言わせたい 19
翌日、まずはイルカの両親に挨拶に行った。九尾の事件で亡くなった者のほとんどは、遺骨が残らなかったので合同の慰霊碑に祀られた。献花して両手を合わせる。
(イルカのお父さん、お母さん。イルカは必ずオレが幸せにします)
真剣に祈ってから目を開けると、イルカはまだ目を閉じて祈っていた。イルカの頬に宿る寂しさや哀しみを見ていると、全力で守ってやりたくなる。
イルカの両親への挨拶が終わると、父さんの石碑の前に立った。ここに立つのは初めてだ。誰か来てくれたのか、枯れかけた花があった。
(誰だろ…?)
先生は亡くなったし、他に親族はいない。思い当たる人がいなくて首を傾げた。
イルカはその花の隣に持って来た花を置いて、両手を合わせた。オレも合わせて目を閉じる。
(父さん…)
今までここに来れなかったことを謝罪した。それから父さんが逝ってしまってからのことを話した。そして、これからのことを話す。
(一緒に住むことになったよ)
目を開けて隣を見ると、イルカが静かにオレを待っていてくれた。
その後、二人で住む場所を見つけて入居した。イルカはそこからアカデミーに通い、オレは任務に出た。
暗部への入隊辞令が正式に下りて、オレは裏の任務を受けるようになった。
このことはイルカには絶対に秘密だ。暗部の掟は厳しく、知れればイルカにも罰が及んだ。
幸いイルカと住む自宅とは別に部屋を宛がわれたので、暗部での事を家に持ち込まずに済んだ。着替えや忍具の用意もそこで済ませた。
二人の生活は順調だった。
しばらくすると、里から災害孤児へ給付金が支給されるようになり、イルカはそこから生活費を入れた。
本当は生活費なんて必要なかったけど、イルカがそうしたいならと受け取った。
そのお金はそのまま貯金して、イルカの将来に役立てることにした。ついでに遺言書も書き換えて、オレになにかあったら全財産がイルカに行くようにした。
「イルカ、オレ明日から任務で家を二週間ほど空けるんだけど…」
「そう。大丈夫だよ。ちゃんと留守番する」
「ウン…」
オレが家を空けるのはしょっちゅうだから、イルカがちゃんと出来るのは知っているけど、それでもイルカを一人にするのは心配だった。
イルカは可愛いから変なヤツに付け狙われるかもしれないし、誘拐なんてされたら一大事だ。誰かに預けることが出来れば一番だけど、ソイツが安全だとは限らない。
考えてみれば、オレに預けたおじさん達は大正解だ。オレならイルカと年も近いし、中忍で安心だっただろう。
(もう一人オレがいたらいいのに…)
こんな時、影分身に任務に行かせたくなる。
でも以前、そうしようとしたのが火影様にバレて、今度したらイルカの後見人から下ろすと言われたから我慢している。
「あ、そうだ」
「なに?」
「オレ、口寄せの契約をしたんだ」
「へぇ…!」
イルカの関心がオレに向いた。好奇心旺盛な眼差しで見つめられてウキウキした。
「見たい?」
「うん、見たい」
「じゃあ、やるね」
指先を噛み切ってチャクラを集めると、「口寄せの術!」と叫んだ。ぽふんと煙が上がり、中から犬が現れる。
「うわ〜、可愛い!」
イルカが手を叩いて喜ぶから、鼻の先が月まで伸びた。
「デショ? パグって犬らしいよ」
犬塚家で見つけた。まだ忍犬として訓練中の子犬だが、オレがいない間イルカの遊び相手に良いと思って契約した。顔は潰れているけど、なんか愛嬌があって良い。
イルカを見ると、犬の頭を撫でたり、抱き上げたりして気に入ってるようだった。
「カカシ、この子なんて名前?」
「え…っと、まだ付けてないよ。イルカが付ける?」
「いいの? んー…、じゃあ、パグだからパックン」
さすがイルカ。ナイスネーミング。
「いーね、良い名前だよ。今日からお前の名前はパックンだーよ」
「よろしく、パックン」
イルカが抱き上げた子犬の鼻にちゅっとキスをした。
(…むか)
微笑ましい光景の筈だが、何故かむかついた。イルカが笑顔でぎゅっと子犬を抱き締めると、むかむかは更に強まった。
「…イルカ、そろそろ子犬のご飯の時間だから帰してあげようか」
「あ…うん、…残念。また遊ぼうな」
「解」
犬が消えるとイルカが寂しそうな顔をしたけど、オレはいっそ清々しかった。
「イルカ、今日は宿題出てないの? 手伝うよ?」
すぐに話題を変えてイルカの気を逸らした。
「あっ、うん。持ってくる」
イルカは心が優しく、何にでも気を許してしまうから心配だ。その優しさが仇になる日が来なければ良いのだけれど。