絶対言わない 4
「イルカ」
呼ばれた声の熱さに酩酊した。
唇が重なり、舌が深く入り込む。
絡まる舌は熱くて、意思を持って口の中を動きまわった。
擦り合わせるようにされると下肢に熱が溜まる。
「はっ・・あ・・」
体の奥から性器に走り抜けた快楽に背中が仰け反った。
胸が重なり、相手も裸だと気付く。
「イルカ」
手が胸板を撫ぜ、銀色の髪が鎖骨をくすぐった。
ぴちゃり、ぴちゃりと所々をに舌を這わされ身悶えた。
髪の触れる感触は胸を過ぎ、臍を通って更に下へと降りていく。
期待に心臓が高鳴った。
熱い手が大腿を撫ぜ、屹立したものに息が掛かった。
あの熱くやわらかな口の中に含まれるのを想像する。
だけど期待した感覚はいつまで経っても襲って来なかった。
それもそのはず。
一度も経験したことが無いから、ソレがどういう感覚なのか知らない。
よって、いつまで待ってもソレがやって来る事は無い。
「えっ、なにそれ、え??ええ〜!?」
閉じていた瞼をぱちっと開いて飛び起きた。
「わあ〜〜〜っ!!」
布団に逆戻りして悶絶した。
な、な、な、なんて夢を!!!
間違いでなければ相手はカカシだった。
顔は見てないけど、あの声は確かに・・。
『わ〜〜っ!』
声も無く呻く。
罪悪感と自己嫌悪でどうにかなりそうだった。
俺って最低だ!
そう思う気持ちを体が更に増幅させた。
今にも弾けそうな熱が体の中心でとぐろを巻いている。
「くそ・・っ」
横向きに体を丸めると、布団を深くかぶって朝日から隠れた。
下着の中に手を差し込み、熱の塊を握る。
上下に動かすと、瞬く間に硬く張り詰め快楽を生み出した。
「あ・・くっ・・・」
きつめに扱いて強い快楽を得る。
頭の中に思い浮かべたのはカカシの舌の感触だった。
指の上を這ったカカシの舌を頭の中で再現する。
それから、夢を・・。
『イルカ』
聞いたこともない甘い声を思い出して腰が痺れた。
もし、この手がカカシだったら・・。
「あっ・・!ああっっ」
そう思った瞬間、止めるまもなく射精していた。
快楽は今まで感じたこともないほど深く、長く続く。
詰めていた息を吐き出してもしばらく動けなかった。
嫌悪感は目が覚めたときの比ではなかった。
支度をして、早めに家を出た。
朝の道をとぼとぼ歩いてカカシの家に向かう。
カカシはあれで繊細だから、他人が使ったものを好まない。
入院中に必要な物や着替えを持ってくるように言われていた。
持っていた鍵で玄関を開けると部屋に入った。
カカシの部屋に来るのは久しぶりだが相変わらず何も無い。
大きなベッドに掛けられた手裏剣模様の布団カバーに笑みを浮かべた。
まだ使ってくれてる・・。
贈ったときは変な柄だとか散々言ったのに、案外気に入ってくれてるのかもしれない。
起きて抜け出た形のままの布団を整えて、少しだけ、と顔をうずめた。
ふかふかの布団の中にカカシの匂いを探す。
昔はよく一緒に寝たのに、いつからそうしなくなっただろう。
カカシに里外任務が増えて俺が中忍になるとめっきり会う機会が減った。
時折会うたびにカカシは逞しく、大人になっていった。
カカシの周りには俺の知らない人が増えて、少し遠い人になった。
・・・・もう、女は知ったのだろうか・・?
刹那、胸を切り裂くような痛みを覚えた。
知らないはずが無い。
カカシの年齢を考えると、男なら知らない方がおかしい。
だけど、
カカシは時々俺に甘い夢を見させた。
もしかしたら、カカシも俺のことを好きなんじゃないだろうか・・?
冗談とも本気ともつかない強い抱擁や触れ合いにそう感じることがある。
それともあれはただ、弟を可愛がるようなつもりなのだろうか・・?
はぁっと息を吐くと顔を上げて立ち上がった。
考えたって答えは出ない。
タンスを開けると、着替え代わりのアンダーや下着を袋に詰めていった。