春 6





夜中にぽかんと目が覚めた。
 寝てからそんなに経ってない。寝る前に喉が渇いてお茶をたくさん飲んだのがいけなかったのか。
 そのまま目を閉じていたがなかなか寝付けない。テレビでも見ようかと布団を抜け出そうとして――腹に廻った手に引き止められた。


 カカシさんの手。


 起きてる訳じゃない。カカシさんは本当に寝ている。
 引き寄せるでも抱きしめるでもないこの手は俺がベッドから落っこちないように置かれている。



 任務で疲れたカカシさんがこの部屋に泊まってから、カカシさんは時々この部屋に泊まっていく。
 別にそれは構わない。
 夜遅くなって帰るのが面倒になることなんてよくあることだ。
 ただ問題なのはこの部屋には寝具が一つしかない。
 よってこのベッドを二人で分け合うことになるのだが、男と同衾というのは不味い。
 だからベッドに真ん中に境界線を決めて、右側がカカシさん、左側が俺ということにした。
 それで無事問題解決!と思ったら、そうでもなかった。
 元が狭いベッド。デカイ男二人には狭すぎた。やけに冷えるなと思ったら俺だけベッドの下に落ちていた。
 それからだ。
 知らないうちに手が置かれるようになったのは。
 カカシさんが先に寝た日でも、夜中にふと目を覚ますと腹が温かい。



 これ以上体を動かすとカカシさんを起こしてしまいそうだったのでテレビは諦めた。
 暗い部屋をぼぅっと眺めながら眠りが訪れるのを待つ。目だけ動かしてカイを探すとちゃんとタオルを詰めた箱の中にいた。
 不思議な人だと思う。
 どうしてこんなによくしてくれるのか。
 好きだと言われた。
 付き合ってくれとも。
 俺はそのどちらにも首を横に振った。はっきりと。
 それでもカカシさんは傍にいる。
 最近は付き合ってと言われることはなくなったが、好きだとは言ってくる。だがそれは最初の頃のような重い感じではなく冗談のように軽く。好きだと言って返事を求めるようなものでなかったので、いつでも聞き流した。
 カカシさんは何も言わない。
 カカシさんはそのことをどう思っているのだろう。
 もう友達みたいに思ってくれてるだろうか。
 そうだったらいい。
 今のまま。
 関係を突き詰めて今の状況が壊れるのは嫌だ。
 カカシさんと一緒にいるのは楽しい。
 でもそれは友達だから。
 互いになんの権限もなく責任もない。
 そんな気軽な関係だから一緒にいられる。
 いつまでもこのままで。
 そう願うのは勝手なのだろうか。



 カカシさんが身じろいだ。
 寝返りかなと思ったら、ちょっと動いて――また静かな寝息を立てる。


 疲れないのかな。
 一晩中ずっと同じ体勢で。


 そう思っても腕を掴むとカカシさんは起きてしまうので触れない。
 すぅ、すぅと規則正しい寝息が聞こえる。
 脇にかかる僅かな重み。
 次第に瞼が重くなる。


 どうかずっと――・・・。


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