風呂の準備をするのは重労働だった。何も摂取していなかったことで、随分体力が落ちていた。
 気付けば、イルカが眠ってから三ヶ月が過ぎていた。
(三ヶ月も何も食べなかったなんて有り得ない…!)
 常なら飢餓状態に陥ってるところだった。今のところ、イルカが眠ったショックでなんとか持ちこたえているが…。
「…うーんっ…しょ!」
 カカシはイルカを持ち上げようとして、なかなか持ち上げられないでいた。いつもならこのぐらい何とも無いのに、腹が減りすぎて腕に力が入らなかった。棺桶の中で眠るイルカがビクともしない。
 もう一度、イルカの背と膝裏に通した腕に力を入れる。
「うーーんっ!」
 ぜいぜい息をしながら、今度はイルカの両腕を掴んで引っ張った。
「…っ、…っ、せいっ!」
 今度はなんとか起き上がらせることが出来たが、ぐでんとイルカの上半身が棺桶からはみ出ただけだった。
 こんなにしてもイルカはすやすや眠っている。
 カカシは起き上がったイルカの上半身に腕を回して持ち上げようとした。だけど、ここからがどうしても動かせない。
 イルカに抱き付いたままゼイゼイ息をしていると、イルカの匂いがして思わず牙が伸びた。まるまる太ったイルカが美味しそうだった。
(ハッ!)
 カカシはすぐに己の思考を訂正した。
「イルカは太ってなんかいない! オレが痩せてるだけだ!」
 涙がちょちょ切れそうな気がした。言い聞かせても、つやつやしたイルカを見ていると口の中に唾液が堪っていく。
(ちょっとだけ…。ちょっとだけ、良いかな…)
 イルカの首筋に牙を突き立てようとした。
(ダメダメ!)
 血が減ったことで、イルカにどんな変化が起こるか分からなかった。
 もし、目覚めるのが遅れたら…? 目覚めなくなったら…?
 そんなのは哀しすぎる。
 カカシはブンブンと首を横に振って、イルカから離れた。
「まずは食事しなくちゃ…!」
 苦心して出したイルカをもう一度棺桶の中に収めた。しっかり蓋を閉めて、窓の鍵を閉めると、部屋の鍵も閉めた。
 そして屋敷の鍵も閉めると、あまりやりたくは無かったが、コウモリに変身した。体力がなさ過ぎて、人型のまま人間を襲って反撃に遭ったら太刀打ち出来ないかもしれない。それに今のカカシの風体は怪しすぎた。映画に出てくるミイラそのものの姿をしていた。カカシに警戒心を抱かない人間はいないだろう。
 なるべく目立たないようにと思えば、この姿になるしかなかった。
 パタパタと不器用に羽を動かして屋根裏の小窓から外に出ると、森へ飛んでいった。
 目指す先は牧場だった。
 そこで放牧された牛の乳に小さな牙を立てた。
「ンモォ〜」
 気付いた牛がしっぽをパシりと鳴らしたが、腹の下のカカシまでは届かなかった。すぐに牙から出た麻酔が効いて大人しくなる。
 ちゅうちゅう吸って、腹が満ちる前に次の牛へ移った。吸いすぎると動物は死んでしまう。不用意なことをして、人間に原因を探られるのは避けなくてはならなかった。
 ふらふらしながら白い乳を目指す。あともう少しで届きそうになった時、バシッと体に衝撃が走った。
(あぅっ)
 しっぽで叩かれたらしかった。クルクルと小さな体が回って視界を失う。地面に打ち付けられて、転がっていると影が覆った。視線を向けると、牛の蹄が迫っていた。
(ぎゃーーっ!!)
 慌てて身を捩った。踏まれても死なないだろうが、背骨が砕ければ痛い。再生するにも、血が摂取出来なければ時間が掛かるだろう。
 かぎ爪の付いた羽で地面を這って逃げる。
 惨めだった。
 泣きそうになりながら、なんとか飛んで牛から逃げた。昼間に不器用に飛ぶコウモリの姿は目立った。
 それでも追い払おうとする牛のしっぽを躱しながら血を吸う内に、体に力が漲っていった。満足するまで吸うと、カカシは屋敷へ戻った。
(オレ、もう絶対腹を空かせたりしない!)
 カカシにはイルカを守る義務がある。よぼよぼの姿では果たせなかった。


 人の姿に戻ると、カカシは今まで通り若々しい青年の姿になった。颯爽と部屋に入って棺桶の蓋を開けるとイルカに頬擦りした。
「イルカ、お待たーせ」
 久しぶりに力が満ちてご機嫌だった。イルカの世話が出来るのも嬉しかった。今度は軽々とイルカを抱き上げて、ベッドに運んだ。そこで辛うじて腕に引っ掛かっていたシャツを脱がせた。
「…イルカ、お風呂に入る為だからね?エッチなことする為じゃないよ?」
 答えが無くても話し掛けずにはいられなかった。どことなく後ろめたい気持ちがあったから。
 眠ってるイルカに勝手して、起きた時に怒られないだろうか?
 そんな不安もある。でも、イルカを綺麗にしてあげたい気持ちは本当だった。
 起きている時、イルカは風呂好きだった。
(イルカの為にする事だ。イルカが怒る筈ない)
 そう結論付けて、イルカのパンツを脱がせた。
 久しぶりに見る、イルカの茂みと横たわる性器。
「…うっ」
 かあっと頭に血が上って、股間が硬くなった。思わず鼻血が出ていないか確かめた。
「イルカ…、ゴメン!」
 罪の意識が込み上げる。カカシは眠るイルカに欲情していた。痛いほど股間が張り詰める。
 意味も無く、その場で二度三度跳ねてみた。
 それで勃起が収まるワケもなく、カカシは股間を押さえて足踏みした。
(ヌきたい…。でも…。ヤリたい…っ、でも…!!)
 葛藤の末、カカシは我慢しきれずベルトを緩めた。ベッドの上に跪くと、イルカの股間を見ながら自分を慰めた。
 手を動かす度に甘美が快楽が湧き上がる。
「…っ、イルカ…、…ぁっ…っっ!!」
 あっと言う間に駆け上がってシーツを汚した。体を貫いた快楽は気持ち良かったが、それが引いていくとポタポタと涙が溢れた。
「…ゴメンなさい。イルカ…」
 罪悪感で胸がいっぱいになる。これではイルカを陵辱しているのと変わりなかった。
(イルカがダイスキなのに…)
 だけど眠り続けるイルカと違って、カカシは生きていた。体から湧き上がる欲求を抑えることは出来なかった。


text top
top