屋敷に戻ると階段を下りた所にイルカがいた。カカシを見るとソワソワして、何か言いたそうにする。普段より和らいだ表情を見て、急にカカシは疲れを覚えた。
イルカにあげようと思ったバラは無いし、鉢植えも割れている。結局無事だったのは、ナルトから受け取ったジャムだけだ。
「…コレ、ナルトから」
カカシが声を掛けると、イルカは飛ぶようにやって来た。嬉しそうに小瓶を受け取ると、大切に両手で包み込む。
「あの、ナルト達元気にしてました? 何か言ってませんでしたか?」
「別に」
そっけなく答えるが、最初から答えを期待していなかったのか、イルカは気にした様子もなくカカシの持つ袋に目を留めた。破れた袋から、緑の葉と小さな蕾が顔を出していた。
「あの…そっちは…?」
「サスケに押し付けられただけ。持って帰る途中に鉢が割れたから、もう捨てる」
「だったら俺にください! 大事にしますから」
「あ…、ウン…」
壊れた鉢を嬉しそうに抱えると、イルカは中庭に出て行った。あれをカカシからだと言えば、同じ顔を見せただろうか。答えは考えるまでもなくて、カカシは次第に不快になっていった。
イルカに言われて、いそいそ街へ行った自分がバカみたいだった。どうせ、自分ではイルカを喜ばせることは出来ないのに。
それにイルカ自信にも腹が立った。のこのこ部屋から出てきて、警戒心が緩んでいる。
(こんなときに紅に襲われでもしたら…)
ハッとして、カカシは外に出た。この瞬間にでも紅が、どこからかイルカを見ているんじゃないかと気が気でなくなった。
「イルカ、中に入れ」
しゃがみ込んだイルカの肩に手を掛けると、振り向いたイルカは頬を土で汚し、割れた鉢の欠片をバラの根から取り除いていた。カカシの剣幕に怪訝な顔をし、ぎこちない笑みを作った。
「あの、これを植え替えたらすぐに入りますから――」
イルカがすべてを言い切る前に、カカシはミニバラの茎を掴んで遠くへ放り投げた。ぽかん、とそれを見ていたイルカの顔が怒りの形相に代わり、拳を振り上げた。
「なにするんですか!」
向かってきた拳を避けて腕を掴むと、引き摺って玄関に向かった。
「ウルサいよ。オレが入れって言ってんだから、さっさと入りな」
「嫌だ! 離せっ」
抗うイルカの力は弱く、やはり体液を吸収していない分、弱っているのを感じた。
「離せっ、離せっ」
屋敷の中に入ると、イルカはカカシの腕を振り払って階段へと駆けて行った。一目散に自分の部屋へ走ると、扉を閉める前に、「カカシなんか嫌いだ!」と叫び、大きな音を立てて扉を閉めた。
ふつふつと怒りで血が滾る。カカシはイルカの後を追って階段を上がると、自室に入って小箱と紐を手に取った。そしてイルカの部屋に向かい、鍵の掛かっていたドアを蹴破った。
ベッドに俯せていたイルカが吃驚して起き上がる。無理矢理入ってきたカカシに枕を投げつけると、ベッドを飛び降りて部屋の奥へ逃げようとした。
枕を払い落とし、その後ろ髪を掴んでベッドへ引き戻すと、イルカが苦痛の声を上げた。
「いつっ…うぅ…」
頭を押さえて苦痛から逃れようとするイルカの手を掴むと、もう片方の手と一緒に纏めてベッドヘッドに結びつけた。
俯せにすると、カカシの意図を悟ったイルカが足蹴りを繰り出して来たが、難なく避けると、足が下ろされたタイミングで下着ごとズボンを引き下ろした。
「いやだっ!」
膝まで下げて、股の部分を膝で踏みつけるとイルカは動けなくなった。
「今俺を抱いたら殺しますよ! 絶対ですから!」
「あっそ。出来るもんならどーぞ」
これ見よがしに小箱を開けると一つ千切って、残りをイルカの目の前に投げ捨てた。イルカの目が大きく見開かれる。激しく暴れようとするイルカを尻目に、カカシはズボンを下ろして萎えた性器を数回扱いた。
「いやだっ、嫌! やめてくださいっ!」
――イルカが憎い。
あまりの嫌がりように、やはりカカシに抱かれていたのは体液を貰うためだったのかと実感した。
(タダでは抱かれたくないってワケ?)
