絶対言わない 6


昼食は外に出て済ませた。
時間があったからカカシのところに寄ろうかなと思ったけど、朝寄ったばかりであまり頻繁に訪れると嫌がられるかもしれないと思うと行けなかった。
かわりに木の葉スーパーに寄って、お弁当箱を買った。
ステンレスで出来ていて、お箸もちゃんと付いているやつ。
ぴかぴかの表面にカカシの顔を思い浮かべて、気持ちが弾んだ。
放課後、一旦家に帰ると玉子焼きを焼いた。
それから鮭も焼いて、ポテトサラダも作った。
ご飯は朝の残りを焼き飯にして、買ったばかりの弁当箱に詰めるとカカシの病室に急いだ。
すぐに持っていけば温かいのを食べてもらえる。
弁当のフタを開けて喜ぶカカシの顔を思い浮かべながら、病室のドアを開けた。

「カカシ!」

俺を見て笑顔になったカカシの傍に寄ろうとして、匂って来た甘い香りに嫌な緊張で足が竦んだ。
咄嗟に昨日の女の人を思い浮かべた。
そろっと病室を見渡して、――誰も居ない。

「どうしたの?」
「ううん」

なんでもないと首を横に振ってカカシに近づいた。
すぐに匂いの正体に気付いた。
花が活けてある。
朝には無かった花がカカシの傍で咲いていた。
他にもお菓子や果物が増えている。

誰か来たんだ・・。

そう思うと胸の奥がざわりとした。
また昨日の女の人が思い浮かんだが、違う人かもしれない。
カカシはモテるから、たくさんの人がお見舞いに来るだろう。
きっと、カカシに見合う綺麗な人も――。

「ねぇ、イイ匂いがする」
「うん・・。お花・・良い匂いだな」
「違うよ。こっちから」

カバンの肩紐を引っ張られて我に返った。
期待するようにカカシが俺を見上げている。

「あ、お弁当作ってきた」
「ホントに?やったーっ!」

はしゃぐカカシの膝にお弁当を乗せた。
引きずられるように俺まで嬉しくなる。

「テーブル出す?」
「いいよ、持って食べるから」
「じゃあ、お茶淹れる」
「うん」

いそいそと包みを開くカカシに気持ちが和らいだ。
少なくともカカシの関心は今、俺にある。

「おいしそ〜!」

思い浮かべた通りの笑顔が嬉しくて、束の間他の人のことは忘れることにした。

「いただきま〜す」
「はい、召し上がれ」

ぱくぱくすごい勢いで食べだすカカシに呆気に取られた。

「カカシ・・、ちゃんとお昼食べたか?」
「うん、イルカのお弁当食べた。あっ、忘れてったから食べちゃったんだよ?取りに来るかなーって待ってたけど、来ないから」
「・・待ってたんだ」
「うん」

当たり前のように頷いたカカシに気分が上昇した。

カカシは俺が思ってるよりも、俺の事を受け入れてくれてるのかもしれない。
そんな気がして嬉しくなった。
そして欲も出た。

もっと、カカシの傍に寄りたい。

だけどその願いに道行きは無く、どこへも向かう事は無い。
ただ胸の内にひっそりと仕舞い込んで、知られないように覆い隠すしか俺は術を知らない。

「ごちそうさまでした!」

だからぱちんと手を合わせたカカシから朝の分と一緒に弁当を受け取りカバンに仕舞うと何もすることが無くなって、まだ帰りたくないのに帰らないとけないような気がして落ち着かなくなった。
そんな俺にカカシはすぐに気付いて眉を寄せた。

「イルカ、そわそわしてる?用事でもあるの?」
「ううん、ないよ」
「そう・・?あ、そだ、これ食べない?ガイが持ってきたの。美味しいんだって。・・ガイって覚えてる?前に会ったデショ?おかっぱみたいな頭した暑苦しいヤツ。それとね、こっちはアスマが持ってきたの。ホラ、髭のヤツ。でね、こっちは後輩にテンゾウってのがいて・・」

急に饒舌になったカカシの話に相槌を打つ。
一緒になって包装紙を剥がしながら、出てくる名前が男ばかりなのに安心した。
だけど俺が知りたかったのは花の贈り主だ。
カカシへのお見舞いを頬張りながら、今か今かと待った。
だけどその名前はカカシの口から出てこない。
それが返って俺を不安にさせた。

「おいしい?」
「うん」
「こっちも食べて」
「うん」
「たくさんあるから持って帰っていいからね」
「うん」
「・・・・イルカ、明日も来てくれる?」
「もちろん、お弁当持ってこないといけないから」
「・・・そう、楽しみにしてるね!」
「うん・・」

そんなことより。
早く花の贈り主を言って欲しい。
痺れを切らした俺は自分から聞いた。
でも遠まわしに。

「・・花、綺麗だな」
「えっ、・・・・そうかな?」
「・・・・・・・」
「・・じゃあイルカにあげる。持って帰っていいよ」
「えっ」

そうじゃなくて。

そんなつもりは無かったのに、カカシは傍にあった新聞で花を包むと俺に差し出した。
いらないとは言えない。
それに、誰が送ったか分からない花束がカカシの傍にあるより、俺が持って帰ったほう良いかと思えた。

「ありがと」
「・・うん。ねぇ、イルカ、まだ時間いーい?」
「うん、いいよ」

それから俺は面会時間が終わるまでカカシと話した。



帰り道、手にした花のやり場に困った。
捨てるわけにもいかないし、かといって誰かがカカシに送った花を家に持って帰るのは嫌だ。
困った末、寄り道をしてお寺の入り口にある小さなお地蔵さんに花をあげた。




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