絶対言わない 9
「腹減った!」
これもカカシのせいとばかりに叫んだ。
カカシの体を拭いて包帯も巻き終えると、時計の針はとっくにお昼を過ぎていた。
アンダーに袖を通し襟ぐりからすぽっと顔を出したカカシは口を尖らせた俺を見て笑った。
「ごめーんネ。いいよ、奢るから外に行こ」
「やったー!・・でも外はいいや。食堂に行こ」
外に出て、万が一カカシに何かあったら怖い。
そんな思いから提案すると今度はカカシが口を尖らせた。
「え〜、病院のご飯はやだよ。あっ、そうだ、出前にしよう!イルカ、牛牛屋のサンドイッチ食べたことある?」
「牛牛屋!?」
「うん」
牛牛屋のサンドイッチと言えば、ものすごーく分厚い肉がパンの間に挟まっているやつだ。
美味しいと評判だが、値段が高くてとても一般中忍の口に入る代物じゃあなかった。
「ない!」
思わずカカシの服を掴むと、カカシはにこーっと笑った。
「じゃあ決定!天気が良いから庭で食べよう?」
とにかく外に出たがるカカシに首を傾げたが、確かに消毒薬の強く香る病室では食欲が沸かない。
「でも出前なんてやってたっけ・・・?」
「だーいじょぶだよ」
カカシはサイドテーブルにあった紙に何かを書き綴ってへのへのもへじを書くと、それを白い鳥に変えて窓から放った。
小さくなっていく鳥を見送って、カカシを車椅子の乗せて中庭に出た。
座り心地の良さそうな芝生に腰を下ろして、鳥が帰ってくるのを待って日向ぼっこする。
ぽかぽかとお日様に当たっていると、足にビニール袋をぶら下げた鳥が戻ってきた。
カカシが袋を受け取ると鳥は煙になって消えた。
がさがさ袋を開けると、カカシは俺の掌に紙の弁当箱を乗せた。
温かさが手に伝わり、肉とソースの香ばしい香りが辺りに広がる。
弁当のふたを開けて歓声を上げた。
「うわぁ〜っ、肉だ!肉!」
パンの間に挟まれたミディアムレアに焼けた肉にだらっと口の中に涎が溜まった。
「たーんと召し上がれ」
「いただきます!」
一切れ取って大口を開けて被りつく。
じゅわーっと口の中に広がる肉汁に涙が出そうになった。
「お、おいひい・・」
「わかったから。ゆっくり食べよーね」
コーヒーの入った紙コップを差し出しながらカカシが言った。
ニコニコ笑うカカシの膝の上にも弁当箱がある。
「カカシ・・、お昼食べてなかったの?」
「うん。なんか騒いでるうちに食べ損ねちゃったみたい」
ははっと笑ってごまかすカカシに呆れた視線を送る。
一体、いつから騒いでたんだ?
だけどそれはお肉を前に霞んで消えてしまった。
それにしてもうまい。
二切れ目に被りついてもぎゅもぎゅ口を動かす。
こんな分厚い肉の塊を食べたのは初めてだった。
幸せだ。
肉は旨いし、天気はいいし、カカシは傍にいるし。
向かい合って外でお弁当を食べているとまるでデートしてるみたいだった。
自分の浮かれた思考に顔が熱くなる。
「イルカ、口の端にソース付いてるよ」
「え?」
舌を伸ばして拭おうとすると、
「違う、こっち」
カカシの指が先に伸びて唇の端に触れた。
ぐいっと拭うカカシの指先にソースが移る。
その指をカカシが舐めたのを見て、カーッと体が火照った。
何事も無かったみたいにカカシは食事を続ける。
だけど俺は心臓がドキドキして平常心ではいられなくなった。
そんな風にされるとカカシの特別になった気がして期待してしまう。
もしかしたら、告白してもこんな風に付き合っていけるんじゃないかと思って、湧き上がる衝動を抑えきれなくなった。
「カ、カカシ・・!あの、お、俺・・!」
その時カカシ越しに、病院の階段にいる人を見つけた。
息が止まって、何も言えなくなる。
花を手に、上の階へと上っていこうとしている人は先日カカシの病室に来たあの女の人だった。
「どうしたの?」
不審を浮かべたカカシが俺の視線を追って後ろを振り返ろうとする。
嫌だ、見せたくない!
「カカシ!」
名を呼んで気を引くとカカシの弁当を指差した。
「そのポテトちょうだい」
「え?あ、うん。ほんとだ、イルカのと違うのが入ってるね」
俺の思惑に気づかないカカシは笑みを浮かべて弁当を差し出した。
それを見て泣きそうになる。
「イルカのもちょーだい」
「う、うん」
カカシの笑顔を正面から受け止められなくなって俯いた。
俺は彼女が来ていることを教えることも出来たのに、故意にそうしなかった。
自分の心の醜さに辛くなる。
浮かび上がろうとする涙を必死に隠した。
泣いたらカカシにヘンに思われる。
原因を知ったカカシは彼女に会いに行くかもしれない。
そんな想いが絡まって頭も心もぐちゃぐちゃになる。
それでもカカシを引き止めたくて、味の分からなくなったサンドイッチをもそもそ食べ続けた。