涙声になるイルカを無視して袋を破くと、中の液体をイルカの後口へ落とした。袋から何も落ちなくなると、コンドームを取り出し装着した。おざなりに濡れたイルカの後口を慣らして先端を宛がった。
「いやだーっ! あぁっ…」
ぐっと腰を沈めると、イルカが苦痛に呻いた。正気のイルカの体は硬く、カカシを受け入れようとしない。
「いたい…、抜いて…っ、ひっ…あ…っ」
それでも無理に突き進むと、イルカの後口が裂けて甘い匂いが広がった。太股に伝わる赤い血を、カカシは指先で掬うと口に含んだ。
久しぶりに飲んだイルカの血は、今まで飲んだ誰の血よりも甘く芳醇だった。喉を落ちていく血に体が熱くなる。
(もっと…)
欲しいと思うと、吸血鬼の本能が目覚めて残酷な気持ちになった。泣くイルカの声が、それを増強させる。
根元まで熱を押し込むと、カカシはイルカの背に覆い被さった。乱れる黒髪を掻き分けて首筋を露わにすると、伸びて尖った歯をイルカの首筋に当てる。歯を突き立てる瞬間、イルカが捕らわれた兎のようにビクビクと震えた。その姿は哀れだったが、ますますカカシを凶暴にさせた。
柔らかい首筋に歯を埋めると、温かな血が溢れ出してきた。
(オレのだ!)
コクコクとイルカの血を飲み干して、カカシの中から溢れ出したのは歓喜だった。
絶対の支配力。
イルカを征服したと、喜びで狂いそうになる。気が付けば、カカシは腰をガツガツと振っていた。イルカの中が傷付くのも構わず快楽を追い続けた。
やがて波は高まり、カカシはイルカの中で射精した。だが精液はゴムの中に留まり、イルカに吸収されることは無かった。
血まみれの後口から性器を引き抜くと、ゴムを付け替える。再びイルカの中に入るまでの間、イルカはピクリとも動かなかった。ただハラハラと涙を零して遠くを見ていた。
そんなイルカを見てもカカシは何も感じなかった。感じるのは快楽と征服感だけだった。
狂乱の時が過ぎて、はっと我に返ると辺りは惨憺たる状態だった。イルカはカカシが付けた傷で血に塗れ、未だにじくじくと血を流していた。シーツは赤く染まり、イルカの流した血の多さを物語っていた。
(イルカ…、イルカ…)
カカシはイルカに声を掛ける事すら出来なかった。イルカの目は開いているものの、抜け殻になったように虚ろで、何も映してはいなかった。
そうしたのはカカシで、カカシがイルカを壊した。
激しい後悔にカカシは打ち拉がれた。急いでイルカの傷の一つ一つに舌を這わせて治していくが、イルカは全くの無反応だった。イルカが快楽を感じて射精した様子もない。もっともカカシはイルカの快楽など考えず、己の快楽に没頭しただけだったが。
すべての傷を癒やし終えたカカシは、頬に張り付いたイルカの髪を掬って後ろに撫で付けた。
「……イルカ…」
噛み締めたのだろう。血の滲むイルカの唇に触れると、突如イルカがカカシの手に噛み付いた。尖った歯がカカシの手に刺さる。
(仕返しのつもり…?)
それでもいい。カカシは自分の血をすべて吸ってボロボロにして欲しかった。だけどイルカはカカシの血を飲まず、流れる血はシーツに吸い込まれた。
数週間栄養を取っていない上にカカシに乱暴されて、相当飢えている筈なのに…。
「…そんなにオレのことキライ?」
イルカは答えなかったが、肯定するように顎に力を入れた。
カカシの全身からどっと力が抜け落ちる。絶望で、今すぐこの世から消えてしまいたかった。
(オレは全くの無力だ)
少しだけ、紅の気持ちが分かった気がした。
しばらくすると、イルカはカカシの手を噛んだまま眠りに落ちた。そっと顎を開いて手を外させると、カカシは自分の指先を噛み切って、イルカの口に含ませた。
意識の無くなったイルカは、カカシの指にちゅうちゅう吸い付いた。そんな様を見て、カカシの目からぽた、と涙が落ちた。
(もう、引き返せない…)
取り返しの付かない事をしてしまったと分かっていたが、それより、どうして? と思う気持ちの方が強かった。
(どうしてオレのことを受け入れてくれないの? どうしてそんなにオレを嫌うの? ……まだ、オレのこと怒ってるの?)
イルカがカカシの指を吸う度に思い出すのは最初の出会いだ。飢えて気を失ったイルカに指を吸わせた。そして、イルカが吸血鬼だと確信を持ったカカシは、自分の血を吸わせて吸血鬼になった。
大量の血を吸われて気を失い、目が覚めた時、イルカは傍にいて泣いていた。ごめんなさい、ごめんなさい、と繰り返し、アナタの血を吸ってしまったと、それこそ干涸らびるほど泣いて詫び続けた。
だから、オレは言ったのだ。
『気にする事はないよ。オレはなりたくてなったから』と。
イルカは最初、オレが言った事を理解出来ないみたいだった。だから経緯を説明して、自分で手を切ってイルカの口に血を入れた事を伝えた。
すると、イルカは豹変にした。なんてことをしてくれたんだとカカシを罵り、憎んだ。以来、イルカとは険悪なままだ。イルカはカカシを許さず、百年間、カカシはイルカに嫌われ続けている。
(どうしたら、許してくれるの…? それとも、いつ…?)
あまりにも長い年月が流れすぎて、カカシはどうしたらいいのか解らなかった。
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