春一番 7



「なんで・・?」

 任務だろうか?
 髪の色を変え、抱えた麦で顔のほとんどを隠してるから他の人は気付かないだろうけど、俺には分かった。カカシさんだって。

「うわぁ」

 急に何故だかすごく照れくさくなった。ポスターの中のカカシさんはカッコよくて心臓がどきどきする。

「あ、そうだ、CM!」

 テレビを点けて青麦ビールのCMを探す。チャンネルを変えながら、初めてCMを見た時にドキドキした訳に気付いた。

「カカシさんだったからだ・・」

 まさかテレビ画面の中にいるなんて想像もしなかったから、あの人がカカシさんだとは思いもよらなかった。カカシさん以外の人にどきどきして、もしかして俺は自分でも気づかないうちに浮気性なのかと心配してしまった。よくよく考えたら男を好きになったのは後にも先にもカカシさんだけなんだけど。
 はあーっと胸を撫で下ろしてCMを探し続ける。だけど時間帯が悪いのか、なかなかあのCMはやってなかった。
 麦畑の中にいたカカシさんを思い出す。
 その時ふと、胸の中がざわりと動いた。

『私もあんな風にぎゅっとされてみたーい』

 たしか、よつば先生はそう言っていなかったか?

「・・ぎゅっ?」

 途端に心穏やかではいられなくなって、ムキになってCMを探した。

(ぎゅってなんだ、ぎゅって。)

 もしかして、女の人を抱いたのだろうか?カカシさんが・・?

 想像するとものすごく嫌な気持ちになった。悔しくて哀しくて涙が出てくる。これが任務なら俺が口を出すことじゃないが。
 そもそもCMで流れるようなものをどうして俺に教えてくれなかったのだろう。大体いつも顔を隠してるのに、なんでテレビで晒したりするんだ。

 絶対、綺麗な人に違いない。

 そんな確信が俺にカカシさんを責めさせた。仕事でもなんでも俺はカカシさんが女の人に触れるのはすごく嫌だった。すごくなんて生ぬるい。ものすごく、途轍もなく、最大級に、



 嫌だ!!



「うぅ〜〜っ・・ずずっ」

 鼻を啜りながらチャンネルを変えていると、麦畑が流れた。

「あっ」

 手を止めて画面を食い入るように見つめる。

 ちょうどカメラがカカシさんに迫って行くところだった。

 カカシさんの手が麦を撫ぜる。
 背中に寄ったカメラがカカシさんの肩と首筋を映し出した。

「やらしい撮り方するな!」

 ムカムカしながら次のシーンを待った。女の人はいつ出てくるんだ。

 だけど。

 この後は、腕いっぱいに麦を抱えたカカシさんがそこに顔を埋めて、ふうわり笑うだけだった。ポスターはこのシーンから作ったのだろう。
 最後はカカシさんが消えて、グラスに注がれるビールの向こうに麦畑が広がっていていた。

「・・・なんだ」

 『ぎゅっ』としたのは麦だった。
 ほっとして涙を拭った。リモコンを押してその後に流れた賑やかなCMを消す。

「・・・・・・・・・・」

 だけど気持ちが沈んで、ポスターを片付けると布団に潜り込んだ。 


 カカシさんって、何にでもあんな風に笑いかけるんだ。





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