言わせたい 12


 イルカの具合を見に毎日イルカの家に通ったが、ある日イルカはクナイのオモチャを見せた。
「かあちゃんに買ってもらった!」
 プラスチックで出来たクナイを指に引っかけると、得意げにクルクル回した。
「カッコイイ?」
 カッコイイ?と聞くのは、最近のイルカのクセだ。髪もあれから天辺に結ぶようになっていた。
「ウン」
 オレが頷くと、イルカはきゃきゃと笑い声を上げた。イルカがクナイを怖がるようになってなくて良かった。
 顔に巻いた包帯は取れたが、傷を覆うようにテープが貼ってあった。抜糸もまだ済んでないし、傷口も塞ぎきってない。
 イルカはそのテープの上から顔の傷を掻いた。
「ダメだよ、イルカ。痕が残る…」
「とうちゃんが傷は男の勲章だって言ってたよ!」
 イルカはまだ幼いからか、顔に傷が残ることに無頓着だった。でもいつかきっと、オレを恨む日が来る。
「…それでも。掻いたら治るのが遅くなるデショ?」
 むーんと口を尖らせたけど、イルカはぱっと顔を輝かせて提案した。
「じゃあ、ボクにクナイの使い方教えてくれる?」
 何がどうなってそうなるのか。
「とうちゃんも、かあちゃんも忙しくて教えてくれない」
 寂しそうに言うイルカに考えた。一人で練習して変なクセが付くよりも、子供の頃からちゃんと教えた方が良い。
「いいよ。その代わり、今度はちゃんとオレの言う事聞いてね」
「うんっ!」
「じゃあ、最初にクナイを置いて」
「うん?」
「指の運動をするよ。一、二、一、二…」
「いち、に、いち、に…」
 クナイを上手く扱うには、指先が器用に動かなければならない。それには日々の鍛錬が必要だ。
「いち、に、いち、に…、おにいちゃん、それから?」
「しばらくこれだけだよ」
「えぇ〜」
 不平の声を上げたイルカに、通りかかったおじさんが笑って言った。
「指の運動だね。懐かしいなぁ。父ちゃんも子供の時やったよ」
「ほんと?」
「母ちゃんもやったー」
 イルカの母が洗濯カゴを持って通り過ぎた。
「じゃあボクもやる」
 イルカが小さな指を懸命に動かす。でも次第に飽きて、むっつり押し黙った。
「イルカ、このクナイ、もう一本ある?」
「うん」
「持って来て」
 ぱっと表情を明るくしたイルカは、すぐに立ち上がって部屋を出て行くと、クナイを持って戻った。
 オレは二本のクナイを手に取ると、柄尻に人差し指と中指を引っかけて、イルカの目の前で左右逆に回して見せた。
「うわぁ〜」
 声を上げたイルカは、目の前でくるんくるんと左右逆に回るクナイのどちらを目で追えば良いのか迷っているようだった。
「おにいちゃんスゴイ!」
「ん。じゃあイルカもやってみて」
「いいの!?」
 イルカがいそいそと小さな指にクナイを嵌めて、回そうとした。だけど二本一緒にすら回せない。
「んっ…んーっ…できない…っ、できないよぉ」
 イルカの目に涙が滲んだ。
「ボク…忍者に向いてないのかも…」
「ちがーうよ。指の練習をすれば出来る様になるよ」
「…そうなの?」
「ウン。急にたくさんやっても上手くならないから、毎日練習するの。出来る?」
「うん。ボク、おにいちゃんみたいになりたいからガンバル」
「えっ、オレ?」
「うんっ」
 イルカは大きく頷いて、指の練習を始めた。
 自分が誰かの目標になるなんて考えた事無くて、ジンと胸が震える。
 イルカはオレを感動させる天才だった。






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