絶対言わない 7
いつもは閉まっている病室のドアが開いていて、不思議に思いながら中を覗くと看護婦さんが来ていた。
カカシが体温計を差し出し、それを受け取った看護婦さんが手にした紙に書き込んでいる。
「あっ、イルカ!おはよー」
「おはよう」
カカシの声に看護婦さんが振り返った。
清楚な感じのする綺麗な人だった。
「おはようございます」
にこやかに挨拶されて緊張する。
「お、おはようございます」
ぎこちなく挨拶を返すと、くすりと笑われてしまった。
かあっと頬が熱くなる。
俺は女兄弟がいないばかりか、かあちゃんにまで早くに死なれて女の人に対する免疫が少ない。
それでこんな時、どう対処していいのか思いつかなくて困った。
早くカカシの傍に行ってしまいたい。
入り口のあたりでもじもじしているとカカシが俺を呼んだ。
「イルカ、お腹空いた!」
「あ、うん」
足早にカカシの傍に寄ると看護婦さんとはベッドの反対側に回った。
いそいそとカバンから弁当を取り出す。
だけどカカシに渡そうとして、はっとした。
「あの・・、病院のご飯以外に食べさせても大丈夫ですか・・?」
ぐいぐい弁当箱をひっぱるカカシの手から弁当を遠ざける。
お預けされて、「あーっ」っと両手を伸ばしたカカシに看護婦さんが笑みを零した。
「ええ、いいですよ。はたけ上忍に食事制限は出てませんから。しっかり食べて体力をつけてください」
「良かった」
許可がもらえた事と、カカシの容態の良さが窺えてほっとする。
弁当を近づけると奪い取られた。
「それでははたけ上忍、後で包帯を代えにきますから」
食べることに夢中で聞いてないカカシの代わりに頷いて、看護婦さんを見送った。
「・・イルカって、ああいうのが好みなの?」
「なっ、なに言ってんだよ、そんな訳ないだろ」
さっきまで弁当に気を取られていたくせに、いきなりそんなことを聞いてくるカカシに面食らって動揺した。
「ふぅーん?」
「なんだよ・・」
「じゃあさ、どんなのが好みなの?」
疑り深い目で見られて居心地が悪くなる。
どんなのって・・・。
カカシの顔を見ているうちにかあーっと顔が火照った。
さっきの比じゃない。
肩や背中まで熱くなって汗が吹き出る。
「ど、ど、ど、どんなのだっていいだろ!」
追求されたくなくてぶっきら棒に答えると、カカシが口を尖らせた。
明らかに不機嫌ですと顔に書いて弁当を頬張る。
無口になったカカシに困って病室を出ようとすると、カカシが焦った声を出した。
「えっ、ウソ、帰っちゃうの?まだいいデショ?もうちょっと居てよ」
懇願する声音に気持ちが綻ぶ。
「帰らないよ。お茶入れてこようと思って・・」
「なんだ・・、そっか。・・・待ってる」
「うん」
照れたようにごにょごにょ言うカカシにくすぐったくなって、笑って病室を出た。
カカシって可愛い。
空になった弁当箱をカバンにしまって、束の間の時間をカカシと過ごした。
窓を開けると心地よい風が入って気持ち良い。
改めてカカシを見ると顔色も良くて、怪我の回復も順調なのが窺えた。
「まだ痛む?」
「ううん、そんなことないよ。化膿しなかったし。イルカは?傷治った?」
「あ、俺のは大した傷じゃなかったし・・」
指の傷を指摘されて苦い気持ちが過ぎった。
忘れていたかったのに・・。
・・・あの人はあれからこの病室に来たんだろうか?
「・・カカシ、この前の・・」
「ん?」
「・・いいや、・・そろそろ行くね」
「えっ、なに・・、もう?まだ時間あるデショ?」
「う・・ん、その代わり今日は午前中だけだからまた午後に来るよ」
「ホントに?約束だよ?」
「うん、わかった。じゃあ・・、・・・いってきます」
「いってらっしゃい!」
元気いっぱいに見送られて、照れながら病室を後にした。
そして午前の授業を終えた頃、一旦家に帰ってまたお弁当を持っていこうかな、とのんびり考えていたら血相を変えたパックンがやって来た。
「イルカ、大変じゃ。今すぐ病院へ来てくれ」