絶対言わない 25


もやもやの正体に気付いたのは夜も更け、カカシの腕の中でまどろんでいる時だった。
差し出された腕に頭を乗せ、胸に額をくっつけて眠る。
うとうとしながら今日の出来事を振り返り、不思議に思った。

どうして彼女はカカシに頼まれていた花束と同じ花束を俺に渡したんだろう・・?

カカシの好みを考慮してのことかもしれない。

カカシがああいう感じの花束が好きだと思ってそうしたのかも・・。

だけど違う気がした。
彼女はあの花束がカカシから俺に渡っている事を知っている。
それにきっと彼女はあの花束がカカシからだと、俺が気付いてないことも知っている。
花をお地蔵さんのところに置いてるところを見られているし、そのことを彼女に謝罪した。
あの時は意味が分からなかっただろうけど、後でその可能性に気付いただろう。

それなら・・。

俺が彼女だったら絶対同じ花束なんかにしない。
カカシに渡せばすぐに疑問に思うだろうし、誤解を解くきっかけにもなる。
彼女だって俺がカカシを好きなこと知ってる筈だ。

相手にチャンスを与えるようなことをなぜ・・?
あの花束の意味は?

次第に冴えていく頭の中で考える。
そして、答えにようやく気付いた。

――つけられた。

ざっと血の気が下がった。
彼女がわざわざあの花束にした理由、それはあの花束なら俺が捨てられないからだ。
お見舞いだと言われれば、俺は花をカカシの元へ運ぶしかない。
別れた後、彼女が俺の後をつける姿が容易に想像出来た。
そもそも、カカシの居場所を隠しておきながら、お見舞いの花を持って帰るなんてものすごく単純な手に引っかかってる。

俺って馬鹿・・?

いくらカカシのことで頭がいっぱいだったからといって、今頃そのことに気付くなんてあまりに情けなくて自己嫌悪でいっぱいになった。

「・・どうしたの、イルカ。眠れないの・・?」

頭を抱えると突然声を掛けられて震えそうになった。
こんなことカカシに知られたくなかった。
カカシなら彼女がつけて来たことに気付いてるかもしれない。
だけどカカシは俺が彼女に嘘を吐いた事を知らない。
今なら、ただ俺が彼女につけられた、ということだけで済んだ。
卑怯にも俺は口を閉ざすことで真実を隠した。

「イルカ・・?」
「・・・なんでもない・・」
「そう・・・?」

頷くとカカシの腕が背中を囲う。
引き寄せられて泣きたくなった。
俺は忍びとしてあまりにも未熟だ。

俺ってこのままカカシの傍に居ていいのかな・・。

俺はカカシにふさわしくない気がして、なかなか眠りはやって来なかった。






結局一睡も出来ないまま夜を過ごしたが、空が白む頃、一つだけ決心してやっと心が落ち着いた。

『強くなろう』

もうカカシにも誰にも嘘を吐いたり隠し事をしなくていいように。
何かを偽るのはあまりにも疲れる。
それが任務ならともかく、俺はカカシにはそういったことが出来ないようだった。
カカシの傍ではありのままの自分でいたい。
良く思われたくて自分を大きく見せようとするから無理が生じていた。
カカシはこんな俺を選んでくれたと言うのに。
本当は、自分が彼女より劣るからこんなにも不安になるのだと心のどこかで気付いていた。
彼女はカカシと同じ任務に就けるほど力があり、それに誰が見ても綺麗だ。
そのことに俺は最初から気後れして向き合えずにいた。
目を背けても、その事実は変わらない。
だったら俺が強くなるしかない。
心も体も強く、すぐに不安になったりしないように。
もっと修行をしよう。
授業中は子供たちと一緒に、空き時間は図書館に篭って一から兵法を勉強しなおそう。
それから時々は任務に出させて貰おう。
今は教師見習い中で任務が回ってこないが、休みの日なら許されるだろう。

そうやって段取りを決めていくと、やることが明確になって胸がすっきりした。
ほうっといつの間にか強張っていた体から力を抜いて時計を見上げれば、起きる時間にはまだ早かった。
少しだけ寝ようかと考えながら、カカシを起こさないようにじっとしながらその寝顔を見つめた。
朝の光にすうっと通った鼻筋が浮かび上がる。
睫が頬に影を作るのを見て溜息を吐いた。

大体、カカシがモテるのがいけないんだよな。
俺なんか一度も女の子から告白されたことなんてないと言うのに。
まあこれだけ綺麗な顔をしていて実力もあれば、女の人が放っておかないのも分かる気がするけど・・。
だからと言って、誰にも譲る気は無い。
カカシは俺のそばにいれくれないと困る。

「カカシ、好きだよ」

唇だけ動かして、声にしないで言った。
それで満足する筈だったのに、

「オレもだーよ」

返ってくるはずの無い答えに飛び跳ねた。

ね、寝言!?

だったらいいのに、唇に笑みを浮かべたカカシがぐんと迫って抱きしめられた。
顔を覗き込む目がぱっちりと開いていて、恥ずかしさに頬を染めた。

「お、起きてたのか!?」
「イルカ残してオレだけ寝れるワケないデショ?」

んふふーっと笑うカカシに口をパクパクさせると額がこつんと合わさった。

「イルカ、だあいスキ」

甘い声で言ったカカシにすぐさま唇を塞がれて、んっと息を飲み込む。
つつんと舌先で唇を突付かれて、薄く開くと口吻けは深いものに変わった。
柔らかく絡められる舌が気持ち良い。
服の下に滑り込んだ手にビクッと体を震わせると、「少しだけ」とカカシが口吻けの合間に囁いた。
暖かな手が背中やわき腹を撫ぜる。
カカシとはここに来た最初の日に体を触れられて以来、エッチなことはしていなかった。
思い出に残る初夜にしたいからと頬を染めて言うカカシに俺も賛同してそう決めたから。
カカシの唇から漏れる息が熱くなってドキドキした。
カカシの興奮を感じる。
初夜は抜糸した日と決めていたけど、熱心に体を触られて流された。

「カカシ・・」

スルの?と目で問いかけた。
一度際どい事をされて、心の準備だけは万端だ。
だけどカカシは残念そうな顔をすると唇を離した。

「あと3日の我慢だもんネ」
「・・・・・・・・・・・・・・うん」

そこまで我慢する意味ってなんだろう・・?

ちょっとだけ思った。

もう、早く抜糸したらいいのに。




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