシを拒んだのだ。それでも欲しいと思うなら、自分から来るべきだ。
 いつもなら無理矢理にでも抱いてイルカを満たすが、今日はそんな気になれなかった。仲睦まじい紅達の姿を見たせいかもしれない。
 一向にやって来ないイルカに長期戦で構えるつもりで、本棚に向かうと指で背表紙を撫でた。適当に選んだ本を引き抜くと、カウチに戻ってページを開いた。本は前の住人の持ち物だから興味はない。
 ただイルカに、カカシから向かう意志がないと伝われば良いのだ。部屋の中にイルカの泣き声と、ページを捲る音だけが響く。
 やがて、意を決したイルカがベッドから下りて、カカシの前に立った。その顔は、自分の中から意志を削ぎ落としたように覇気がない。
「…カ、カカシ…」
「なに?」
 言わせようとすると、イルカの瞳に涙が盛り上がった。
 少しはどれだけカカシがイルカのプライドを傷付けないようにやって来たか思い知ればいい。
 そんな意地悪な気持ちが湧き上がるが、イルカがこれ以上譲歩しないのは、百年の間に学んでいたからカカシが折れた。
 寝そべっていたカウチから体を起こすと、足元を指差した。
「そこに跪いて舐めて」
 なにをとは言わなかったが、イルカの目の縁に堪っていた涙が零れ落ちた。
「欲しいなら、自分でオレを勃たせて飲んで」
 イルカにフェラをさせたことはないが、容赦なく言いつけると、立ち竦むイルカの目からぽろぽろ涙が零れた。どこにそんな水を溜め込んでいたんだと不思議になるぐらい、溢れ出して頬を濡らす。
(…構うもんか)
 込み上げる気まずい思いを一蹴した。嫌うなら嫌えばいい。今更だ。そんなことより今は、自分のモノを咥えるイルカの姿が見たかった。
 どうするんだ? とばかりに下から見上げると、ポキリと枝が折れるように膝を折ったイルカが、カカシの前に跪いた。
 足を広げてカウチに凭れると、イルカは震える手を膝の上に置いてバスローブの裾を開いた。露わになる下肢にイルカの震えは大きくなるが、止める気配は無かった。
 ぶるぶる震える手がカカシの中心を掴んだ。握る手に大した力は入らず、手付きも不器用で快楽にほど遠かったが、それでもカカシの鼓動は速くなった。
 イルカが握っている。――ただそれだけで体が熱くなる。
「ヘタクソだなぁ。そんなんじゃイけないよ。もう触るのはいいから、早く咥えて」
 たったこれだけの刺激で、勃ちそうになっているのを悟られたくなかった。乱暴に髪を掴んで引き寄せると、バランスを崩したイルカがカカシの足の間で両手を着いた。カカシのモノを前に、イルカは苦しげな呼吸を繰り返すと、ゆっくり唇を開いて赤い舌を覗かせた。
 イルカの顔が近づき、生温かい舌がカカシの中心に触れた。
 くっと弾みそうになる息を、呼吸を止める事で堪えた。ひた、ひた、とイルカの舌が触れる。手を添えてカカシのモノを持ち上げると、イルカは口を開いて招き入れた。熱い口内に包まれて、じゅっと先端から溶けていきそうな気がする。初めて入ったイルカの口は、温かくて柔らかくて、得も言われぬ快楽をカカシにもたらした。
 頭を掴んでガツガツと突き上げたい欲求に駆られるが、ジッと耐えて、イルカの遣り様に任せる。だが、イルカはやり方が分からないのか、ただカカシを咥えて待っていた。カカシの性器から白濁が飛び出すのを。
(…カワイイ)
「そんなんじゃイけないって。ちゃんと舌を動かしてよ」
 手を伸ばして頬に触れようとすると、イルカの顎に力が入った。噛み切りたいと言わんばかりに、反抗的な目でカカシを見つめる。イルカをカワイイと思った気持ちは一瞬で吹き飛んで、胸の底をふつふつと黒いものが焦がした。
「噛んでも良いけど、そんなことしたら二度と抱いてやらない。いいの? 困るのはアンタの方デショ。飢えて、見境無く人を襲いたいの?」
 イルカがもっとも言われたくない言葉をぶつけると、イルカの瞳に憎しみが浮かんだ。カカシの事が嫌いだと睨み付ける目は、黒く澄んで美しい。
(クソッ)
 込み上げる欲に、カカシはイルカに構わず腰を突き挿れた。噛み切りたければ、そうすればいい。想像を絶する痛みに襲われるだろうが、どうせ修復される。
「ぅんっ…んっ…んんっ…」
 喉の奥まで突き挿れる。イルカが苦しそうな声を上げて逃げようとしたが、頭を押さえて許さなかった。柔らかい内頬や舌の上に性器を擦りつけて快楽を追う。
 やがてカカシのモノが先走りを零すようになるとイルカが変わった。カカシのモノに舌を絡めて、ちゅうちゅう吸ってくる。先端を痛いほど吸われて腰を引こうとすると、イルカが縋った。
 もっと、もっと、とカカシを見上げる。空しさに襲われながら、カカシは自分を追い上げるために腰を早く振った。イルカの口の中で弾けさせると、すかさずイルカの喉がコクリと動いた。恍惚の表情を浮かべてカカシの精液を飲み干す。
 その頬に膨らみが戻るのを見て、カカシはイルカの手を引いた。
「おいで。まだ足りないデショ」
 ベッドへ突き飛ばすと、イルカは我に返ってカカシを見た。逃げたそうにするのを押さえつけて服を剥ぐと、性急に慣らして突き挿れた。
「あっ…あっ…あぅっ…あ…ンッ…」
 性欲だけが込み上げる。
 いつもより酷く抱いても、イルカは文句を言わなかった。


 翌朝、隣でシクシク泣くイルカに気付いて体を起こした。
「…うるさいなぁ。もっと静かに泣いてよ」
 好き勝手に跳ねまくる髪に手を入れて掻き回していると、パンッと頬が音を立てた。視界の端に飛んでくるイルカの手が見えていたけど避けなかった。
 普段ならここで叩き返してやるのだが、今朝はそんな気力がない。煩そうにベッドから抜け出すと、イルカの部屋を出て下に降りた。
 リビングに向かうと、どっかりとソファに腰掛けて頭を抱えた。胸の中がじくじくと膿み出す。そんな感情は百年前に捨てたと思っていたのに。



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