言わせたい 14


 父さんが任務を失敗した。
 極秘任務中に負傷者が出て、任務を中断して里に戻ってきた。
 その話をオレは別の任務中に聞いたが、深刻には考えてなかった。父さんが任務に失敗したと聞くのは初めてだったけど、他では時々耳にした。
 だけど、里に帰ると様子が違っていた。父さんは任務放棄したとして里から処罰されていた。
 何が起こっているのか理解出来なかった。父さんを慕っていた人達が、父さんを蔑み離れて行く。
 孤立していく父さんに、オレは何も出来なかった。
 処罰されても、父さんには絶えず任務がやって来た。状況は惨憺たるものだった。スリーマンセルを組めばチームワークが乱れ、自ずと任務達成率は落ちた。
 それも父さんのせいにされ、失意した父さんはオレとツーマンセルを組むようになった。誰も父さんと組みたがらなかったせいもある。
「二人で大丈夫だよ。父さん」
「ああ、そうだな。頼りにしてるぞ」
 気落ちしている父さんに、オレは陳腐な言葉しか掛けることが出来なかった。
 任務はそれなりに成功を収めたが、父さんは次第に単独任務を受けるようになった。
「オレも一緒に行くよ」
「いや、カカシは自分の任務に行きなさい」
 父さんが振り返らずに言った。あれほど大きかった背中が小さく見えた。
 やがて父さんは体を壊して家にいる事が多くなった。ただ縁側に座ってぼんやり外を見ている。誰も見舞いに来る者はいなかった。
「父さん、オレは父さんが大好きだよ」
 静かに縁側に座って、月明かりを浴びていた父さんに言った。誰が見放したって、オレはずっと父さんのそばにいる。
「ああ、カカシか。薬を持って来てくれるか? 咳が止まらないんだ」
「父さんっ」
「薬を……」
 こほこほと咳を始めた父さんに、茫然と薬を取りに行った。
もうオレの言葉も届かない。こんなことならもっと早く伝えれば良かった。
 例えばあの時、――イルカ達と花火を見た夜。あの時なら、オレの言葉は父さんの心に届いただろう。後悔してももう遅い。
 そして、父さんは自ら命を絶った。



 雨が降っていた。しとしとと雨が降り注ぐ中、父さんの葬儀に来てくれた人は誰もいなかった。忍が任務以外で自害するなんて、あってはならないことだ。
 葬儀屋が淡々と式を終えて、父さんの遺体を火葬した。骨壺に入って小さくなった父さんを手渡されて、オレは家に帰った。
 誰もいない広い部屋で父さんと対峙する。
 捨てられたのだと思った。オレは、父さんに。
 人が信じられなくなった父さんは、オレすらも信じなくなった。
「どうして!」
 問いかけても、もう答えてくれない。ただ感情だけが入り乱れた。
 苦しい。寂しさや後悔、痛みを感じる感情だけが体の中を駆け巡る。
(こんな感情知らなければ良かった!)
 もっと前、昔のオレならこれほど取り乱したりしなかっただろう。笑ったり、楽しみに反応したりする感情や、オレを可愛いと言った父さんの気持ちを知らなければ。
 イルカ達親子を憎いと思った。
 あの二人に会わなければ、こんな気持ちにならなかったはずだ。
 父さんがオレを捨てたのなら、オレも父さんを捨てる。
 小さくなった父さんを掴むと庭に投げ捨てた。ガシャンと骨壺が割れて、雨の中にふわりと白い粉が舞った。
 あれが掟に背いた忍の末路だ。オレはああならないと心に誓った。



 翌朝、雨は上がって空は晴れた。呼び鈴が鳴って玄関に出ると、四代目が立っていた。
「今日からボクが君の世話をすることになったよ」
「……そうですか」
 家の中に引き返すと、四代目も付いて来た。
 居間に通すと淡々と今後の話がなされた。
「あとこの家の家のことだけど…、独りで住むには広すぎるだろ? ボクの所に来るかい?」
「よろしくお願いします。家は好きにして下さっていいです」
「そう、分かったよ。じゃあ、荷物を纏めてきて」
「はい」
 自分の部屋に入って最低限必要な物だけ荷物に詰めた。思い出になる物はすべてこの家に置いていく。
 居間に戻ると四代目は庭に下りて、昨日オレが投げ捨てた骨壺を拾っていた。欠片を一つ一つ集めて風呂敷に包む。立ち上がった四代目はオレを見ても何も言わなかった。
「じゃ、行こうか」
「はい」
 その日が家を目にした最後になった。






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